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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第6章 スパイ大戦争

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ラヴィアたちとの合流

そう言えばヒナプロジェクトさんも大阪でしたね……。

私はいち利用者でしかありませんが、こういった場を提供してくださるヒナプロさんにはいつも感謝しています。皆様がご無事でありますように。

 遅れてやってきたラヴィアたちとヒカルは合流した。「グランドホテル」チェーンはここヴィル=ツェントラにもあるようで、「グランドホテル・ツェントラ」にラヴィアは部屋を取っている。

 1000人は宿泊できるだろうという大きなホテルだ。暗褐色の木材で内装はまとめられており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「まだコウは目覚めてないのか……」


 ポーラの腕の中でくたりと眠っているコウを見て、ヒカルは眉をひそめる。お腹はだいぶ凹んで、そうと知らなければなにかを飲み込んだとはまったく見えないくらいだ。


「コウちゃんもそろそろ起きるんじゃないでしょうか?」

「そうかもな……ポーラ、悪いけどもうちょっと面倒を見てくれるか」

「もちろんです」


 ヒカルに頼み事をされ、うれしそうにポーラはコウをベッドへと運んだ。

 ヒカルもヒカルで、これまで起きたことをラヴィアとポーラに説明する。


「——ヒカルは、グランドリーム大陸の人たちは戦争が目的じゃないと思っているのね?」

「ああ。ラヴィアはどう思う?」

「うーん……どうかしら。わたしは500年経っても消えない恨みっていうのもあるのかなっていう気もするけれど」

「なるほど」


 単なる逆恨みでここまでやってきたのなら、それはそれで恐ろしい執念だ。


「ヒカル様はこれからなにをなさるおつもりですか?」

「情報収集かな。向こうがなにをしたいのか、どんな装備なのかを探らないと行動できない」

「でも……相手は海の上ですよね」

「ヒカル。まさか——」


 ラヴィアがハッとしたような顔をする。


「ああ、違う違う。アレ(・・)は使うつもりはないよ」


 アレ、というのはケイティからもらった書物に書かれていた火魔法だ。フォレスティア連合国からポーンドへの移動中、ラヴィアはそれらの魔法を試していた。

 どれもこれも癖のある火魔法ばかりだった。


 たとえば「火炎の一滴(フレイムドロップ)」は、白く輝く超高温の炎を生み出すもので、そのサイズは小指の爪ほど。それがぽたりと垂れるだけである。

 ピンポイントで金属を溶かすには大雑把な滴だし、火起こしにも向いていない。地面に落ちた滴は、どろどろと地面を溶かしながら沈んでいった。


 他にも、「爆火光線(フレイムレーザー)」は一直線にほとばしる炎を発生させられるが、術者への反動がすさまじく、ラヴィアの身体が10メートルほど吹っ飛んだときにはヒカルは生きた心地がしなかった。


霧なる炎(フレイムミスト)」はチリのように細かい炎を大量に発生させるもので、気温がわずかに上がる。その程度の効果しかないくせに魔力コントロールを誤ると炎同士が誘爆し、術者が火だるまになりかねない。


 ケイティがもてあまし、餞別にくれるわけだとヒカルは思った。

 ただヒカルは、このなかで1つ、「ある利用法」を思いついていた。その内容はラヴィアやポーラにも話してあったが「危険過ぎる」といい顔をされていない——。


「とりあえず小舟を出そうと思う。小舟の範囲なら僕の『隠密』で姿を隠すことができるから。小舟で近づき、船に乗り込む」

「でもヒカル様、船はだいぶ沖にあるんですよね? 漕いで行くには遠すぎますし、どうやってそこまで行くんですか?」

「ああ、それなら大丈夫」


 ヒカルはうっすら笑った。


「連中が近づいてくるから」




 収穫としては尋問はうまく行っていない、という情報がもたらされただけだった。またも4カ国の元首と教会の代表者が会議室に集まっていた——窓のない、屋敷内でも奥まった部屋だった。

 今回の会議招集の目的は、総首領パトリシアにとっては「危機感の共有」と「即断即決」だった。滅びの大陸の連中が上陸すればヴィル=ツェントラは無事では済まないとパトリシアは考えていたし、その後、クインブランド皇国か、ポーンソニア王国か、あるいはビオス宗主国やアインビストかはわからないが他国にも影響があるのは間違いない。


 それを知った上で、外敵にどう対処するか。

 すでに兵力をこのヴィル=ツェントラに呼び込むことは許可している。さっそくカグライが派兵を決めたが、ポーンソニアは国内がごたついているしフォレスティアは距離があるので、すぐにどうこうできるものではない。


「この部屋は盗聴をされることもないのか?」


 マルケド女王は半分笑いながら言ったので、冗談ではあるのだろう。光学迷彩を可能にするあんな魔道具がある以上、パトリシアの警備不備をバカにしたわけではない。


「ああ——たぶん大丈夫だ。まあ、たぶんとしか言えねぇな。兵士に警戒させているし長い棒であちこち突いて回るように言ってある」


 パトリシアは苦々しい思いで答えた。

 相手の姿がまったく見えないから、そんな対策方法しか採れないのが歯がゆいのである。


「ふむ。例の魔道具の分析はどうだ?」

「……昨日の今日ではわからない。今んところ『お手上げ』状態だそうだ。——そうだカグライ。カグライんとこの傭兵が言っていた光学なんたらってのはなんだ? どうしてあの傭兵はあの布をかぶったスパイを見破れたんだ?」

「余にもわからぬ」

「なんだって? わからないじゃあ困るだろうがよ」

「ならば本人に聞いてみるがよい。——シルバーフェイスよ、いるのであろ?」


 シルバーフェイス——つまりヒカルは、確かにこの部屋にいた。昨日の会議室よりは広いこの部屋に、相変わらず護衛は各国3人ずつだから空間の余裕はある。

 観葉植物の陰で「隠密」でもしておけば誰にも気づかれない。

 ヒカルはひっそりとそこから出ていき、「隠密」を解いた。

 ぎょっとした顔でパトリシアがこちらを見る。


「いたのかよ!? お前、それどうやってんだ!?」

「……その質問には答えられない」


 ほとんどの護衛はにらみつけるようにヒカルを見ていたが、ソリューズだけは面白そうな顔をしていた。話しかけたくてたまらないが、分を弁えているので黙っている——そんな感じだ。

 ソリューズの隣にいたクジャストリアが口を開く。


「昨日は違うお名前で呼んでしまい、失礼しました。しかしわたくしはあなたと会ったことがありますね?」


 騎士団長ローレンスと戦ったときにいたのがクジャストリアで、彼女はあのときの少年とシルバーフェイスを結びつけているだろう。


「……その質問には答えられない」


 だが認めたところでヒカルにメリットがあるわけでもない。すっとぼけておく。


「クジャストリア殿、今はその話はいい。それよりお前、光学なんたらってのはなんだ? まさかこれも答えられないとか言うんじゃ——」

「——視覚というものは目の中にある網膜に光を照射することで映像情報を得ている。光学迷彩は、本来そこにあるものが反射した光ではなく、他の光を、映像情報を出現させる技術だ。おそらく、あの布は光を迂回させることで実体を隠しているんだろう。ゆえにそこにあるべきものが見えず、その先にあるものが目に映る」


 ぽかん、と口を開けたパトリシアだったが、


「——今なんて?」


 とだけ聞き返すのが精一杯だった。

 やれやれ、とばかりにヒカルがため息を吐くと彼女はサッと顔を赤くして、


「お前の説明の仕方が悪くてわからねぇんだよ!」

「まあ、待たれよ、ジルベルスタイン殿。——シルバーフェイスよ、そなたの言っていることは魔道具で実現できるのかえ?」


 カグライに問われ、


「……さあ? だけど、実際にもの(・・)があるのだから調べてみるしかないだろう」

「そうか。では光学迷彩をしているスパイをどうやって発見したらよい?」

「探知能力に長けた人間を探せばいい。光学迷彩は単に目を誤魔化すだけのものだ。ニオイも、温度も、音も、生命力も、魔力も遮断できない」

「探知……か」


 ソウルボードにある「探知」系スキル。これらを持っている人間は非常に少ない。「直感」は結構いるのだが。

 しかしヒカルの言葉で各国元首はそれぞれ考え込むような姿を見せる。それぞれ、心当たりがあるのだろう。さすがに国が抱えている人材の中に「探知」持ちのひとりやふたりはいるはずだ。

 問題は、低レベルの「探知」ではせいぜい10メートル範囲しか確認できないということだろうか。


「……だが、光学迷彩のことを考えている場合ではないと思うけどな」

「どういうことだ、シルバーフェイス」

「そろそろ連中が仕掛けてくるんじゃないか?」

「仕掛けてくる? なぜそう思うのだ」


 とカグライが言ったときだ。

 会議室へと伝令がやってきた。

 伝令は告げる——ヴィル=ツェントラ沖に、軍船10隻が出現した、と。


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