表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第5章 腐敗の塔と無垢なる騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/415

再び「塔」へ

 気が逸っても、夜になれば移動はできない。こういうときに移動の不便さを痛感するヒカルだった。眠りにつこうと思ってもなかなか寝付けない——というより、だんだんイライラしてきた。なんでこんなに焦っているのか。葉月先輩に似ているのがそんなに重要なのか。自分にはちゃんと、ラヴィアという恋人がいるのに——。


(——ああ、もう、とりあえずそれも含めてケリをつけに行かなきゃ)


 どこか似ている、というよくわからない感覚だけで心が振り回されていたら身体がいくつあっても足りない。


(これで僕が「塔」に行くのも最後だ。そのつもりで行動しよう)


 翌朝、夜明けになろうかというころ——あまり眠れなかったが井戸端で顔を洗ったヒカルはパンッと頬を叩いた。

 乗合馬車に乗って聖都アギアポールに向かう。昼過ぎにはアギアポールに着いたのだが、街の入口である門にはずらりと行列ができていた。


「ありゃぁ、お客さん方、災難ですなぁ。こんなに混むのは珍しいんだが……なにかあったのかな?」


 馬車の御者が言うと乗客は口々に不満を言うが、ヒカルは早々に馬車から飛び降りると「隠密」を使って進んでいった。日中で陽射しもまぶしい時間帯だが、日陰はある。スキルと「職業」の力があれば「直感」持ち以外には見とがめられない。

 門へと近づいていくと、兵士の他に監督者として神殿騎士も数人いるのに気がついた。神殿騎士たち会話に耳をそばだてる。


「こんなに入念に調べても、協力者(・・・)なんて見つからないだろうに」

「念には念を入れよということだろうな。まったく、『赤の司祭』様は疑り深いことだ」

「そんなこと言ってていいのかぁ? これで『青の騎士』に欠番が出るってことだぞ。ここで協力者を発見できたら俺たちの中の誰かが大出世ってこともあり得る」


 やはり「青の騎士」が捕まったのは間違いない。なんらかの「叛乱」を起こし、鎮圧されたとみるのが妥当だろう。現在進行形で叛乱状態ならばここまで神殿騎士ものんびりしていないはずだ。

 もっと情報を得たかったが、先を急ぎたい気持ちもあった。ヒカルは「隠密」状態のまま城門をくぐり、足早に「塔」へと向かう。街中は相変わらずの「整然とした喧噪」という感じだったが、巡回している兵士の数が多いように感じられた。人々の様子に大きな変化はない——一般市民に影響のある騒ぎではなかったのだろう。


(「塔だ」……)


 アギアポール内を回る馬車を使ったりもしたが、3時間も移動を続ければさすがに疲れた。しかし弱音を吐いてはいられない。なにが起きているのか把握しなければならない。

 すでにポーンソニアからの使節団は帰っているので「塔」内部は通常営業だ。


(——人が少ない、か? 神殿騎士が警備に当たってるけど、「青の騎士」や「赤の司祭」の姿が見えない)


 ヒカルはこの「塔」内部がどうなっているかを思い起こした。残念ながら牢屋に当たる部分は見ていないが、その場所に心当たりはある。


(今回やらなきゃいけないのは「断絶の刃」の確保だ。……叛乱調査は、後回しにしてもいいけど……)


 ちょっと考えてから、ヒカルは牢屋があるとおぼしき方角へと向かった。「断絶の刃」を運び出したことがバレたら、大騒ぎになる。大騒ぎになれば牢屋の警備も厳重になるだろう。

「塔」の敷地内でもいちばん端にある、日当たりの悪い場所に真四角の、豆腐のような建物があった。窓が少ないそれが牢屋だろうと見当をつけていたが——。


(ビンゴ)


 ちょうど夕食時、カートに載せて食事を運んでいる下男がいた。明らかに上等ではない食事は囚人が食べるためのものだ。

 下男たちは正面入口から入っていく。警護に当たっている兵士は下男たちにうなずくだけで中へと通した。日も暮れかかっており、夕闇に紛れてヒカルもそのあとからついて入る。相手は「直感」持ちではないが、さすがにバレやしないかとひやりとした。そしてここまで大胆な行動をしている自分にも驚いていた。


(……焦るな。焦りすぎだ、僕)


 兵士の詰め所を通り過ぎると、鉄格子の扉があった。下男たちはそこを開けてもらい、中へと進んでいく。——魔導ランプのおかげでかなり明るい。行けるだろうか?


(ダメだ……慎重に行こう)


 他のルートがないかどうか確認するべくヒカルはきびすを返した。

 天井は高いのだが、廊下がとにかく狭いのが良くない。


(カギを持っているのは鉄格子の隣にいた兵士だ。あの兵士はあそこから一歩も動かない。……どうする)


 あまりに見通しが良すぎる。「隠密」の力に賭けてみたい衝動に駆られるが、それは「先を急ぎたい」気持ちがあるからだと理性でわかっているのでなんとか押さえ込む。

 建物を外から見た感じでは窓は3メートルほどの高さに鉄格子がはまっている。そこから人間の出入りは難しそうだ。


(やはりあの鉄格子から行くしかないか)


 一通り見て回ったヒカルは、鉄格子の扉へと戻ってきた。


(……下男たちが戻ってきたタイミングで、仕掛ける)




 いつも通り、配膳が終わった。下男が運んでいたのは寸胴に入っているスープだ。屑肉と屑野菜が入っている薄味のスープ、それにいくつかのパンが囚人たちの食事である。

 そんな食事でも平民からすれば割と一般的な食事だったりする。この「塔」内にわざわざ閉じ込めておく囚人というのはもともと地位のある人間なので、有罪が確定するまではその程度の扱いで済むのである。


「よし、戻るかな……だいぶ余ったなあ」


 とひとりごちる。そもそもカラッポであることも多いこの牢屋だ。2室も埋まっているのは珍しいのだが、用意される料理がちょっと多すぎる。


 カートをガラガラと押して戻っていくと、鉄格子の向こうで兵士が立ち上がる。


「終わったか?」

「はい」


 たいした意味もない、単純なやりとり。いつも通り兵士が鉄格子のカギを開けて外に出ていくだけ——のはずだった。

 ガラガラ——ガタッ。


「え?」


 急にカートが傾いたと思ったら、


「あ、あ、あああああ〜〜」


 寸胴がカートから落ちて中身がぶちまけられた。


「おいおい! なにしてるんだ!」

「す、すんません。どうもカートの車輪が壊れちまったみたいで……」

「ちょっと待ってろ。雑巾がいるな……」


 と兵士が小走りにそこを離れた——。




(——成功)


 もちろん、カートが壊れたのは偶然などではない。ヒカルが小石を投げ——「投擲」10の力をここで存分に発揮して——車輪を破壊したのだ。

 ヒカルは即座に角へと戻り、廊下が狭く高いことをいいことに両手両足で壁に突っ張って登り、天井へと貼り付いた。その下を、ヒカルにはまったく気づかず兵士が走り抜ける。


(行こう)


 飛び降りたヒカルは走り出す。

 屈んでスープをどうするか迷っていた下男は、ふと、顔を上げて廊下のほうを見た——が、そこには誰もいない。

 すでにヒカルは跳躍して下男を飛び越え、向こう側に下りていたのだ。ただでさえ「隠密」が効いているというのに、ヒカルの着地では音がほとんど鳴っていない。スカラーザードの学院で、ミレイ教官から習った「小剣講義」の体さばきが役に立っている。講義がないときにもヒカルは自主的にトレーニングしていたのもよかった。

 ヒカルは牢屋エリアのいちばん奥へ行き、うずくまって息を殺した。これだけ離れていれば明るくとも気づかれない——はずだ。

 スープを片づけた下男がぺこぺこ頭を下げながら去っていった。

 牢屋のカギはしっかり掛かっているが、鉄格子の番をしている兵士はこちらに背中を向けて座っている。


(よし、行動開始だ)


 人がいる部屋は2箇所あることは「魔力探知」ですでにわかっている。その部屋は廊下を挟んで向かい合っていた。


(——やっぱりこうなったか……)


 そこにいた2人を見て、ヒカルはため息を吐いた。予想はしていたがあまりに早すぎた。

 ひとりはコニア=メルコウリ。ヒカルの予感が当たってしまった。

 そうしてもうひとりは——ギルベルト=ガブラス。無精ひげが目立ち、ヒカルが研究施設の地下で見たあの「青の騎士」だった。

ようやくいろんな伏線が回収できそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ