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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第4章 国家は踊る

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太陽乙女の救出

 集落の長が住んでいるいちばん大きな家——と言っても、木造2階建てで、5部屋ある程度のものだ。東方四星の3人を含む冒険者たち19人はここで籠城していた。


「正面入口は封鎖したぞ!」

「便所の穴も外につながってやがったから閉じてきた! で、でもこれでほんとうに大丈夫なのか!?」

「小便したくなったらどーすりゃいいんだ?」

「んなもんツボにでも入れとけ!」


 ソリューズの指示で冒険者たちは家を強化していた。木造ではあったが見事な木材を使った家なので、防御力は多少期待できそうだった。

 そのソリューズ自身は、魔導ランプの明かりだけの薄暗い1階の広間に横たわっていた。床にむしろを敷いただけのそこにはソリューズ以外にも5人が横になっている。中央ではシュフィが汗を垂らしながら回復魔法を発動していた——これは治癒のための魔法ではない。単に、命をつなぐためのものだ。


「これで、大丈夫なのですか……ソリューズさん」

「あ、ああ。これでいい」


 ソリューズの顔は青ざめており、息も乱れていた。実のところ彼女もまた毒に冒されていた。ギガントロックヴァイパーの毒は猛毒であり、治療するにはある程度の時間をかけて一気に回復魔法を使わなければならない。だがソリューズを救う間に他の冒険者が死ぬ可能性が高い。全員を生かしておくにはこうして「現状維持」するのが手一杯だった。

 シュフィだからできた芸当であり、生半可な回復魔法使いであればたったひとりすら救うこともできないだろう。


「すっ、すまねぇ、ソリューズ様……アンタぁ、俺っちの命の恩人だ……」

「いい……弱きを救うも冒険者の務めだ」


 ソリューズをここまで運び、彼女の横で泣いているのは東方四星の倒したギガントロックヴァイパーの素材を盗ろうとした男だ。彼自身は外傷だけで済んでおり、それはポーションでほぼ治っている。

 残りのポーションはここへの移動で使い切っていた。解毒ポーションはギガントロックヴァイパーの毒が回るのを遅らせる程度しか機能しなかったのも大きな誤算だった。


「で、でもよぉ! こんな家に籠もってたって、どうなるもんでもねえだろ!? アンタたちに従ってここに来たけど! 村人に混じって俺たちも逃げるべきだったんじゃねえか!?」


 集落に残ることを選択したのはソリューズの指示だ。

 こうしなければ集落の住民は間違いなく全滅しただろう。だがソリューズたちも、ケガ人を運び入れ、家の補強をするとあっては、ネコハの街へと伝令を1人走らせるだけが精一杯だった。


「問題ない……」

「そ、その自信はどこから来るんだよ——んあッ!?」


 ドォン、と壁が軋み、ぱらぱらと天井から砂が落ちてきた。


お客さん(・・・・)が到着したよぉ〜」


 2階からサーラが下りてくる。


「ギガントロックヴァイパーが6体、ギガントロックリザードが2体、ダブルネックヴァイパーが1体だねえ……全部ついてきちゃった」

「ひ、ひ、ひぃっ!」

「ダメだ、死んだ! ここで死ぬんだ俺たちは!」


 ギガントロックヴァイパーは討伐推奨ランク「C以上」、特殊個体であるギガントロックリザードとダブルネックヴァイパーは「B以上」だ。

 ツブラならば軍を動員し、犠牲を払いながら討伐するような相手である。あるいはまったく刺激せず、フォレスザードから高位の冒険者を招聘するしかない。

 再度また家が揺れる。玄関ドアは裏から板を打ちつけ、テーブルを立てかけているが、めりめりめりとイヤな音を立てた。

 シィィィ、シィィィ、と蛇の鳴き声が聞こえてくる。それを聞いた冒険者は泣きながら部屋の隅へと行って、頭を抱えて震えた。


「サーラ……何匹やれる?」

「んー、時間かかるけど、ギガントロックヴァイパー2匹ってところかなあ? 死ぬ気でやれば3匹」


 サーラの返答に、冒険者がざわつく。サーラはどう見ても斥候タイプだ。なのに、ソロでギガントロックヴァイパーを倒せると言うのか?


「死ななくていい……時間さえ稼げれば」

「あいよ。——ソリューズ、無茶するのもいいけど、死なないでね? 真面目な話」

「まだ死ぬわけには……いかないよ」

「ん」


 そしてサーラは階段を上がり、2階へと消えていった。窓もすべて閉じていたが2階の天井裏から屋根の上へと出るルートだけは残してある。


「あの姉ちゃんひとりで行っちまったぞ!」

「大丈夫……」

「で、でもよぉ、倒せても3匹なんだろ!? 残りはどーすんだ!」

「大丈夫……だ」

「だから! なんでそんな自信満々なんだよ!?」

「……ふっ。群れているような相手は、敵じゃないからだよ——セリカ(・・・)にとってはね」


 そう。ソリューズは信じていた。セリカがここに来てくれることを。

 強大な相手との1対1ならばソリューズのほうが向いているが、モンスターの数が多いならばセリカの出番だ。

 実際のところ、東方四星においてはソリューズとセリカが2大戦力であり、単純に攻撃力だけならばセリカが圧倒的に上だ。


「おおっ」


 冒険者たちの声が上がったのは、外で戦闘音が聞こえてきたからだ。

 小さめの爆発音が響いた。サーラが煙幕を焚いてモンスターを攪乱しているのである。これでまたしばらくは時間が稼げるだろう。


「それに……()もきっと来る」


 ぽつりと言った言葉をシュフィは聞き逃さなかった。


「——あの少年(・・)が来ると? どうして……ソリューズはあんな人を頼りにするのです」

「ただの、勘だよ……来てくれれば勝ちが確実になる」

「でも……」

「……シュフィ、モンスターを倒すのに、善悪はない……彼がいて、みんなが救われるならそれでいいじゃないか……ゲホッゲホッ!」

「話さないで、体力を温存してください! ……わかりました。望んではいませんが、確かに、彼がポーラさんを連れてくればすぐにあなたも動けるようになりますね。望んではいませんが」


 シュフィのこめかみから汗が滴り、アゴを伝って落ちた。

 高度な魔法をかけ続けていても集中を切らさず、それでも雑談できるほどに練度が高かった。

 外では戦闘音が聞こえ、誰も彼も話さなくなり、ケガ人の荒い息だけが室内で聞こえていた——。


「——ていうか、二度も『望んでない』と言われると出てきづらいだろ。ちょっとは気を遣ってくれ」

「!?」


 シュフィはびくりとして階段を見上げた。


「やあ……やっぱり来たね」


 ソリューズが弱々しく笑う。それを見た少年——ヒカルは、結構、タイミング的にギリギリだったのかと思った。


「お待ちかねのポーラだ」

「しゅ、シュフィさん! どんな状況——うわぁ!? 皆さん大丈夫ですか!?」


 ヒカルはポーラとともに1階へと下りる。冒険者たちも、どこからヒカルがやってきたのか驚愕の目で見ていたが、


「お、おいっ! 救援が来たのか!?」

「ああ」


 ヒカルが応えると「うおおお!」とか「やった、生き延びた!」とか歓喜の声が上がった。


「何人だ!? 何人来てくれた!? 30か! 50か!?」

「7人」

「……え?」

「3人は僕らを乗せてくれただけだから、実質的な救援は4人だな」

「…………」


 死のような沈黙が降り立ったが、ヒカルは無視してソリューズのそばへと寄った。身をかがめて彼女の耳元で囁く。


「……ポーラには魔法を使わせるけど、シュフィの補佐をしたということにしてくれ」

「……まだ彼女を隠したいのかい?」

「……アンタたちの名声は高まるし、こっちはアンタに貸しができる。悪い話じゃないだろ?」

「……ひどいな、君は。拒否権なんてないじゃないか?」

「……アンタのことだ、こうなることまで見越してたんだろ。どこが『太陽乙女』だ。『腹黒乙女』に改名しとけ」

「……周りがそう言うのでね。君も『太陽少年』を名乗ったらどうかな」

「……言ってろ。っつーかアンタ割と元気だな?」


 立ち上がったヒカルはポーラにうなずきかける。すでにポーラもどう振る舞うべきかわかっている。

 回復役はシュフィ。ポーラはアシスタント——そう振る舞うべきだと。


「あなたは——」


 言いかけたシュフィにヒカルはちらりと視線を向けただけで、すぐに背中を向けた。そして階段を駈け上がる。


「……っ」


 シュフィは下唇を噛んだ。彼女の思惑がどうあれ、心では「これで助けられる」と安心したのも確かだったからだ。

 直後、地響きとともに家が揺れる。

 その揺れはまるで——強力な魔法が発動したかのようだ。

「台風の目」の考察は次回になりました(すんません)。

しっかり恩着せがましいヒカルさんと、涼しい顔(状態:猛毒)のソリューズさんでした。

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