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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第7章 DRAGON SLAYER

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白熱のブリーフィング

 ヴィレオセアン総首領であるパトリシア=ジルベルスタインが所有する屋敷は、各国からの要人で賑わっていた。

 その大会議室に集まってきたのもまたそうそうたるメンバーだ。


 アインビスト国王、ゲルハルト=ヴァテクス=アンカー。

 ポーンソニア王国騎士団長、ローレンス=ディ=ファルコン。

 クインブランド皇国騎士団副長。

 ビオス宗主国神殿騎士大隊長。

 フォレスティア連合国陸軍大臣。

 そして、ドリームメイカー国王ドリアーチ。


「まずは、我が国の呼びかけに応えていただいたこと、感謝を申し上げる。今日この場においては来春における遠征に向けての事前情報の共有を行いたい」


 パトリシアが切り出した。円卓で彼女の隣に座っているのはヴィル=ツェントラ市長である。文官や秘書官は彼女の後ろにある長机についている。

 他国も同様で、代表者は1名か2名が円卓につき、補佐たちはその背後にいた。


「ちょっと待て」


 するとゲルハルトが早速手を挙げる。


「……なんでここにシルバーフェイスがいる?」


 壁際のイスにひっそりと座っていたのはヒカルである。今日は銀の仮面をつけたシルバーフェイス姿だ。

 ヒカルの代わりにドリアーチが答えた。


「彼の者はドリームメイカー復興への最大の支援者(パトロン)です」

「パトロンだぁ? 情報を盗みに来たか、場を引っかき回しに来たかの間違いじゃねえのか」

「彼ほど能力があれば姿を見せる必要がないことは獣人王もおわかりではありませんか?」

「ふん……」


 それは事実だった。わざわざヒカルが姿を現しているのは「他意がない」ことを示すためである。

 別にこの会議に参加する必要はなかったのだが、どうしても発言が必要になりそうな案件があったのでこうしてやってきた。

 ゲルハルトはそれで矛を収めたが、ビオスの神殿騎士大隊長はいまだヒカルをにらみつけていた。

 40歳を過ぎたくらいの薄い顔をした男だが、額には青筋が走っている。


(そう言えばビオスの教皇の部屋に入って、大騒ぎ起こしたっけ)


「聖魔武具」である「断絶の刃」を見せつけるために教皇の部屋を破壊したのは「大騒ぎ」では済まないレベルではあるが。

 神殿騎士からすると、彼らの警備をすり抜けてそんなことをやられ、さらには取り逃がしているのだから殺しても殺したりないほど憎いのだろう。


「ではグランドリーム大陸について、ドリームメイカーに説明をしていただこうか」


 パトリシアが水を向けると、ドリアーチがうなずいた。

 報告するのはドリアーチではなく文官のようで——若い男が立ち上がり、話し始める。新大陸の情報はここにいる多くの人間にとって初耳なので、みんな聞き耳を立て、書記官はペンをすごい勢いで走らせた。

 だが改めて聞いてみるとなかなか絶望的な話ではあった。

 グランドリーム大陸の広さはこちらの大陸とほぼ同じか、若干小さいくらいである。南部に一部の荒野が広がっているが、それ以外は密林によって覆われている。

 起伏があり、ところどころに山脈が連なっている。特に北部は険しい山嶺が続いている。

 モンスターは南部の荒れ地以外すべてに分布している。モンスターの強さは、こちらの大陸で実戦を行ったドリームメイカーの国民が言うには、「ここのモンスターはグランドリーム大陸とは比べものにならないくらい弱くて、楽です」。

 ルーツと呼ばれるモンスターの活性を高めるスポットがあり、これが密林には点在している。ルーツは北部に向かうほど密集している可能性が高く、最北端には超巨大モンスターがいるという伝承が残っている——。


(邪に連なる者の話や、コウキマルのことは話しても複雑になるだけだからな。問題を単純化したのはいいことだ)


 聞きながらヒカルは思う。

 文官は話を続けた。

 こちらの世界にあるような精霊魔法に関する適性がドリームメイカーの国民にないのでわからないが、魔法の使用は問題ないようだ。

 食材調達の問題もあり、汚染されているモンスターもいるためにそれらの肉は食べないほうがいい。

 ただし、ルーツには竜石と呼ばれる高純度の魔素結晶があるので、これはこちらの人間が欲しがるものではないか——。


「竜石ですと? どの程度のものですか」


 フォレスティアの陸軍大臣が反応した。口ひげを蓄えた頭の禿げ上がった男だ。

 すると文官がサンプルを5つ、取り出した。ビオス、フォレスティア、クインブランド、ポーンソニア、アインビストへとそれぞれ提供する。

 小さな袋に入っているそれを出してみると、親指程度の欠片が入っている。


「ヴィレオセアンにはすでにお渡ししていますから、各国の皆様はそちらをお持ちいただいて結構です」

「これは……!」


 ビオスの大隊長が絶句する。


「信じられない。これほどの高魔力が込められているとは……高純度の魔素結晶というのは確かに、あり得る話だが……ほんとうにそのルーツとやらが大陸中に散らばっているのですか」


 薄い造りの顔を紅潮させながら大隊長が言う。


「はい。実際の大きさは、両腕でも抱えきれないほどだと聞いています」

「なんと……」

「我々が魔石と呼び、こちらでは精霊魔法石と呼ばれるものの採掘場もありますが、そこでもルーツほど大きい魔石は採れません」


 そこまで話した文官の後を、ドリアーチが引き取った。


「討伐にあたり、攻略したルーツの竜石は、戦果として各国の取り分としていただきたい」


 室内がざわつく。パトリシアとはこの条件について協議済みだったので彼女は涼しい顔だ。

 魔石は小さく魔力の低いものは数百ギランから取引されているが、大きく、高い魔力のものはほとんど出回らず高騰しがちである。


「ちょっと待ってください。我が国は200人しか来ておりません。それでは不利ではありませんか」


 神殿騎士大隊長が不満の声を上げると、ゲルハルトが鼻で笑った。


「不利だと? 笑わせんな。てめぇらは自分たちの身を護ることばかり考えて人を出さなかったんだろぉが」

「……失礼ながら獣人王陛下、我らが警戒したのは貴国ですぞ。今回の出兵に貴国がどれほど関与するかわからなかったから——」

「そんなら俺様がいない間に、ウチを攻めるか? やれるもんならやってみろや」

「なっ!?」

「できるもんならな。なんせ俺様が国にいないんだぞ? 絶好の機会だろうが」

「————」


 元々犬猿の仲の2国だ。見え透いた挑発だが顔を赤くして大隊長が歯ぎしりしている。対してゲルハルトは「ちょっとからかっただけ」みたいなすまし顔だったが、横からゴットホルトに肘打ちを食らっている。

 ため息交じりにパトリシアが口を開いた。


「もしも追加の出兵をしたいのであれば第2陣に加わっていただくことができる。あるいは1月までに来られるのであれば第1陣でも対応しよう。冬の行軍はあまりお勧めできないが」

「……パトリシア総首領、感謝する」


 ビオスの大隊長はようやく平静を取り戻してうなずいた。

 竜石の包みを渡しながら神殿騎士のひとりを部屋の外へ出したところを見ると、大急ぎでビオス宗主国に戻らせ、教皇の意見を聞きに行かせたのだろう。


「ゲルハルト殿も、ほどほどにな」

「なんのことだ?」


 パトリシアがちらりと見ると、ゲルハルトは相変わらず素知らぬ顔で、ゴットホルトが深々と頭を下げている。すでにゴットホルトが獣人王のお目付役だというのは各国共通の認識らしい。


「ときに、移動はすべて船だということだが、聞いたところ、そこにいるシルバーフェイスは移動時間を短縮できる方法を持っているとか」


 ローレンスが話題を振ってきた。


(意外なところから聞かれたな)


 移動方法についての話は確実に出るだろうと思っていたし、それについてヒカルが避難民を徒歩で(・・・)移動させたことも議題に上がるだろうとはわかりきっていた。

 だからドリアーチからは「先にこちらから説明しましょう」と言われ、ヒカルも同席したのだが——まさかローレンスから先に言われるとは。

 ヒカルは小さく手を挙げた。


「『剣聖』殿がそのようなことをご存じとは、恐縮だ」

「からかうな。お前は私に勝った男だろう」


 ローレンスの言葉に——冗談もなにも込められていない、事実を淡々と述べただけの言葉に、室内がシンと静まり返る。

 ローレンスの後ろにいた他の騎士が頭を抱えているあたり、「それは言わない約束でしょう!」とでも言いたいのだろうか。確かに、ポーンソニアの最高武力たる「剣聖」が「誰かに負けた」なんて話が伝わるのは百害あって一利なしだ。


「ほう……シルバーフェイスよぉ、てめぇは『剣聖』にも勝ったのか」

「も、と言うことは、獣人王陛下もシルバーフェイスと戦ったのですか」

「……アレは戦ったとは言わねぇ。さんざっぱらバカにされただけよ」


 枕元にナイフを置かれたり、王座に勝手に座られたりしたのだから、それは「さんざっぱらバカにされた」と言われても仕方がないだろう。

 ほんとうか? という目でローレンスがヒカルを見てくる。


「えーっと、まあ、必要に応じて?」

「……人をバカにするのはよくないことだ」


 当たり前のことをローレンスに諭された。


「それは置いておいて、話を戻していいか? 新大陸との移動に使った方法は、もう使えない。今後使える可能性はないではないけど、今は使えないので候補に入れるのは現実的じゃない」

「なんらかの使い切りの魔道具か」

「うーん……それに近いけど、使うにあたってのエネルギーも足りないんだ。その高純度の魔素結晶の『巨大竜石』を使い込んでようやく1回できたくらいだし、もう手元に『竜石』はない」


 ヒカルの説明でわかったのか、ローレンスは引き下がった。

 魔術に詳しい人間ならばなおのことわかりやすかったのだろう。それほどにあそこの「竜石」は高い魔力を有している。だからこそ「竜石を使い切ったからできない」と言われれば引き下がらざるを得ない。

 ヒカルからすれば「コウのエサ」であり、「魔法で誘爆できる巨大な爆弾」という位置づけではあるのだが。


「こちらがルーツに関する資料です」


 すでに用意しておいたルーツの情報を、ドリームメイカーの文官が配る。みながそれに目を通していると、


「……ひとつ、うかがいたい」


 それまで黙っていた、クインブランドの騎士団副長が手を挙げた。長い銀髪を後ろでひとつにまとめている美丈夫だ。女装したら似合いそうだなとヒカルはどうでもいいことを思った。


「向こうの大陸の魔物が、それほどに強いものだというのがイマイチ信じられぬ」

「さようですな。どれほどのものか正確に見積もることができねば、この冬の調練が無駄になるかもしれん」


 騎士団副長に、フォレスティアの陸軍大臣も同調する。


「そう言うと思い、今日はひとつデモンストレーションを用意している」


 パトリシアが目配せすると、ドリアーチがうなずいた。


ちょいちょい気分転換で書きためていた新作がぼちぼちの物量になってきたので、明日の夜あたりから徐々に投稿していこうと思います。

もしよければそちらもご覧くださいませ。異世界転生×学園ものです。

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