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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第6章 スパイ大戦争

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撤退戦の様相

「だ、大丈夫ですかラヴィ——スターフェイスちゃん!」


 よろよろと現れたラヴィアを抱き留めたポーラがその背中をさすると、襟巻き代わりになっていたコウがひょろっと出てきた。


『だいじょーぶじゃないと思うぜー』

「コウちゃん! 起きたの——それよりもどうしてスターフェイスちゃんが? まさか魔力切れ——」

『や、走り疲れたらしい』

「……あ、そ、そうなんだ。じゃあ休もうね……」

「ぜぇ……ぜぇ、ぜぇ……」


 冒険者として活動しているとはいえ、まだまだラヴィアのスタミナは一般人レベルからはほど遠い。

 それを、徹夜で活動し、明け方に長距離ランニングしたとなればへろへろになるのも仕方がないことだろう。


「はぁ、ぜぇ……シ、シルバーフェイスは……?」

「あ、はいっ。さきほど来てくださいました!」


 ポーラが指差したのは城壁の上、ヒカルがちょうどリヴォルヴァーを構えたところだった。

 ドンドンッ、ドドンドンドン——まるで無造作に引き金が引かれると、巨大な炎の塊が飛び出して城壁の下を焼いていく。

 火力が強すぎて、炎の壁が立ち上るようになってヒカル自身が驚いてのけぞっている。


『な、なんなんだあれは……!?』


 震えるようにルーデンドが言ったそこへ、ラヴィアが、


『あれが魔法の威力よ』

『なに!? あんなもの、卑怯だろう!?』


 卑怯なのはあの「全能の筒(リヴォルヴァー)」の性能なのであって精霊魔法ではないのだが。


『これでわかった? 魔物の邪魔が入らず、あなたたちが真っ当に(・・・・)叛乱を起こしても、わたしたちが国王側についている間は叛乱が成功する可能性はほとんどなかったってこと』

『くっ……しかしブラストキャノンをすべて使えば——』

『そのときはこの国が廃墟になるときよ』


 規模こそ違えど、この戦いは核戦争に似ている。お互い脅威となる武器を持っているがその武器(カード)を使ってしまえば後にはなにも残らない。

 だからこそ各国は外交によって戦う。武力ではない経済や価値観の交渉によって相手の譲歩を引き出す戦争(・・)を行うのだ。


『……私がなすべきは、叛乱ではなく、交渉だったということか』


 すぐにもそこに思い当たったルーデンドはやはり、地頭のよい人間だったのだろう。

 だが、ラヴィアは書物から、ヒカルは日本にいたときの知識から学ぶことができたが、この国には先例があまりにも少ない。

 がくりと膝を地につけたルーデンド。今の今までは時機が味方すればこの国を変えることができたと本気で考えていた。モンスターが攻めてきたのは単なる「不運」だったし、自分のやり方は間違っていないのだと信じていた。

 だが——ようやく目が覚めた。

 叛乱という熱狂の夢から覚めてみると、自分のやろうとしていたことも結局のところ自らの欲望を満たすためだけでしかなかった。

 ほんとうに国のことを考えるのであれば、確かに、交渉と協議で解決すべきだったのだ。


『スターフェイスちゃん……』

『放っておこ。ちょっと時間をあげたほうがいいみたい』


 ラヴィアはルーデンドを放っておくことにした。

 とそこへ、ラヴィアに気がついたドゥインクラーがやってくる。


『スターフェイス様! ご無事でしたか』

『ここから撤退よ。城壁の上のケガ人も連れて、逃げましょう』

『撤退……ですか』

『当然。そのあたりはすべて王様もご存じだから』

『そのとおりです』


 ドリアーチがうなずいた。


『シルバーフェイスの帰還まで粘ること。彼が大魔法で薙ぎ払うこと。それからの撤退はすべて段取り通りです』

『なんですって!?』

『驚くのは、まあ、後にしてください。私もここまでうまくいくだなんて考えていませんでしたから』


 苦笑しつつドリアーチは命令を下した。


『ケガ人の回収を! その後、ブラストキャノンを撃ち込む最低限の人数だけ残して撤退します!』




『う……』


 全身に痛みを感じ、失神から目が覚めたゴルジアが見たのはうっすらと青い空だった。周囲では兵士の駈け回る音が聞こえてくるから、まだ戦闘中であるのは間違いない。

 先ほどシルバーフェイスに竜ごと落とされて、その後の意識を失っていた。


『クソ……』


 脇腹が痛く、左腕に力が入らない。数カ所、骨にヒビが入っているか骨折しているようだ。

 それでもなんとか上体を起こすと、少々離れたところに竜が落ちているのが見えた。ぜぇぜぇと息をしているが翼もちぎれており、飛ぶことはおろか起き上がることはできないだろう。


『……まだ生きていたか』


 ゴルジアの元へひとりの男がやってきた。


『チッ。なに勝ち誇ってやがる。俺を殺したところで最後にはアンタらは全滅する運命なんだよ、ルーデンド』

『なぜ貴様はモンスターと手を組んでいる。手を組むことができた』

『コウキマル様がそうしろとおっしゃったからだ』

『!』


 シルバーフェイスがジン、ワカマルとともに持ち帰った情報——この街を追われたコウキマルが生きているという情報を、ルーデンドもつかんでいた。

 だけれどルーデンドはたいして気にもかけていなかった。

 彼にとっては叛乱を成功させることがいちばん重要だったからだ。


『そうか……街を追われたコウキマルはまだ生きていたか』

『おいおい、まさか俺たちのせいでアンタの叛乱が失敗したとか眠たいこと言うつもりじゃねえだろうな? アンタの叛乱なんて最初からどうでもよかった。小さいことだ。俺たちはこのドリームメイカーをすべてぶっ壊すつもりだったからな』

『壊してどうする。壊してどうなる。モンスターのはびこる土地で生きていくことなどできない』

『ハッ……だからアンタたちは頭が固いっていうんだ。もうひとつ方法があるだろうが。俺がやった方法——モンスターを利用して生きるんだよ』

『なに?』


 ルーデンドが知っているのはコウキマルもまた王制を批判し、この国では生きていけないからと叛乱を企て、事前に露見し、追い出された——自ら出て行ったということだけだ。

 それが、どうして街を破壊するなどという目的にすり替わっているのか? 力を背景に王制を排除するような行動ではなく、破壊になってしまったのはなぜなのか?


『モンスターを利用するなどという話は聞いたことが……ない』

『そりゃそうだろう。コウキマル様が街を出たことで至った、新たな境地なんだから。おかげで俺たちもこのとおり、モンスターを使える!』

『……だが、貴様は負けた』

『負けてねえ! あのシルバーフェイスとかいうわけのわからねえ野郎がいなければ……!』

『西海を渡ってプリミーヴァルに渡った貴様が、魔法や、シルバーフェイスを軽視するとは笑えない冗談だな?』

『くっ』


 あらかじめ注意すべききっかけはあった。にもかかわらず、竜の力を盲信し、攻撃を決行したのはゴルジア自身のミスだ。

 その自覚があるからゴルジアも悔しげに唇を噛む。


『んで……俺を殺しに来たのか』

『…………』


 ルーデンドは無言で首を左右に振ると、懐からナイフを取り出してゴルジアに放った。地面に転がった刃を見つめるゴルジアに告げる。


『せめてこの国の民として死なせてやる。その刃で自らの命を絶て』

『なっ……』


 叛乱者としての自分と、モンスターを引き込んだゴルジア。同じような境遇ではあるがゴルジアのほうが圧倒的にタチが悪いと言えた。

 ゴルジアは、軍人どころか一般市民、国民全員をターゲットにしているからだ。


『……くっ』


 ナイフをつかんだゴルジアは、


『くっくくくくくっ、あははははははは! バカじゃねえのか、お前は! 今さらこの国の国民であることにプライドなんてひとっつも感じてねえよ! お前が先に死ね!』


 まだ立ち上がって、目の前の男に刃を突き立てるくらいの体力は残っていたようだ。

 ゴルジアが踏み込んで来るのを、ルーデンドは驚きもせず、淡々と見据えている。

 なにか妙だ、と思ったがゴルジアがやるべきはそのままルーデンドを殺すだけだ。どのみち自分の命だって今回のモンスター侵攻でもつかどうかは怪しいものだと思っていた。ルーデンドを道連れにできるなら御の字だ。


『——ぐぶっ』


 くぐもった声を漏らした——ゴルジアが。

 背後から首を伸ばした竜に、横っ腹を食いつかれていたのだ。

 これにはさすがに驚いたらしいルーデンドは目を見開いた。


『ごぼっ、て、てめ……な……』


 ゴルジアの瞳から生命の光が失われる。竜はただ、本能の赴くままにゴルジアの身体を食い始めた。


『……モンスターを利用、か。利用していたのはどちらのほうか』


 ルーデンドは竜を無視して歩き出す。もうここに用はない。

 あのまま刺されて死ぬだろうとは思っていた。ルーデンドはこの戦いか、この戦いの後か、どっちにしたところで命を落とすことになるだろうと予測していたのだ。だから、刺されて死んでも惜しい命ではなかった。

 ただ——ゴルジアがなぜこんなことをしたのか、聞いておきたかったのだ。

 モンスターを利用した方法はわからずじまいだ。


『似て非なるものだったな……私の理想と、ゴルジアの考えとは』


 振り返ると、殺到した兵士が竜に槍を突き立てている。竜はあっけなく絶命した。

 城壁の上の兵士も撤退を始めておりシルバーフェイスの姿はすでにそこになかった。


『できうる限り、この国が存続するために我が力を使おう……』


 撤退戦はすでに始まっていた。


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