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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第6章 スパイ大戦争

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塔への上陸

すみません、ちょっと短いです。風邪が治らぬ……。

 地図を出して確認する。以前にヒカルが森林地帯から「塔」を見た方角、それにランズハーヴェストの位置、そして現在位置――そう考えると船上からも「塔」が確認されなければおかしいのだが、その姿は見えない。

 なんらかの方法で姿を隠蔽されているのは確実だ。


『なあ、ほんとうに行くのか? この川の北側は絶対に入っちゃならねーってのが俺たちが聞いてることなんだぜ』


 ランズハーヴェストの北を流れている川。「塔」が位置しているのは北側――より魔物が凶悪なほうだ。


「――今、ジンはなんて?」

「本気で行くのかと問うておる。ワシも同じ意見じゃが……のう、シルバーフェイス。ワシをお前さんに同行させてもらうわけにはいかんか?」

「ダメです」


 ヒカルは即答した。

 おそらくワカマルは、自分の弟がまだ生きていて、ひょっとしたら「塔」にいるのかもしれないと思っているのだ。直接会って話すことを望んでいる。

 しかしヒカルからするとワカマルは完全に足手まといだし、「集団遮断」で連れて行くにしても、もし仮にワカマルが推測したとおりヤママネキを呼び寄せたのがコウキマルの手はずだったとしたら、ワカマルが今さら話したところでなにかが変わるでもないだろう。


「……そうじゃな」


 ぽつりとつぶやくと、ワカマルはそれで納得したようだった。年齢から考えると――とはいえワカマルはマンノームの血を色濃く引いているので年齢はあてにならないのだが――急に老け込んだようにも見えた。


「いってきます」


 ヒカルはコウを首に巻いて、船の縁から跳んだ。

 上陸方法は前回と同じだったが、これまでと違う部分もある。

「魔力探知」にすさまじい反応があるのだ。動いているそれらは、とんでもなく強いモンスターなのだろう。


(そう言えば……ランズハーヴェストのそばには「ルーツ()」があるとディーナは言っていたな。ここに来るまでにもルーツはあったし、その周辺のモンスターは強かった。つまり、川の北側にルーツがある……?)


 そんなことを考えていると、コウが歯を剥いた。


『ヒカル、気をつけて。この辺には邪悪な連中がいっぱいいるよ』

「わかってる。なにか気がついたことがあったらどんどん言ってくれ」


 慎重に歩を進めていくが、森の様相は川の南と変わらなかった。ただ――静かだった。虫や鳥の声がほとんどしない。ヒカルが踏みしめる葉の音だけがやたら大きく聞こえた。

 そのくせ、あちこちに得体の知れない凶暴な敵が潜んでいるという感覚――これは「魔力探知」だけでなく「直感」からも感じ取れた。

「隠密」が効いていると信じ込まなければ数歩とて歩きたくもない場所だった。


 ヒカルはモンスターを避けるように歩いていったが、不思議なことに相手もヒカルを避けているようだった。ヒカルの存在を感じ取ったということではないだろうが、彼らの「勘」――あるいは人間と同じように「直感」――によって強敵(ヒカル)との戦いを避けようとしているのかもしれない。

 ヒカルにとっては都合の良いことだったが、ここより北のモンスターがすべてこういった「直感」持ちだとすると厄介なことこの上ない。

 地図を片手に歩いていくが、なかなか「塔」の姿は見えてこない。森の中にいるせいというのもあるだろうが、ルーツの姿も確認できないのだから――ひょっとしたら歩いてきた方角が間違っているのでは? とヒカルが考えたときだった。


「!」

『……どうしたの、ヒカル?』


 不意に足を止めたヒカルにコウがたずねてくる。視線を上げた児白龍の目にヒカルの冷や汗(・・・)が目に入っただろうか。


「これはこれは……なるほど、ねえ」


 ヒカルの「魔力探知」にようやく引っかかった。

 周囲100メートルをわからなくするほどの強大な魔力反応。そして、そんな反応がありつつも自己主張するかのように輝く魔力反応が――30を越えたところでヒカルは数えるのを止めた。

 そこに「塔」があるとヒカルは確信した。




 森林が途切れ、ぽっかりとした空間がそこにはあった。草の生えることもなく大地が露出している――森林内では珍しい場所だった。

 中心に、すっくとそびえ立っている人工物こそが「塔」だ。白く継ぎ目のない外壁には穴ひとつ空いておらず、「塔」があることを考えると周囲の空き地はまるで「塔」が自然の侵食を拒んでいるかのように見える――見た目上は。


「……あの『塔』自体が凶悪な魔力を持ってる」

『絶対あそこに竜がいるよ。薄汚い竜が』


 ぐるるるとコウが歯茎までむき出しにして唸っている。


「怖いから。それお前のキャラじゃないから」

『ぐるるる』


 龍が考えることはわからないのでヒカルは放っておくことにした。


「それよりも……問題はどうやって入るかだな」


 ヒカルはコウとともに、空き地から少々離れた場所、大樹の陰から様子をうかがっている。

 空き地には草ひとつ生えていなかったが生き物がいないというわけではない。「塔」を守るように岩石の腕、岩石の足、岩石の胴、岩石の頭を持ったストーンゴーレムが――それこそ30を優に超える数、配置されていたのだ。

 先ほどの魔力反応は「塔」とストーンゴーレムだったということだろう。


「む」


 キィィエェェェェ……と甲高い声が上空から降ってきた。翼を広げた何者かが「塔」から飛び立っていく。

 この空き地は学校のグラウンドがすっぽり入るくらいはあり、「塔」に至っては高さ50メートル以上あるようだ。飛んでいった姿は――まるでドラゴンだ。


「ドラゴンの住処……?」

『薄汚い竜め! あんなところに!』

「あ、バカ」


 いくら「集団遮断」が効いているとは言っても、相手の察知能力が高ければすべてを消すことはできない。事実、ぎらり、とストーンゴーレムのくぼんだ眼窩に赤い光が点るや手近な3体がのっしのっしと大地を揺らしてこちらへ向かってくる。

 ヒカルはコウの口を無理やり閉じて場所を移動する。


(……動いたのは3体だけ。他のストーンゴーレムは微動だにしない。どこかに注意を集めて一気に近づく――なんてこともできなさそうだ)


 ストーンゴーレムが数体ならば、ヒカルが持ってきた「全能の筒(リヴォルヴァー)」でなんとかできるだろう。だが弾丸は有限で、今のところ10発しかない。


(こんなことになるならケイティ先生に目一杯大量に作っておいてもらうべきだった)


 弾丸には「業火の恩恵(フレイムゴスペル)」7発、「爆火光線(フレイムレーザー)」2発、ポーラの回復魔法を緊急用に1発持ってきている。

 魔力が込められていられる期間はせいぜい20日といったところで、回復魔法だけはやたら早く10日程度しかもたなかった。とはいえ回復魔法も弾丸に込められると実験でわかったときにはヒカルとしては小躍りしたいほどうれしかったのだが。

 入手時には何百年も前の魔力が込められたまま使用可能状態ではあったので、保持期間の延長はケイティ先生の研究次第と言えるだろう。


(さて、どうやって侵入するか)


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