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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第6章 スパイ大戦争

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暇な人

 銀髪の青年が手にした模擬剣を打ち込むと、相対していた騎士はその剣閃の鋭さに、受け止めるだけが精一杯だった。


「ぐ、ううっ!」

「隙が大きいぞ!」


 ぐらりと体勢が崩れたところで突き――と見せかけたフェイントからのローキック。それで騎士は真横に転げた。


「お前は剣技に自信があったようだが、剣で勝てない相手が出てきた場合はどうするつもりだ? 他の手段もすぐに使えるようにしておけ。剣だけで勝てることはもちろん素晴らしいが、我らの誇りは任務を遂行することにある。今回は司祭殿の護衛が最優先。そのために手段を選ぶな」

「は、はいっ」

「よし、次」


 騎士、リュック=ランドンはドリームメイカーの広場を借りて調練を行っていた。同行している騎士の半分がここにいて、残り半分は回復魔法使い――教会に所属する司祭の護衛だ。

 彼らの調練――というより、肌の色の違いから別の大陸の住人であることは明らかなので彼ら自身――が物珍しいのだろう、広場には見物の人たちがぽつりぽつりと集まっていた。どの街にも暇人はいるらしい。

 2時間ほども続けるとさすがのリュックも汗だくになり、休憩をすることにした。革袋の水をがぶりと飲んでから手ぬぐいで後頭部や首筋を拭っていく。この銀髪の青年はなかなかの美丈夫であるので見物の女性には、それを見てほうとため息をついている。


「やあ、なかなか精が出るな」

「……これは、ゴルジア殿」


 見物客が遠巻きにしているだけで話しかけてこなかったのは、リュックたちの言葉を話せないからだ。

 やってきたのはゴルジア。遠征軍に同行し、スパイを引き渡してもらうために使者として来た――リュックたちと話ができる者。完璧ではないのでぶっきらぼうな口調になるが。

 ゴルジアは、地面にだらしなく伸びて息も絶え絶えな騎士たちを見ながらリュックの前へとやってきた。


「これは見苦しいところをお見せした」

「そんなことはないよ。鍛錬をすれば誰だってへばるし、へばるようでなきゃ鍛錬の意味がない。――ああ、リュック殿の鍛錬になってないと言ってるわけじゃあないので」

「いや……ゴルジア殿の言うとおり、少々物足りなさはある」

「そうか?」

「――ところでなにかご用か。司祭殿への面会ならば調整するが」

「それは必要ない」


 リュックたちがここに来た目的は、国王の治療だった。だが、それは終わった(・・・・)――と告げられた。シルバーフェイスの連れてきた回復魔法使いがうまいことやったという言い方だったが、詳しくは聞いていない。

 その後、何人か「治療して欲しい」と申し出る人たちがあり、司祭はその都度でかけていって回復魔法をかけた。これらは特にやらねばならぬことではないが司祭本人が「人を助けることはよいことです」と言い、今後の外交上、悪い影響はないだろうとリュックも判断してのことだ。

 だがそれも数日のことで、ぴったりと治療の申し出は止まっていた。その理由はわからなかったが、リュックとしても司祭が安全で、後続の船が来るまで待つことが任務なのだから、こうして鍛錬しながら日々を過ごしていた。


「必要ない……そうか」


 こうもはっきりと言われると、「なにかあったのか?」と聞きたくなるが、それを聞くのは護衛騎士の仕事ではない。リュックは言葉を飲み込んだ。


「あ、悪かった。回復魔法使い様を軽んじているのではないぞ? わかるよな?」


 リュックがうなずくと、ゴルジアはホッとしたように見えた。


「それならよかった。俺がここに来たのはあなたのことだ」

「? 私……?」

「ああ、訓練に物足りなさを感じるのなら、我らとともに訓練をしてはどうかなと」

「――――」


 ごくりとリュックはつばを呑んだ。

 ゴルジアを初めて見たときに感じた――この男と1対1で戦えば、勝てないだろうという感覚。

 それを訓練で確かめられるなら、のみならず自分自身さらに強くなれるかもしれない――すばらしいチャンスだ。


「……司祭殿と相談したい」

「もちろんさ。いつでも連絡をくれ」


 楽しげに言うとゴルジアは去っていく――リュックは騎士として、自分がさらなる高みに行けるかもしれない可能性に興奮して気づかなかった。去っていくゴルジアの顔から笑みが消えていたことを。



   *   *



 ハンググライダーの活躍で、その日のうちに2つ目のルーツに到着したヒカルは、今度は入念に周囲を確認してからルーツを破壊することに成功した。

 2つ目のルーツ――竜石は「鳥カゴ」によく似たものに収まっていた。


(「塔」、「要塞」、「鳥カゴ」……一体なんなんだろうな)


 爆発し、すでに「鳥カゴ」の姿はない。立ち上る煙を遠くから眺めてヒカルは考えたが、いくつか推測はできるものの確たる裏付けはなにもなかった。

 もう日も暮れる。

 ヒカルは樹木と樹木の間にハンモックをかけると「隠密」を発動しながら睡眠をとる。地面で寝るよりも寝やすく、万が一落ちてもグラヴィティ・バランサーがある。

 翌朝は早くから行動する。この世界に来てからアウトドア――というよりもむしろ危険領域での宿泊にも慣れてきた。温かい食事がなにより重要で、それは生命の活力に直接影響してくる。しかし上がってしまう炊煙はヒカルの「隠密」範囲外になり、モンスターを呼び寄せることにもなりかねないので携帯食で済ませることになる。

 だから、ちゃんと睡眠をとっても体力がゴリゴリ削られる。そのため今回の「ルーツ破壊作戦」は長くても10日、できれば7日以内に帰ってくることを目標としていた。


「ふーむ……いないみたいだな」


 昨日破壊した「鳥カゴ」の近辺まで戻ってきたが、モンスターを含め、大型モンスターは「魔力探知」に引っかからなかった。森林の延焼が軽微で済んでいるのは樹木間にそこそこ距離があり、しかもたっぷり水気を含んだ大樹は燃えにくいのだろう。

 それでも、「鳥カゴ」周囲はいまだに白煙が立ち上り、ひどく煙臭い。乾燥する冬にルーツ破壊をすることになったら、半端ない規模の森林火災になりそうだ。


「ん……あれは竜石の欠片か?」


 熱を持ったままの岩を見つけて、そこに大きな葉でくるんだ携帯食料を置いて温め直しているときにヒカルは魔力反応を見つけた。向かってみると、小指の先ほどの竜石の欠片が転がっている。


「これが爆発しなければ火事になんて気を使わなくていいんだよなー……いや、いっそのこと森を全部焼き払うというのはどうだろう?」


 とんでもない破壊神的な発想ではあるが、もし仮にヒカルがドリームメイカーの為政者だとして、森の拡大によって追い詰められることがあったならば「森ごと焼き払え」となってもさほどおかしい選択肢ではない。

 森を焼くことで生態系や多くの無関係な動物が死ぬことになっても、国民が全滅するよりはマシだ。


「まあ、今はそこまでやらないよな」


 ただ、森をすべて焼いたとしたら今度はその先で困ることになる。建築や燃料などの資材を生み、食料を生み、土壌を整え、河川や海の生態系にも恵みをもたらすのが森だ。森がなくなったら数年後には飢えることになる。

 いい感じに半分だけ焼けて欲しい、なんて願ってもそううまくはいかないだろうし。


「脇差しで叩き切るとか? うーん……でも火花が出て誘爆したら困るよな。細切れにするにしても時間がかかりすぎる。川に流すとか地面に埋めるとか? いや、竜石がどうモンスターに作用しているのかがはっきりしないんだよなあ。ていうかそもそも竜石ってなにでできているんだ?」


 しゃがみこんで観察する。この竜石は青色の光を灯している。周囲を見ると、焦げた石の破片が飛び散っているがこれが竜石の成れの果てなのだろうか? ヒカルは色を失った石の破片をつまんでみる。


「んー……石だな。ただの石。これに魔力を込めれば竜石に戻るとか? うーん……」


 腕組みして首をひねる。


「竜石は竜から産出する石なんだよな……冒険者が竜種を倒したら例外なくその竜石を持ち帰り、売却する。大金に変わるから。そんな高価い石をなんに使うのかと言えば精霊魔法石とほとんど同じ使われ方……魔術のための燃料だ。じゃあ精霊魔法石との違いはなんだ?」


 ふと、気がつく。


「そうか、違いがある(・・・・・)んだ……。精霊魔法石は精霊魔法に連なる魔力を帯びた石。竜石は邪に連なる魔力を帯びた石」


 ヒカルは自分の知識のアーカイブを漁るが、望んでいた知識は存在しなかった。


「……これらの石が、どのように生成されるのかは明らかになっていない。でも、ここにある竜石は明確なる人為(・・)を感じる。つまり」


 答えに近づいた気がした。


「この竜石は魔術なんだ。山で産出する精霊魔法石とは違う、魔術によって造られた邪の魔力石が竜石――ということは……魔力を失えば、石に戻る? 大爆発を起こす必要はない?」


 立ち上がったヒカルは竜石の回りをぐるぐる歩きながら考える。

 疑問がスタート地点に戻ってきた。


「魔力を失わせる魔術……いや、魔術に限らずなんでもいいんだよな。塩をかければ魔力が減るとか、魔道具を使って魔力を減らすとか、魔力を吸い出す方法があれば――ちょっと待て」


 吸い出す?


「あったよな……僕が、過去に魔力を吸い出したことが」

BotWはかなりプレイしました。

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[気になる点] 位階あげるようなこと言ってたのに全くあげんな
[良い点] おもろ [気になる点] 天射つかってほしい… [一言] 天射つかってくれ…
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