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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第1章 「隠密」とスキルツリーで異世界を生きよう
18/415

最後の「情報」ピース

ラヴィア護送までの期間が「あと3日」なのか「3日後(あと2日余裕がある)」なのか、ちょっと誤解を招く書き方でした。すみません。

「3日後」が正しく、

・ラヴィアとの出会い(0日後)

・レッドホーンラビット3羽狩り(1日後)

・ボスゴブリン討伐(2日後・本話)

・ラヴィア護送(3日後・時間不明)

となります。

 モンスターを狩りまくったが、妙なことで目をつけられるのは御免(こうむ)りたいヒカルは、倒したモンスターの素材はひとつも持って帰らなかった。

 金には困っていない。今は、目立たぬように過ごすことが第一——のはずだったが。


「ヒカル様!!」


 街に入るところで警備兵から冒険者ギルドに向かうよう告げられ、やってきたヒカルを待っていたのはポーラの声だった。

 ちなみに、すでに日は暮れている。

 ギルドは閉まっている時間のはずだがカウンターにはジルが残っていた。ヒカルを見るとパッと顔を輝かせたが、すぐにポーラが駈け寄っていってしまったのでムスッとした顔に変わる。


「……なに?」


 つとめて素っ気なくヒカルは言ったが、ポーラはそんなことお構いなしだった。


「お帰りなさいませ。ヒカル様にお会いしたくてこうして待っていました」

「……いや、さすがにギルドの閉館時間を延長させるなんて不可能だろ。なにがあった?」

「察してくれてどーも」


 ポーラの態度に呆れ顔のピアが言う。


「実はあんたにも証言して欲しくてね……」

「証言? 冒険者たちの裏切りについてか?」

「そうじゃない。そっちはすぐに受理されたんだ。ていうか、相手の言い分も聞いて判断、みたいなことになるらしい」

「なるほど……ならゴブリンについての情報、というわけか」


 そこへジルが割り込んでくる。


「ギルドとしてはゴブリンの実態を把握しておきたいの。話を聞かせてくれるわよね?」

「あ、ああ……それは構わないが。これはなんだ?」


 ヒカルの腕がガッチリつかまれていた。

 そしてジルが向かおうとしていたのは——外だ。


「アタシ、お腹空いちゃった」

「そうか」

「非常に重要なゴブリン大量発生という情報をヒカルくんがさっさと持ち帰ってくれずに、時間をかけてくれたせいでお腹空いちゃった」

「…………」

「美味しいパスタのお店があるんだけど?」

「待て。まさか僕にまたおごれと?」

「ちょ、ちょっと! どういうことですの!? ヒカル様にたかっているのですかあなたは!」


 ポーラまで口を挟んできた。


「あら? ごちそうしてくれるならうれしいけど?」


 明日、ラヴィアが護送されるとなるとジルと食事をしている場合ではないのだが――実はジルとの食事、というより会話も、明日の作戦にとっては必要なことだった。


「……まあ、いい。僕もあなたに聞きたいことがあった。ギルドは空けていいのか?」

「ウンケンさんが残ってるから。前に言ったでしょ。受付嬢のひとりとサブマスターが王都に出張中だって。彼らが帰ってくるのよ。そのお迎え」

「ふうん」


 これについてはヒカルも思うところがあったが、今は聞かないでおいた。


「で、あの3人は?」


 ギルドを出るとポーラ、ピア、プリシーラもついてくる。


「……しょうがないわね。ゴブリンの話、聞きたかったし。ヒカルくんのついでってことで」

「僕に払わせる気か?」

「自分のぶんくらい自分で出すでしょう」

「どうだか……」


 見たところ3人組はそうお金を持っているようには見えない。ジルが行くような、パイ1つで100ギランを超える店は彼女たちにとって相当「お高い」のではないかとヒカルには思えた。

 ジルが連れてきたのは、表通りから2本ほど裏に入った——目的がなければ絶対に入っては来ない路地だった。住居が並んでいる間に挟まれるようにパスタを中心とした料理店「パスタマジック」があった。


(その命名センス)


 内心で突っ込みながら木製のドアを開けると外見のとおり店内は狭く、カウンター以外にはボックス席が2つあるきりだった。


「よお、ジルちゃん」


 カウンターの奥で調理に当たっていた、ずんぐりむっくりしたクマのような店長がジルに手を挙げる。予約していたらしくボックス席に通された。

 4人席だったのでイスがひとつ追加され、ヌボーッとしたプリシーラがそこにヌボーッと座った。座った瞬間、胸がたゆんと揺れるのを凝視しないようにするのがヒカルの精一杯だった。

 ヒカルの隣にはジルが座り、向かいにはポーラだった。空いた1席にピアが座ったが——ピアの、メニューを持つ手が震えていた。


「高っかい! 高過ぎ! こんなの払えねえよ!」


・煮込み牛肉と茜春草の彩りパスタ——210ギラン

・魚介のオイルパスタ——160ギラン

・【新規入荷】レッドホーンラビットのグリーンソースパスタ——590ギラン

 :

 :


 ヒカルですら思わず口笛を吹きそうになる金額だった。

 特にレッドホーンラビットの金額がヤバイ。


「店長、この子がヒカルくん」


 わざわざ直々に注文を取りに来た店長に、ジルが言うと、


「おおっ……ほんとうにちっこいな」


 2メートル近くありそうな身長を見上げながら、ヒカルは「そりゃアンタに比べればたいてい小さいだろうよ」と独りごちた。けして自分が小さいわけではない。そう思いたい。


 店長が自分で来たことにはわけがあった。


「そうかそうか。助かったぜ。最近レッドホーンラビットの仕入れが全然なくてよ。高騰している程度ならまだいいが、そもそも入荷がないんじゃあどうしようもない。そしたら急に、入ったと連絡が来て。今日も続けて入ったと来て。なにがあったんだと調べてみたらお前、入りたての冒険者が狩ったっていうじゃねえか。だからジルちゃんに言ったのよ、ウチにつれてこい。たらふく食わせてやると」


 この店を選んだのはレッドホーンラビットの関係らしい。


「そうか。僕も、どんな店に買われているのかは気になっていたんだ」

「どうだ? 直接うちにおろさねえか? 色つけて買ってやるぜ」


 あわてたのはジルだ。


「ちょ、ちょっと店長! それはダメですからね! そんなことしたら食肉卸の商会から冒険者ギルドが叩かれますよ!」

「わははは! 冗談だ、冗談。だけどこれくらいはいいだろ? なあ、坊主。俺はよ、気になってるんだ、レッドホーンラビットの内臓(モツ)が……」


 料理人としての職業人魂のせいか、店長の目がぎらぎら光る。


「これは捨ててきちまうだろ? 今度持って帰ってきてくれよ。どうにかして調理したい。そもそも流通しないもんなら俺が直接買ってもいいわけだ。いいか、坊主?」

「……ヒカル、だ」

「なに?」

「アンタは取引相手を『坊主』呼ばわりするのか?」


 ヒカルが店長をにらみつけると、店長の表情もすっと真顔になった。


「……そのとおりだ。すまなかったな、ヒカル。お前さん気に入ったぜ。今日は俺がおごるから好きに食え! その代わりモツの件は考えといてくれよ! ——ジル、ただし酒代は別だ。ちゃんと払えよ?」

「うっ」


 店長のおごりと聞いて——というか多少なりともそれを期待していたのか——ジルが表情を輝かせたが釘を刺されている。

 ヒカルが横目でジルを見た。


「…………」

「そ、そんなに飲まないわよ? アタシだって、分別ついてるんだから」

「…………」

「ヒカルくん、そんな冷たい目で見ないでよぉ!」


 ふだん、どんだけ飲んでるんだか……とヒカルは呆れた。

 正面のポーラたちはぽかんとしている。


「——だそうだ。いくら食ってもタダだとさ。でも飲み物代は払えよ」

「い、いいの?」

「ピア、目がぎらつきすぎ。ヒカルが驚いていジュルル」

「ヨダレすごいよ、プリシーラ!?」


 突然舞い降りた「食べ物フリー」宣言に大喜びのピアとプリシーラ。

 ポーラだけは申し訳なさそうにしていた。


「すみません……ヒカル様。こんなことになるとは……」

「僕だって知らなかった。というか『様』付けは止めてくれないか。僕のほうが年下だろうし」

「そ、そうですか? ……ご主人様がそうおっしゃるなら」

「なぜ格上げした?」

「私はあなた様の、よ、よ、夜の奴隷」

「照れて言えないなら無理して言うな。あと今後二度とそういう口を利くなよ? いや本気で」


 そんなふうにして、食事はスタートした——。




「——それでヒカルくん、どうやってゴブリンを追い払ったの?」


 料理が運ばれてくるとピアとプリシーラは黙々と食べ続けた。話し方ははすっぱ(・・・・)なのに、食べ方は礼儀正しいピアに軽くギャップがあった。

 パスタはどれも美味しかった。こちらの世界のパスタは——焼きそば以外では——初めてだったがヒカルも十分美味しいと感じるできだった。オイルと香辛料の味ががつんとくるが、どこか物足りない……そうか、ニンニクがないのか、などとひとりで考えていた。


「ウンケンさんから聞いていたからね。ゴブリンがいる可能性を」

「それはそうとして、群れを追い払う方法なんてアタシだって知らないわ」

「ヒカル様ですから、でしょう。ね?」

「ポーラは黙ってて。話が進まない」


 にこにこして持ち上げてくるポーラをジルが適当にいなす。


「……群れで行動するゴブリンを総称して『ゴブリンファミリー』と言うらしいな。特に統制が取れている群れはボスを中心に指揮系統ができていると」

「そうね。よく知っていたわね? それもウンケンさんから?」

「いや、資料庫の図鑑に書いてあった」

「資料庫の図鑑……あの古くて分厚い本か。ちゃんと読んでて偉いわ」

「読むのは当然だろ。情報のあるなしで生き死にを左右することだってあるんだ」


 ハッ、としたようにジルが口を閉ざした。

 この瞬間——ジルの胸にある思いつきが宿る。

 ジルはヒカルのことを「ラッキーな」少年だとずっと思っていた。

 しかし、それは違うのでは?

 この少年に特別な力はない——とジルは考えている——が、調べた知識を総動員して「冒険者」をしているのでは?


 今回のゴブリンのことだって、ポーラたちの言い分は話半分で聞いていた。冒険者は大げさに言うものだ。

「100体以上のゴブリン? 実際は10とか20でしょ? それをヒカルくんが追い払った? ふーん」という程度の認識だったのだ。それにかこつけて食事に行けばいいか、と思った。


「……ヒカルくん、もしかしてゴブリンリーダーがいた?」

「名称は知らないけど、ここの店長より大きなゴブリンと、角笛を構えた側近みたいなのがいた。ボスを叩けば群れは混乱するだろうと思って攻撃した」

「そんなことして!? 無事だったの!?」

「痛い」

「あっ」


 いきなり肩をつかまれた。

 それくらい無謀なことだったのだ。

 ゴブリンリーダーが確認された群れは、近隣の街にある冒険者ギルドが連携して討伐に当たる。放っておけば街から離れた村が襲われてゴブリンが大量に繁殖してしまうからだ。

 これは害虫駆除に似ている。被害が小さいうちに駆除するのは鉄則だ。


「ここにいるんだから無事に決まってるだろ」

「そ、そうよね……ごめんなさい。ゴブリンリーダーを攻撃して、うまく逃げられたのね。なにかを投擲したの? 弓?」

「……ああ、近くに毒草が生えていたからその汁を塗った、石をぶつけた」


 ヒカルはウソをついた。ボスゴブリン——ゴブリンリーダーをヒカルは殺したのだが、さすがにそれを言っても信じてもらえないか、信じられたとしても注目されるだけで面倒だ。

 毒で弱らせた。

 これはあらかじめ考えておいた筋書きだった。


「ボスを攻撃するくらいじゃないと、群れを退けることはできないと思ったからね。群れ全体を相手に戦うなんてナンセンスもいいところだ」

「それはそうね」

「…………」

「…………」

「…………」


 するとポーラ、ピア、プリシーラの3人がしょんぼりする。「群れ全体を相手に」戦っていた彼女たちだ。自分たちの行動がいかに無謀だったのか改めて身に染みているのだろう。

 ピアが口を開いた。


「あの、さ……ヒカル。助けてくれてほんとうにありがとう。あたしたち、どうやって恩返しをしたらいい?」

「この3人の貞操(はじめて)を捧げよう」


 ヌボーッとしながらもなかなかぶっ込んでくるプリシーラである。


「それは名案ね!!!!」

「しまったポーラにはご褒美だった」

「いい加減にしなさい! そんなものもらっても困るのはヒカルくんよ! ね? ね? 要らないよね?」


 なぜか必死にヒカルの腕をつかんで揺さぶってくるジル。

 相手も初めてならそれはそれで——なんて思いかけていたヒカルの精神が冷静さを取り戻す。


「恩返しとかはいい。要らない」

「でも、それじゃ……」

「だったらひとつだけ頼みたい。これはジルさんにもだけど」

「なに?」


 自分の名前も呼ばれてジルがヒカルを見る。


「今回のことは誰にも言わないで欲しい。僕は静かに冒険者としてやっていきたいんだ。他の冒険者に絡まれる機会を自ら増やすのなんてバカバカしい」


 ヒカルが他の冒険者に絡まれる——他ならぬ、自分のせいで——ことがあったのを知っているジルは、神妙な顔でうなずいた。


「そうね。あなたたちのパーティーへの裏切り行為の調査もあるし、それにゴブリンの件は広まると市民の不安を煽ります。だから今回のことは他言無用でお願いします」

「そんな……」


 運命を感じた相手となし崩し的に肉体関係を結べると思ったのに——と、一転して絶望した顔のポーラ。


「この話は以上」


 ヒカルはきっぱりと言った。

 若干もったいない気もしたが——今考えなければいけないのはそこじゃない。


「ジルさん、聞きたいことがあったんだけど」

「そう言えばそんなこと言っていたわね」

「王都に護送でついていく冒険者はもうポーンドにいるのか?」

「!」


 それはラヴィアの護送を請け負った冒険者だ。

 何の話かわからないポーラたちはきょとんとしていたが、自分たちに関係のない話だと気がついたのだろう、食事について感想を言いながら食べ始めた。


「……それを聞いてどうするの? もうこれ以上は言わないって……」

「王都から出張者が帰ってくるんだろ? いっしょに来たのかなって思っただけだよ」

「はー。ヒカルくん、変に鋭いのね」

「ただの世間話として聞いてるだけだ。腕利きの冒険者だろうし、興味を持つのはしょうがない」

「まあ……それもそうか。うん、今夜、到着予定」

「今夜ってもう暗いけど。門は閉まってるよな?」

「各種ギルド関係者は、特別な理由があれば通してもらえるのよ。彼女たちの王都到着が結構遅かったみたいで、そこから移動だからこんな時間に——」

「ちょっと待て。『彼女たち』?」

「そうよ? 護送を担当する冒険者は4人パーティーで、全員女性」


 ヒカルは考える。

 女性か。男だと思っていたが——護送対象が女性だからか?


「で、冒険者ランクはB」

「ブホッ」


 噴き出したのはピアだ。


「び、び、び、B!?」

「汚い」

「汚いわね……」

「汚いですよ、ピア」

「サイテー」

「…………ごめん」


 集中砲火を浴びて謝るピア。


「Bってすごいのか?」


 ヒカルがたずねると、


「そうねえ、ポーンド常駐冒険者の最高ランクはDってところね。王都には確かAがひとりいるはずで、Bは彼女たち以外には10人しかいないわ」

「……10人だと結構多いと思うんだが」

「ふふ。王都って行ったことないの? ポーンドとの人口比で行くと40倍とか50倍よ」

「マジか」


 そんなに大きいのか。

 ローランドによる王都の記憶はかすかにあるが、ほとんど馬車の中か、どこぞの屋敷の蔵書室だ。


「冒険者ランクBのパーティー名は『東方四星』。アタシも会ったことがあるわけじゃないけど、依頼の完遂率は今まで100%なんですって」


 その情報を、ヒカルは記憶に刻んだ。




 ジルたちと別れたときには夜の10時頃だった。

 こちらの世界では夜の10時ともなるとかなり遅い時間であり、酒場や一部の夜の街以外は街は眠りについている。


(明かりが点いている)


 ヒカルが向かったのは冒険者ギルドだった。

 ラヴィアが護送されるのは明日。明日の何時かはわからない。

 となると「金稼ぎ」と「位階ポイント稼ぎ」は昨日と今日でやらなければならなかった。


 最後に必要となるのは「情報」だったが、「情報」が足りなくとも「スキル」さえあれば——つまりポイントさえあれば苦境を覆すことが可能だ。それに、いちばん必要な「情報」である護送の冒険者、すなわちヒカルが出し抜かなければならない相手は護送の前日に到着するだろうと予想していた。

「情報集め」は2日目の夜にする、というのは当初の予定通りだった。


(さて、どんなヤツかな)


 鎧戸の下りている正面入口ではなく、裏口から入る。カギはかかっていない。人のいる場所はすぐにわかった。静まり返っている冒険者ギルドで、そこだけ声が聞こえているからだ。

 もちろん「隠密」関連はすべてオンにしてある。




「はっは。ギルドマスター、気にしすぎですよ」


 笑い飛ばすように言ったのは恰幅のいい男だった。彼の隣にはどこか疲れたような表情の、陰のある美人が立っている。

 それは王都へ向かっていた冒険者ギルドのサブマスターと受付嬢だった。


「予定通りに行かないことで心配にならないお前のほうがおかしい」


 答えたのはウンケンだった。やはり、ヒカルの見立てどおりギルドマスターだったようだ。


「その……なんと言ったか? お前たち……」

「『遙かなる綺羅星』だ。俺はCランクだぞ? こんな二流都市に来てやっただけありがたいと思え」


 不遜な態度でいるのは30代とおぼしき冒険者だ。

 それが、3名。

 ヒカルが「おや?」と思ったのはその声が男だったということだ。


 ヒカルは廊下で耳を澄ましている。

 ドアを開けて入っても気づかれない可能性が高いが、相手の冒険者はランクBだと聞いていたし、ウンケンの「直感」4がなにをしでかすかと思うとリスクは取れなかった。


「大体3人でどうやって護送するというのじゃ? 護送の基本は4人以上。前方、右方、左方、後方に最低限1人ずつ配置する――」

「あのなあ、ジイさん。俺たちは全員Cランクだ。街道沿いの移動で野盗が襲撃してくるなんて聞いたこともねえし、襲われたところで俺たちなら返り討ちにできる。よしんば女子どもがちょろっと逃げたところで逃げ切れるわけがねえだろ?」


 ヒカルはジルの情報を思い返す。

 名前は「東方四星」、構成は「女4人」、ランクは「B」。ヒカルの聞いていた情報と違う。

 なんらかの問題があって「東方四星」が来られず、代わりに来たのがその男たちということだろう。

 そしてウンケンはそれを心配している——。


「…………」

「俺たちは『東方』なんとかの代役じゃねえのよ。あいつらより腕がすごいと見込まれてきてるのよ。なんなのこの態度? 王都に帰ってもいいんだぞ?」

「そ、それは困ります。なにとぞよしなに」


 揉み手でサブマスターがご機嫌を伺う。


「じゃあわかってんだろうな? このあと——」

「はい。はい。店は押さえてありますから」

「待て。明日が護送任務だと言うのに夜遊びか?」

「ギルドマスター、出発は昼以降で構わないでしょう。王都到着だって正午に出れば夕刻ぎりぎりに着きます」

「…………」

「ではそういうことで。行きましょう、ノグサ様」

「おう。いい店なんだろうな?」

「それはもう——」


 サブマスターに連れられて去っていった3人。ヒカルはとっさにドアから離れる。ヒカルに気づかず4人は去っていく。

 扉が閉じられる直前に中を確認すると、ウンケンと受付嬢のふたりが残っていた。

 ヒカルにとっては初めて見る受付嬢だった。

 聞き漏らした情報がないかだけ、確認するためにそっと扉に耳をつける。

 ウンケンの深い深いため息が聞こえた。


「嘆かわしい……王都のギルドはどうなっておるんじゃ」

「はあ……どうも、戦争が始まったことが影響しているようで、王都ギルドは冒険者ランクをなるべく上げているようですね。上げることで戦時要請が来た場合に国から依頼金を多く取れますから」

「嘆かわしい……」

「はあ……」


 その後は業務に関する報告で、必要そうな話は終わったようだ。

 ヒカルはその場を離れた。


(ついてる)


 これはラッキーだった。

 監視の目が1つ減るだけでもラッキーなのに、冒険者の質まで下がっている(らしい)のだ。

 ヒカルは廊下からぎりぎり5メートル以内にいた3人の冒険者のソウルボードを確認していた。

 ノグサと名乗っていたリーダーらしき男のソウルボードはこうだ。



【ソウルボード】ノグサ=ガレージ

 年齢31 位階38

 33


【生命力】

 【自然回復力】2

 【スタミナ】2

 【免疫】

  【魔法耐性】1

  【疾病免疫】1

  【毒素免疫】1

 【知覚鋭敏】

  【聴覚】1


【魔力】

 【魔力量】2

 【精霊適性】

  【土】3


【筋力】

 【筋力量】6

 【武装習熟】

  【剣】4

  【鎧】2


【精神力】

 【心の強さ】4


【直感】

 【直感】1

 【探知】

  【生命探知】1



 魔法剣士タイプだろう。「生命探知」が1あるが、この程度でヒカルを探ることはできない。

 残りの2人も同じようなものだった。

 ヒカルは最後の「情報」集めをするべく夜のポーンドへと出て行った。


 救出作戦の決行は、明日だ。

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― 新着の感想 ―
女キャラが軒並みキモすぎる
[一言] なんか周りが女だらけになって一気に雰囲気悪くなったな パーティ組んでた少年2人とかどこいったんだよw あと、ほんとジルうざい 彼女じゃないし、こんなの誘ったやつが払って当たり前だろ しかも…
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