少年冒険者の動向
ヒーロー文庫の人気タイトルの1巻が電子書籍100円セールだそうですよ、奥さん!
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12/21(金)~1/7(月)
な、なんだって!?「察知されない最強職1」も100円で売ってるんだって!?
ちなみにどこの電子書籍サイトでも100円なのかどうかはわからないので気をつけてね!
ヒカルやラヴィア、ポーラが宿に戻ったのはその日の夕暮れどきだった。
1日、博物館に拘束されたことになる。
これには理由があって——、
「ま、とりあえずこの『詩集』を確保できたのはよかったかな」
ヒカルの手元には正真正銘、「アレグロ王の宝物箱」に入っていた羊皮紙があった。
結局、ヒカルの要望である「中身をくれ」というものは通った。
どう考えてもこの羊皮紙に200万ギランの価値はない。200万ギランという金額は、この世界だと新築の一軒家をいくつか買えるような金額だ。
博物館側もヒカルの主張を受け入れざるを得なかった。
ただ「中身を調べる権利」が博物館にはあるので、文字だけでなく筆跡からなにから写し取りたいと言い、ヒカルもそれには同意した。
「それで……どうしてこんな羊皮紙1枚を手に入れたのかそろそろ教えてくれる? わたしたち、ほんとうはお金稼ぎをしていたのよね?」
買ってきた食事をテーブルに広げながらラヴィアが言う。
「そう怖い顔しないでよ。確かに200万ギランの価値がある、とはなかなか言えないよな」
「でもヒカル様は価値があるって思われたんですよね? あっ、まさか、アレグロ王にまつわるものを収集するコレクターが高値で買い取ってくれるとか!」
「面白い発想だけどそうじゃないんだ」
ポーラが淹れてくれたお茶を飲んで、ヒカルは言った。
「これはアレグロ王の財宝がどこにあるかを示す、宝の地図なんだ」
「……はい?」
「……地図、と言ってもどこにも書いてないですよね?」
ヒカルは羊皮紙を広げる。
「まず最初のほうのフレーズにある『帆を張り出航の金鐘を鳴らせ』というところだけど、鐘を鳴らすのはわかるけどわざわざ『金鐘』って? 金の鐘なんてふつうないよな? そして次、『我らは歴史ある大海原に進む処女航海の船団』も引っかかる。『歴史ある大海原』なんてのは意味不明だし、それに『処女航海』の部分。船団なのに『処女航海』なのかと。これらは『歴史』つまり『今までのこと』、『処女性』つまり『手つかず』という意味かと思う。『今まで貯め込んだ、手つかずの金塊』というのを暗に示しているように見える」
「うーん……そう言われると、そう、かな?」
「うん、これだけだとこじつけに聞こえるかもね。でも最後のパラグラフだけど、『我が栄光はこの手にあり』——『この手を取るなら』『静かに眠る我の元へ至る』とつながっているところを見ると、『アレグロ王の遺体とともに財宝が埋められている』と取れる」
「お墓……ってことですか?」
「墓と呼んでいいかはわからないけど、ひとつの事実として——アレグロ王の晩年は歴史に残っていないはずなんだ。彼がどこでどう死んだのか、謎に包まれている……この羊皮紙は、彼の最期の居場所につながるなにかを示していると僕は思っている」
* *
パトリシアは毎日を忙しくしていた。今日も今日とて朝から多くの書類が持ち込まれ、分単位で面会や会議が設定されている。
今は秘書官と、山と積まれた書類を処理していた。
「——それじゃ、今日はドリアーチ王との昼食会はナシで、代わりにお茶会ってことか」
「はい、そうなります。ビオス宗主国からの使者がかなり強引にねじ込んできまして……」
「まあ、それは構わないさ」
パトリシアはほぼ毎日、ドリアーチと会って情報交換をしている。彼女が狙っているのはもちろんドリアーチたちの持っている進んだ魔術知識であり、ドリアーチが欲しているのは国民の安全だ。
だが、パトリシアにとって最大の交渉材料になったはずの「滞在費用」についてはなんとシルバーフェイスが初期費用の大半を肩代わりしてしまった。
さらには日々の生活費も、ドリームメイカーの国民が稼ぎ始めており、金銭面ではパトリシアがクチバシを突っ込める隙がない。
「土地の提供、周囲の警備、受け入れ態勢を整える……ウチが出せるのはこんなところだけど、そのどれもヴィレオセアンにしかできないことでウチに優位性がある。今さらビオスが金を積んだところでなびかないさ」
「左様でございます」
「しかし、しゃくに障るのはシルバーフェイスだよ。あいつ、あんなに金を持っていたとはね……」
「しかも数千人を移動させるとてつもない魔道具を所持しているわけですから」
「それだよ」
ドリームメイカーの難民をシルバーフェイスが運んだことは調べがついている。だが、その方法がわからない。
難民たちは口々に「トンネルを抜けた」と言っているが、後になって調べてもトンネルなどどこにもなく、埋め直した跡もない。
さらに言えば船でやってきた時間と、徒歩でやってきた時間とが合わないのだ。どう考えても徒歩半日で越えられる海ではない。
「シルバーフェイスの行方はまだつかめないのかい」
「はい。ふっつりと消息が途絶えております」
「忌々しい……」
ふー、と息を吐いてパトリシアはイスの背に身体をもたせた。
不愉快そうにしているパトリシアへ、苦笑交じりに秘書官が話題を変える。
「総首領、昨日の少年冒険者の件ですが」
「ああ。200万ギランで紙切れを買った変わり者ね」
パトリシアの表情が和らぐ。
「おや、ずいぶんと総首領はあの少年を気に入ったようですね」
「そりゃあそうだろ」
彼女としては200万ギランという金を払わずに済み、さらには宝石によって莫大な利益をもたらした幸運の少年であった。
このふたりが同一人物であることなど、まったく思いもしない。
「今日は国立図書館に行って、アレグロ王について調べているようです」
「ははっ。直筆の文書を手に入れて興味が湧いたのね」
すでに昨日、博物館での筆跡鑑定であの羊皮紙に書かれた文字がアレグロ王本人のものであろうことは判明している。
「ゼルゼ岬の貧農から身を立て、ついには万を超える軍勢を率いて王国を建国した英雄だもの。その本人の手による文書は他にふたつとない代物さ」
「ええ……まあ、そうですね」
「……なによ、歯切れが悪いじゃないか。どうしたの」
「それがどうもあの少年は、アレグロ王のことをよく知らなかったようで、初歩の初歩である歴史書から順に読んでいるようです」
「ふぅん……?」
「200万ギランを捨ててでも欲しがった割りに、ちょっとおかしいかな、と」
「…………」
立ち上がったパトリシアは窓から外を見る。
ヴィル=ツェントラの港が一望できる。海面はきらきらと陽光を反射しており、漁船が行き来している。
「『半島に突き出たあばら屋こそ我が出発点』……」
「は? 今なんと?」
「もしかすると、あの詩には詩以上の意味があるんじゃないか?」
「と、おっしゃいますと……」
「宝物箱だよ! あんな宝物箱に、仰々しくしまっておくような代物かい、あの詩は!?」
「そう言われますと……確かに、紙切れ1枚というのは腑に落ちませんな」
「つまり——」
真剣極まりない顔でパトリシアは考え込む。
「そうだ…………アレグロ王の財宝だ。財宝を示す手がかりなんだ、あの詩は」
「財宝……ですか?」
「ふ、ふふふ……ははははは。そうか、あの少年はすぐに気がついたんだな、あの詩こそが財宝への手がかりなのだと。だから羊皮紙を欲しがった。詩を写させてくれなどと言えば『詩』に意味があると気づかせてしまう可能性がある。だから『アレグロ王の直筆の文書に価値がある』と主張した。その後、私たちが動きを見張らせるとは思っていなかったようだけどね!」
「ということは、あのヒカルという冒険者は財宝を探すために図書館へと?」
「そうに決まってる。でなければ200万ギランを捨てるわけがない! ——いい? 今日中に調査団を編成するのよ。すぐにゼルゼ岬にあるアレグロ王の生家へと向かいなさい」
「む、向かってどうするのですか」
「わからないの?『半島に突き出たあばら屋こそ我が出発点』とちゃんと書いてあるじゃない。『東に墓地があれば西に地獄の穴が開く』ってことは、生家の東にある墓地をまず見つけ出し、その対となる西側に洞窟や井戸、それに類するものを探すの。『日の出は航路を示すだろう』とあるのだから、日の出のタイミングでなんらかの手がかりが示されるはず! ——急ぎなさい。明日の夜明けには間に合わせて。冒険者ヒカルが街を出ようとしたら理由をつけて1日は足止めしなさい」
パトリシアは檄を飛ばした。
「本物の、アレグロ王の財宝を手に入れるのはこの私よ!」





