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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第4章 国家は踊る

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しばしの別れと指名依頼

 ヒカルはラヴィアとともにレニウッドの武器工房を出た。ドドロノに連れられたポーラはあとで迎えに行けばいいだろう。


「ケイティ先生のところに行こうか? いいものを作ってもらったし」

「そうしましょう」


 ふたり、のんびりとポーンドの街を歩いて行く。年がそろそろ変わろうという冬だが、年末の慌ただしさは内戦騒ぎのせいでここでは感じられない。もうしばらくするとポーンドにも雪が降るようだ。それでもフォレスティア連合国の長い冬に比べればたいした寒さではなかった。

 ケイティはケルベックのいる地下水道に近いところに宿を取っている。すると、ケイティが向こうから歩いてくるのに出くわした——彼女は両手に袋を抱えていた。


「先生!」

「あ——ヒカルくんか。奇遇だね」

「奇遇ではありませんよ。先生を探していたんです。ドドロノさんから聞きました。ありがとうございます、力を貸してくれて」


 するとケイティはにこりと微笑んだ。こうして見ると美人なのに、顔に炎の入れ墨が入っているせいでその美しさも台無しだなとヒカルは思う。


「いや、私にできることなど小さいよ。半ば実験に付き合ってもらったようなものだ——できればその後の使用感を教えて欲しいな」

「わかりました。それで——先生はもうスカラーザードに帰ると聞きました」


 こくりとケイティはうなずく。


「この袋も、旅路での入り用を買ってきたんだ。私はね、国境を越えるような長旅は初めてだったんだよ……来るときは君たちがいたから話し相手もいたけど、帰りはひとりじゃないか。だから暇つぶしに本を買った」

「え? 僕らもスカラーザードに行きますよ?」

「……そうなのか? ここは君の——なんていうか、本拠地(ホーム)みたいなものじゃないのかい」


 ホーム、と聞かれたら「違う」とヒカルは言える。ただ、なんだかんだ、この世界にやってきた入口がこの街だから愛着はある——少なくともこの街に内戦の影響が及ばないように立ち回る程度は。


「……このポーンドにはいろいろありましたからね」


 ヒカルがラヴィアの手を握ると、ラヴィアもまた握り返す。

 ラヴィアにとっても思うところのある街だ。


「先生こそ、もうケルベックさんのことはいいんですか?」

「兄とはだいぶ話をしたよ。魔導具研究については実家にもナイショで手紙でやりとりをしようとも話した」

「それはそれは……意外と仲がいいんですね」

「兄は優しいから話しやすいんだ」


 優しい? あの顔で?

 と思ったそれを口にする前に、


「ヒ、ヒカルくん! ヒカルくーん!」


 遠くからヒカルを呼ぶ声がする。見ると、向こうから冒険者ギルドの受付嬢——その制服を着たままのジルが走ってくるのが見えた。


「こんなところにいた! 危うく、冒険者にヒカルくんを見つけてもらうよう依頼を出すところだったわよ!」

「僕を探してたんですか?」

「今すぐギルドに来て! あなたに『指名依頼』なの!!」


 指名依頼、というシステムがある。

 冒険者を指名して依頼をすることが可能で、この依頼は他の冒険者は受諾できない。その代わり依頼費用は相場より2割増しとなる。指名依頼と言っても冒険者が受けようと受けるまいとそれは冒険者の自由なのだが。

 ジルはヒカルの肩を両手でつかんだ。


「なにをしたの!?」

「なにが?」

「依頼主は——クジャストリア王女殿下よ!」


 さすがのヒカルも、そこに心当たりはなかった。




 急いで冒険者ギルドへと向かう。

 面白そうだからとケイティまでついてきた。ギルド内はざわついていたが、ジルがヒカルを連れてくると静まり返った。ふだん以上に人が多い。

 ギルドの中心にいたのは、


「やあ、ヒカルくん。なにをやらかしたんだい?」


 にこやかに手を挙げる東方四星のソリューズがいた。他の3人のメンバーもいる。


「アンタがここにいるってことは……依頼のことを知っているのか?」

「ここにいるのはただの偶然だよ」

「あたしも知りたいから同席したいわ!」

「ちょっ、セリカ。君は直球で要求するなぁ……」


 ソリューズもセリカも、「王女からの指名依頼」が気になっていたようだ。

 ヒカルは一瞬、考えてから、


「依頼の内容を聞くのに、同席してもいいよ」

「いいのかい? てっきり秘密主義の君のことだから——」

「ただし、アンタたち4人だけな。他の冒険者はナシ」


 俺も俺もと身を乗り出そうとしていた冒険者たちは、一斉にムスッとする。ヒカルは彼らを完璧に黙殺して、ジルに導かれるまま奥の別室に入っていく。

 東方四星の同席を許可したのは、王女の依頼がどのような内容なのかまったくわからなかったことや、「指名依頼」の経験が豊かであろう彼女たちから情報をもらえる可能性を考えたからだ。

 向かい合う長いソファ。ヒカルとラヴィア、ケイティが座ると、ヒカルの隣にセリカとソリューズが座り、サーラとシュフィは小さなイスを持ってきた。

 ヒカルの反対側にジルが座るのかと思ったら、ジルはギルドのサブマスターを呼んできた。

 出世欲の強いこの男を、ヒカルはあまり好きではない。しかし彼は、ラヴィアが王都に護送される際には東方四星ではなくランクC冒険者を連れてきてくれた。おかげでラヴィアの救出がだいぶ楽になったものである。


「あー、ジルくん。君は席を外して」

「でも、その後の手続きなどはアタシが」

「それはオーロラくんに頼むから」

「…………」

「ジルくん」

「……はい、わかりました」


 不満たらたらという顔でジルは出て行った。扉がしまってからヒカルはたずねる。


「ジルさんだとなにか問題があるんですかね?」

「……彼女、口調が怖いんだよね。オーロラくんは話してて気安いというか」


 ははぁ、なるほど。わかるわかるとヒカルがニヤニヤしていると、受付嬢のオーロラが入ってきた。相変わらずの陰のある美人というたたずまいで、音も立てずサブマスターの横に座った。

 彼女が取り出したのは、今までの依頼掲示板に貼られていた依頼用紙とはまったく違うものだ。植物紙の封筒に、王家の紋章で封蝋がされている。


「指名依頼でもふつうはギルドが確認して冒険者に説明するんだけど、今回はやたら厳重でさ……直接冒険者に手渡しするように言われた」

「はあ」

「まったく、この忙しいときに王家は——あ、中読んでいいよ」


 本来は欲深なサブマスターだが、この混乱で消耗しきったようだ。顔はやつれているし、肌の色も悪い。元気いっぱいなジルと仕事をするのは疲れそうだ。

 ヒカルは封筒を受け取った。無造作にびりっと破くと中から書状を取り出す。


「……ふーん」

「なんて書かかれていたの?」

「ラヴィアも読んでいいよ。ケイティ先生もどうぞ」


 読み終わった書状をヒカルはラヴィアに渡すと、彼女も読み始める。


「えーとね、ヒカルくん……だったね。この依頼を受けるかどうかだけ教えてくれたらいいんだ。依頼の内容は君たちの心に秘めてくれて構わない。ただ、その場合、依頼達成の証明は直接君が王家に連絡を取る必要が——」

「とある文書をビオス宗主国の聖都アギアポールへ届けて欲しいそうです。期日は今日から起算して10日以内。ルートは自由だけど、アインビスト横断がいちばん早いらしく、レザーエルカの国境までは国が送り届けることも可能。馬は貸与すると」

「……え?」


 ヒカルがさらっと中身を話したことに、サブマスターは驚いて目を瞬かせる。


「報酬は、前金で50万ギラン。期日内に届けることができた場合は成功報酬200万ギランだそうです。成功失敗の確認は、遅れて外務卿がアギアポールへ入るそうなので、外務卿が確認するとのことで」

「な、な、な……なにを運ばせようとしてるんだ?」

「さあ、書いてませんね」


 だがヒカルは、今回の内戦に関するものだろうと踏んだ。下手したら数日内に両軍が激突するかもしれない今、外務卿が理由なく外遊するわけがない。十中八九、停戦に関するなにかだ。


(……ライジングフォールズが使い物にならなくなって、オーストリンがビオス宗主国に泣きついたのか。ビオス宗主国は停戦調停に駆り出されることが多かったはずだ)


 というヒカルの推測は、実のところほとんど当たっていた。


「ヒカル、受けるの?」


 ラヴィアに聞かれ、ヒカルは迷う。するとそれまで黙っていた東方四星のサーラが、


「なんでヒカルくんに指名依頼なんだろうねえ?」


 と、もっともな疑問を投げかけた。


「それはあれよ! 愉快痛快がヒカルのことを言ったのよ!」

「あ〜〜なるほどにゃー。それはセリカの言うとおりかも」

「——行くべきですわ」


 今度はシュフィが口を開いた。


「……その心は?」


 なんとなくうさんくさいものを感じながらヒカルが聞くと、


「ビオス宗主国はすばらしく美しい国ですわ。行くだけでその価値がありますもの」

「なるほど」


 もっともらしくうなずいておいた。


(ビオスと言ったら教会の総本山。ポーラがそんなところに行けば、教会の誰もが放っておかないだろうとか思ってるんだろうな……)


 シュフィの本音は「ポーラをなんとかして教会組織に引っ張り込みたい」なのだ。


「……10日以内、か」


 ケイティがぽつりと言う。


「この日程期限はなんなのだろう。外務卿が行かれるのであれば外務卿が文書を持っていけばよろしいのでは?」

「私もそこが気になったね。私たち冒険者にまで依頼を出す以上、王女殿下には切羽詰まった事情がおありなのだろう。でなければ貴族が許すはずがない」


 ソリューズもケイティの言葉に賛成する。


「10日以内という条件が厳しすぎるということでは? 僕だけじゃなく、複数の人間が複製(コピー)を運ぶんだろう。冒険者に依頼する、というのは意外ではあっても不自然ではないと思うけどね」

「……そうだね。ただ、それにしても10日以内というのはおかしい。王女殿下は期日を守るのに必死でいらっしゃる——つまりその期日は、王女殿下の頭の上がらない相手が出した条件。教皇聖下、かな?」

「教皇聖下……」


 ヒカルはふと、レザーエルカでの夜を思い出した。ライジングフォールズの「龍珠の杖」を盗み出したあの夜、ライバーは教皇に対してなんらかの報告をしていた。


(教皇……というか教会、神殿は「神」を信奉しているんだよな。ってことは「龍」だって信仰の対象でなければいけないはずだ。龍は神の下僕なんだから。でも教皇の下僕らしいライバーは、「龍珠の杖」を確保しようとした……単に「龍」に関する聖遺物(アーティファクト)みたいなものと思っていたのかな?)


 ちらりとラヴィアの首に丸まっている児白竜のコウを見る。


(……コウのこともある。一度教会の総本山に行ってみるのはいいかもしれない)


 ヒカルはこちらをじっと見つめているラヴィアへと視線を上げる。


「ラヴィアはどうしたい?」

「——きれいな神殿を見てみたい!」

「わかった。じゃ、引き受けます」


 ヒカルがサクッと引き受けたのでサブマスターはぎょっとする。


「い、いいのかい? 今、ポーンソニアとアインビストは友好的とはけっして言えない状況だ。なにか危険があるかもしれない——いや、ある、と思ったほうがいいだろう」

「ま、冒険者やってて危険がないなんてあり得ないじゃないですか。それに王女殿下も勝算があるから僕に頼んだんだと思いますよ。ランクE……じゃなかったランクDの冒険者なら警戒せず国境を出入りできますから」

「それは——それもそうか」

「ラヴィアが行きたいなら僕も行きたい」

「……そ、そうか」


 サブマスターがオーロラに、依頼受諾の手続きを進めさせる。そのかたわら、ラヴィアが照れてヒカルの脇腹をぐいと肘で押してきた。照れているラヴィアも可愛いと思っているヒカルである。


「あっ、すみません、ケイティ先生。いっしょにスカラーザードに行けなくて……」

「構わないよ。正直を言えば君が少しだけうらやましい。冒険者というのはなんとも自由な職業なんだね」

「春までに戻ってこられたら、クロードの結婚式にも行きたいですよ」

「彼らもきっと望んでいるよ」


 春には合同結婚式があるのだ。それまでに戻れるだろうか? 何事もなければ戻れるはずだ。


「あたしもビオスに行きたいわ!」

「駄目に決まってるでしょ、セリカ……。まだ内戦中なのよ」


 ぶーぶーと唇を尖らせているセリカ。彼女もだいぶ自由である。

 依頼受諾の手続きが済んだらしい。ヒカルは明日王都で「文書」を受け取り、そのままアギアポールを目指すことになった。


 残:182,602ギラン(+112,050,000ギラン)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで東方四星も同席させたんでしょうかね?後々意味が出てくるのかな?
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