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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第1章 「隠密」とスキルツリーで異世界を生きよう
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特別なスキルは「ソウルボード」

**作中は異世界であるため時間や長さの単位は当然違います。ただしヒカルは地球人であるため、特に必要でないものについては、基本的に地球上の単位に換算したものを表記します。**

「――はっ」


 息を吸い込んだ。

 ヒカルは、今までの感覚がウソであったかのように、生々しい肉体の感覚に驚いていた。

 腹のあたりがじくじくしている。

 濡れている――血に。


(わかるかい? 僕だ。ローランドだ)


 内側から声が聞こえてくる。

 ヒカルはうなずく。

 手で触れた服が、ローランドがさっき着ていたものだとわかる。

 部屋は――暗い。

 暗いが、かなり調度品の整った部屋だとわかる。

 テレビで見たことがある。ヨーロッパの高級ホテルのような内装だった。


(魂を移し替えたことで肉体の不調はすべて取り除かれているはずだ。身体はだんだん君になじむ。鏡を見てみるといい)


 鏡……。

 壁に掛けられていた大きな鏡に自分を映す――と、そこにはさっきのローランドの顔があった。

 ただ、髪の色が黒ずんで見える。


(僕の願いを叶えて欲しい)

「願い……」

(もうわかるだろう? 僕の記憶を共有しているんだから)


 ローランドの言うとおりだ。

 今、ヒカルの頭の中はごっちゃごちゃだった。

 日本人だったときのヒカルの記憶と、この世界――今ならわかる、ここは魔法も竜もある異世界なのだと――で生きてきたローランドの記憶と。


「……モルグスタット伯爵への……復讐か」


 子爵家に生まれたローランド。

 モルグスタット伯爵によって両親は奸計にはめられ死罪となっていた。

 領地や財産はすべて取り上げられ、「親に罪はあるが子に罪はなし」としてローランドは僻地に追いやられる予定だった。

 だがローランドは魔術の天才だった。

 逆に言うと、ローランドの才能を恐れてモルグスタット伯爵はローランド一家をつぶそうとした。

 命の危険は去ったローランドだったが、モルグスタット伯爵に復讐することを誓っていた――。


(モルグスタット伯爵を殺すだけだ)

「……ふむ」

(盗みの手際も見事だった。君にはそういう才能があるんだろう)


 うれしくない褒められ方だった。


(僕がここにいられるのは……あと1時間というところか。それまでにヤツを殺してくれ)

「1時間だと?」

(できなくば、僕は君を殺す)

「!」

(僕はこのまま天界に召される。そして天国へ行くか転生するかするだろう。だけど君は、魂ごと消滅させる)


 ローランドの記憶があるからわかる。

 魂を消滅させられるということは、その後の救いがないということ。

 もちろん死後の救いなんて今まで信じてもいなかったし、ないと思っていた。

 だけど「ある」とわかってから「なくす」と言われると、話は別だ。


「騙したな。気にくわないね」

(脅すような真似をしてごめん。だけど、僕にはそれしか方法がないんだ)


 ヒカルはローランドの記憶を引き継いで、その復讐心も理解していた。

 清廉潔白で公明正大、誰からも愛された両親。

 それを理不尽な手段で奪われたローランド。

 両親は死罪になり、「悪人」として磔にされた身体は王都に放置されている。


 人を殺す、ということに忌避感が薄かった。

 それはローランドの記憶を共有しているからかもしれない。

 モルグスタット伯爵は殺されて当然の男——そう、ローランドは信じ切っているからだ。


「殺す……にしたところでなんの準備もないだろうが」

(それに君にはギフトがあるだろう?)

「……ギフト?」

(神の寵愛と言ってもいい。盗んだじゃないか。光り輝くなにかを)


 あれか――。


(僕の記憶を見ればわかるだろうけど――魂が転生の際に利用できる才能のようなものだよ。この世界なら固有の魔法や特技、スキルとして開花するはず……だ)


 ローランドの声が小さくなっていく。


(……これ以上は、しゃべることも…………あとは残りの時間だけ……)


 声は聞こえなくなった。


 魔法……特技……スキル。

 ほんとうに、自分にそんなものがあるんだろうか――。


「!」


 胸の奥に、もやっとしたものを感じる。

 そこに意識を集中させる――。


 目の前に浮かび上がったのは、A4サイズの薄緑に発光する石版のようなものだった。



【ソウルボード】ヒカル

 年齢15 位階

 15


    ○



(あと55分――)


 ローランドが本気であることはヒカルにもわかっていた。

 この「ソウルボード」と刻まれたものが、なんらかのスキルなのだろう。

「○」については石版に大きく○が刻まれているだけだ。

 表面はつるりとしていてまるでタブレットPCみたいでもある。


「なんだこれは……」


 触れる――と、脳内に機械的な声が響く。


【ソウルボードをアンロックしますか? 消費1】


 アンロック? 消費?

 わからない――が、使ってみないことには意味がない。


「アンロックする」


 すると石版の表面に文言が現れた。


【生命力】

 【自然回復力】0

 【スタミナ】0

 【免疫】

 【知覚鋭敏】


「生命力」の文言が中央で、そこから枝分かれしている。


「スキルツリーか?」


 過去にやったことのあるシングルRPGやMMORPGであったシステムだ。

 勉強があまりにできてしまうと、時間をもてあますのだ。それでひととおり、ヒカルはゲームをやってみた。

 いわゆる「効率厨」と呼ばれる「最短距離で最高効率」を求めるプレイスタイルだったが。


 スキルツリーはスキルポイントを消費してアンロックしていくことでその効果が得られる。

 実際、上に表示されていた「15」という数字が「14」に減っていた。


「……15歳だから15ポイントあったということか? 1年に1ポイントだけ? 渋いな」


 ヒカルは考える。

 どうしたらいい。

 これから自分がやらなければならないこと……殺人よりもなにより、その前段階が重要だ。

 高貴な人間へ近づくこと。

 できるか?

 向こうは絶対こちらを警戒しているはずだ。

 そのために、ポイントはどれに振るべき?


 ……いや、その前に、人なんて殺せるのか?


「それを考えるのは今じゃない」


 やらなければ死ぬ。

 ここまで来てなにもなさずに死ぬのは、まっぴらゴメンだった。

 ヒカルは負けず嫌いだった。


(50分)


 ローランドの声がか細く聞こえる。

「自然回復力」に振る? まさか。持久戦をやりにいくんじゃない。そうなると「スタミナ」や「免疫」はもってのほかだ。

 そうなると「知覚鋭敏」だけになる。


「しかしそれは偏りすぎだ……というか、そもそもこれしかない時点で偏っている。ふつうなら武器のスキルとか――そう、魔法スキルがあるはずじゃないか?」


 石版を調べてみる。


「タブレットPC……ということは、もしや」


 石版に触れて指先を左に動かす――フリックすると、「○」の画面がスライドして「◎」が出てきた。


「やっぱりな。ということは『○』は『生命力のスキルツリー』画面ということか」


 どんどんスライドしていく。

 次は△、次は◇、次は五角形で、その次は六角形だった。最後は無印で、その次は○に戻った。

 全部で7つの画面があるということになる。


「……アンロックだけで1使うってことは、めぼしいものを探すのに、7ポイントも使うことになるな……」


(45分)


 時間がない。


 ヒカルはローランドの記憶を探る。

 今、彼がいるのは「ポーンド」という街の高級ホテルだ。

 モルグスタット伯爵がいるのは彼の別邸だ。最短距離で走って5分とかからない。

 部屋の位置はおそらく3階。

 15分……いや、20分は近づくのに必要だ。


「考えるには情報が足りない。とりあえず片っ端からアンロックして、よさそうなスキルを見つけるしかない」


【ソウルボードをアンロックしますか? 消費1】


「する」


 ◎の画面が現れた。



【魔力】

 【魔力量】0

 【精霊適性】



「魔法か……でも僕に魔法なんて使えるのか?」


 そもそもまったく使ったことがないテクノロジーだ。

 ローランドの記憶はあるが、ローランドの知性があるわけではない。

 ローランドが過去に行った魔法実験の記憶はあってもどういういきさつでそうなったのかがわからないし、今は検証の時間もない。

 それにローランドの魔法は「世界を渡る」ことにかなり偏っていた。


【ソウルボードをアンロックしますか? 消費1】


「アンロックする」


 △の画面が現れた。



【筋力】

 【筋力量】0

 【武装習熟】



 武器だ。武器の扱いだ。「殺人」に重きを置くならこれだが――。


「……そもそも武器、ここにあるか?」


 室内を見回す。

 床の上に短刀が転がっていた。

 こしらえは地味だけど刃は鋭い――つまりローランドを刺殺するのに使った使い捨てのナイフだ。

 凶器としては十分。


「……だがやはりいちばんは、伯爵の元にたどり着けるかどうかだよな……」


 この世界の貴族は、夜の来客を断るのがふつうだ。

 ローランドの記憶では、すでに深夜0時近い。

 閉じられた窓が、風のせいでガタガタと音を立てている。

 粗悪な窓ガラスから外の薄明かりが射し込んでいるけれども先ほどから雨が降り出しているために暗い。


「武器が強くても、会えなければ終わり……あるいは立ちはだかる全員を殺す、とか……」


 ないな、とつぶやく。

 誰にもばれずに大虐殺なんてできる自信がない。


(40分)


 次のボードだ。


【ソウルボードをアンロックしますか? 消費1】


「する」


 ◇の画面が現れた。



【敏捷性】

 【瞬発力】0

 【柔軟性】0

 【バランス】0

 【隠密】



 これだ、と直感した。

「隠密」。

 これならばモルグスタット伯爵に気づかれずに近づける。


【隠密をアンロックしますか? 消費1】


「する」



【隠密】

 【生命遮断】0

 【魔力遮断】0

 【知覚遮断】0



「……そうか。0が出てない項目はアンロック項目なんだな」


 アンロックに消費1かかって、その先のスキルを確認できる。

 アンロックそのものでは効力を発揮しないらしい。

 なんだか理不尽な感じもしたが、このスキルツリーに文句を言っている場合じゃない。


「でもこの『生命遮断』とはなんだ――」


 と考えたときだ。

 頭の中に項目の意味が浮かんできた。


【生命遮断】……生命探知系のスキルを遮断できる。最大で5。

【魔力遮断】……魔力探知系のスキルを遮断できる。最大で5。

【知覚遮断】……嗅覚や聴覚、視覚によって察知されることを遮断できる。最大で5。


 探知系のスキルなんてのがあるのか。

 残りは10ポイント。

 均等に振るべきか、どうするべきか。


「……ふつうに考えたら『知覚』が厄介だ。番犬がいる可能性もある」


 犬の嗅覚は100万倍~1億倍だなんて言う人もあるし、聴覚も優れているはずだ。この世界にも犬がいることはわかっている。

 では他の「探知系スキル」とはなにか。

 ローランドの記憶を漁るが、探知系スキルを持っている人間はそう多くないようだ。


「とりあえず……『生命遮断』1、『魔力遮断』1、『知覚遮断』5だ」


 数値を入力する。



【隠密】

 【生命遮断】1

 【魔力遮断】1

 【知覚遮断】5(MAX)

  【暗殺】0



「……暗殺」


 その言葉の冷たさに、ぞくりとする。

「知覚遮断」に5を振ったときに現れたスキルツリーだ。



【暗殺】……相手に気づかれず攻撃を行った場合、攻撃が致死性を持つよう補正が加わる。最大で3。



 まさに、ヒカルがやらなければならないことにぴったりだった。

 そして残りのポイントも3。


「そんなの……ご都合主義だ」


 お膳立てされているように感じられる。

 誰かが裏で手ぐすねを引いているかのようにも。


(35分……急いで……)


 相手にこっそり近づいて、殺せるだろうか?

 無防備な相手とはいえ殺人なんてやったことがない。

 心臓にナイフを突き立てたこともない。

 確実に殺すのなら――確実に、この世界で生きていくのなら。


「暗殺」に残りの3ポイントを振った。



【隠密】

 【生命遮断】1

 【魔力遮断】1

 【知覚遮断】5(MAX)

  【暗殺】3(MAX)

   【狙撃】0



 遠距離で相手を殺せる「狙撃」が増えていた。

 どちらかと言えばこちらを取りたいところだ。好き好んで近距離で殺したいわけじゃない。


「……行こう」


 ローランドを刺した短刀を手にして、ローランドの身体を受け継いだヒカルは、雨降る屋外へと出て行った。

 正面ロビーを出て行ったはずなのに当直の従業員は誰かが通り過ぎたことにも気づかなかった。

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