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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第6章 スパイ大戦争

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地下の発見

「滅びの大陸」への入植者たちが築き上げた夢の都市――ランズハーヴェストがどれほどの大きさだったのかという記録は残っていない。

 だからヒカルは推測するしかないのだけれど、今のドリームメイカーよりは小さいが、はるかに小規模というものではないようだ。

 人口で数千人はいた――それより少なければ「新大陸に国家樹立」などとは言えないだろう。


「さあ、行こうか」


 木々は石畳を割り、家々を破壊していた。

 ずんずん進んでいくと、だんだんと町並みがわかってくる。

 店を表す金属の看板は腐食して落ちていた。

 かろうじて屋根の残っていた屋内はホコリが積もっていた。

 大通りは馬車が数台すれ違えそうなほど広かったが、ヒカルの背ほどもある野犬がうろついていた。


「……これは、そもそもギルドの位置なんてわからないか?」

『臭い』


 コウはさっきから不機嫌そうにそれしか言わない。ドリームメイカーからすると森の奥に来ているのだから臭いのも当然だろう。

 ちなみに言うとこの廃墟は大陸の南北で見るとちょうど中間にある。ドリームメイカーはずっと南寄りだ。

 ヒカルはこの日、いろいろと探索してみたが有用だと思える場所は見つからなかった。

 まず多くの建物にものが残っていない。モンスターの侵攻時に持ち出されたようでただの空き家となっている建物があまりにも多かった。

 次に、崩れた建物が半分以上だ。経年劣化で崩れ落ちたもの、モンスターが暴れて破壊したものと様々ではある――モンスターも種族同士で争ったりするのだ。


「うーん……早めに切り上げるかな。冒険者ギルドがあったと決まったわけでもないし」

『そうなの?』


 街はひっそりと静まり返っていた。

 ヒカルはこの日、比較的無事な建物の2階――階段が壊れている建物を選んで、その部屋でごろりと横になって眠った。


 翌朝早くからヒカルは行動する。小さな家屋をひとつひとつ調べていては時間がいくらあっても足りないので大きめの建物にだけ的を絞った。まず領主――国王? の館らしき建物だ。街の中央部にあり、敷地も広い。だが破壊の度合いも一段と進んでいた。

 壁はほとんど壊れ、中庭は雑草がぼうぼうだ。建物も柱が数本残っていたがそれくらいのもので、じっくり観察しないと「ここが領主の館だ」とは判断できない。

 次にヒカルが向かったのは役場らしき建物だ。そこは他の建物より高い、3階建てになっていた。3階はほとんど崩れていたが2階と1階はわりと無事だ。


「おお……書類関係がある、けど……」


 公文書だろうか、記録は残っていたがほとんどが腐っていた。


「『古代神民の地下街』のようにはいかないか」


 あそこはダンジョンの最奥にあったが湿気があまり入り込んでおらず、さらには魔術的な保存が働いていたようだ。

 だがランズハーヴェストは森と海に挟まれていることもあって腐食が早い。ヒカルとしても公文書に用などないのでそこはスルーして中を確認していく。


「あー、金庫がやられてる」


 ヒカルの腰ほどの高さまである金属の箱は、扉が大きく開いていた。中は空っぽだ。モンスターによる襲撃があったときに持ち出したのだろう。


「……人骨みたいなものはほとんどないんだな」


 もっと人骨だらけになっているのかと思ったが、ほとんど見当たらない。建物の中にたまにある程度だ。モンスターが持ち運んだのか、人骨を処理する昆虫でもいるのか、あるいは単に風化したのか――いや風化するには早すぎる。屋内で殺された住民はあまりおらず、大半は船で逃げたか逃げる途中に屋外で殺されたといったところか。

 2階を探っていくがこちらも荒廃具合は1階と同じだった。


「ん?」


 そのとき1階からガタンと音が聞こえ、ヒカルは「魔力探知」を発動して――気がついた。

 ふだんは横方向に走らせるだけで、森の中などでは上方向にも走らせる。全方向を確認していると探知範囲が広すぎて脳に負担が大きいからだ。

 音の正体についてはただなにかが倒れただけのようで生き物の気配はない。

 だが、これは――。


「そうか、地下か」

『地下?』

「ここには地下室がある」


 ヒカルは下方向に「魔力探知」を使うことがほとんどなかったので見落としていた。

 地下から魔力の反応があったのだ。




 地下への入り口を探したがなかなか見つからなかった。最終的には物置らしき一室に隠し通路のように地下への入り口が存在していた。

 扉を開けるとホコリが舞う。布切れで口元を覆うと、魔導ランプをかざしてヒカルは地下への階段を降りていく。

 壁面や天井がぬらぬらしており、足元も滑りやすいので慎重に降りていく――とぽっかりとした空間へと出た。


「おー……」

『物置?』

「……まあ、物置かな?」


 壁面には棚が取り付けられてあったが腐食により崩壊している。黒っぽい、おそらく木材の成れの果てが壁沿いにはあった。部屋の中央付近は特になにもないが、その先――奥の壁際にはヒカルの「魔力探知」に引っかかった魔道具が鎮座していた。


「やっぱりあったか」


 ヒカルの腰高の石材が斜めにカットされ、鉄筆のようなもの――錆びていてよくわからない――がその下には数本転がっていた。


《緊急、魔物の襲来。その数極めて多くランズハーヴェスト防衛は難しい。新王陛下より首都放棄の旨通知あり。ヴィレオセアン海軍の協力を要請する》

《   れ      状         承知        海   モンス     ヴィレ        》


 そこに書かれていた文言はそれだけだった。

「リンガの羽根ペン」である。ヒカルが見たことのあるものとは若干異なっているが間違いない。


「使えるのかな。……でも500年前の時点ですでにダメだったっぽいよなあ……」


 2つ目のメッセージはヴィレオセアンからの返信だろうが、文字がほとんど表示できていないのは通信がうまくいかなかったからだ。


「でも魔術触媒も残っているようだし、ちょっと使ってみようかな」


 ヒカルは、鉄筆のそばにこんもりと積もっていた金色の粉を指でつまんだ。この「リンガの羽根ペン」――羽根ペン形式ではなく鉄筆ではあるが――は魔術触媒をこすりつけて反応させているらしいので、指でも問題ないのである。魔力反応はこの触媒と台座から感じられる。


「『こちらランズハーヴェスト』……っと」


 台の上で金色の文字が光を放つと、黒いシミとなった。文字が送信された――ということだけは間違いない。受け取り手がいるのかどうかは不明だが。


「…………」


 反応は、ない。


『早く出ようよ。なんかここ空気が淀んでる』

「んー……ま、いいか」


 ヒカルはもう少し待っていたい気もしたが、500年前にダメだったことを考えると望み薄だろうと思い部屋を出た。




『おお、無事か? ケガはしてないみたいだが……っていうかホコリだらけだなあ』


 戻ってきたヒカルを見てジンがそんなことを言う。あちこち服が汚れていたのは事実なのでヒカルも手でそれらを払う。


「収穫はナシですね。街の内部は意外とモンスターはいなかったけど、まあなにも食べるものがないからでしょう」

「森が街の中まで入り込んではおらんかったか?」

「外周部分は侵食されてたけど、中の方は大丈夫です。家の崩壊具合がすごいですね。価値の有りそうなものはほとんどないんじゃないかな」

「そうかそうか。しかしよくもまあ無事に帰ってこられたものじゃのぅ。気配を殺して動けるとは聞いておったがワシもジンも半信半疑でやきもきしとったわい」

「はは……勝算がなければいきませんよ」

「では『塔』にも行く気か」

「もちろん」


 ヒカルが即答すると、ふと考えるようにしてからワカマルは言った。


「……そのことなんじゃが、実はお前さんが街に向かったあとにな、ジンと北上して『塔』を見に行ったんじゃ。じゃが、そんなものはどこにもなかったぞ」

「でしょうね。ヴィレオセアンから戻ってきたときにも、誰も気づいていないから、海からは見えないようになっているんだと思います」

「海からは見えない……陸からは見える? どうやってそんなことを?」

「できますよ。軍だって似たようなことをやってるじゃないですか」


 ヒカルが光学迷彩の話をすると、ワカマルは「あれか」と納得したようだった。


「じゃがあの技術は……」

「?」


 ワカマルが渋い顔をしている。


「どうしました?」

「……やはり話しておくべきじゃな」


 ワカマルはジンへと話しかける。最初ジンはびっくりしたような顔をしていたが、ヒカルを見てから、もう一度ワカマルに視線を戻し、なにかに同意するようにうなずいた。


「ジンも賛成したことだし、話しておくことにしようかの」

「なにをです?」

「――『裏切り者』についてじゃ」

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