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得られたもの

申し訳ありません。「遺跡へと続く道」と「「谷」の探索」の間のテキストを貼り忘れておりました……。

ご指摘いただいて気づきました。ありがとうございます。

こちらはそれぞれの話にくっつけるよりも独立した話として入れ込んだ方がわかりやすそうでしたので「放送塔とラジオ局」というタイトルで挿入してあります(この話から2話前になります)。

短いですが、お読みいただければ幸いです。

 他の「職業」を重複して3つまで選択できる——ヒカルは身震いした。


(「隠密神」「投擲神」を併用できるということか? 完璧に姿を隠した移動狙撃手ムーヴィングスナイパーとかもできるということか? さらに「広域探知神」まで入れれば、相手に探られず、こちらは探ることもでき、長距離も短距離も攻撃可能というとんでもない——暗殺者ができあがりだ)


 結局のところ、ヒカルのスキル構成では「暗殺者」に落ち着きそうなのが物騒ではある。そして、一度も設定したことのない【暗殺神:ナイトストーカー】なる「職業」もすでに所持している。

 ヒカルが所持しているスキル構成なら「職業」の力なしに、今考えていたようなことは可能だ。だが通常の相手なら問題なくとも、剣聖ローレンスのように頭1つどころか3つも4つも抜けている人間が相手だと「職業」の力も必要になる。

 それだけではない。【凡混沌神:台風の目】や、【森林散歩神:フォレストウォーカー】などの、効果が不明な「職業」を確認するのにも役立つだろう。3つのうち、1つを「隠密神」にでもしておけば大抵の危険は回避できる。その上で試したい「職業」をセットすればいい。今回の【下級天ノ遣神:レッサーエンジェル】のように、たまたま「職業」の効果が判明することを期待するよりもよほど生産的だ。


(こうか……?)


 ヒカルは太田の記述のとおりに、ギルドカードの「職業」をまずレッサーエンジェルにし、それから選びたい3つの「職業」——「隠密神」「投擲神」「広域探知神」を強く脳裏に描いた。すると——。


「む」


 ギルドカードの表示が変わった。



【冒険者ギルドカード】

 【名】ヒカル

 【記録】ポーンソニア王国ポーンド冒険者ギルド

 【ランク】D

 【職業】□▲ヲヘェイ%2○※



 これでいいのだろうか——と疑問に思う必要はなかった。

 身体の中に芽生える感覚が、ヒカルにはっきりと「職業」の効果を実感させていた。今ならばどんな敵からも姿を隠せそうだし、どんな的にも石を投げ当てられそうだし、どんな厄介な敵も発見できそうだ。


(とんでもない収穫があったな)


 この「職業」のベストチョイスやパターンについては後でまた考えることにして、ヒカルは備忘録を読み進めた。

 わかったことがいくつかある。「聖魔」は「紫龍」から提供を受けたと書いてあった。そして「聖魔」とは「聖なる魔力」であり、「天より与えられた貴重な魔力」といった意味で使われているようだ。

 性質は電気に似ているが、魔力としても扱うことができる非常に便利で強力なエネルギーだという。立方体や正八面体など、様々な形で「紫龍」が「聖魔の欠片」をもたらした。

 そこに「球」はない——ヒカルが思い浮かべるのは「聖魔球」だ。「球」と言いながら立方体だったあれには、おそらく、「龍」が閉じ込められていた。

 旧ポエルンシニア王朝とここでは距離がある。太田の得た技術が隣国まで届くことはあり得るのだろうか? いや、旧ポエルンシニア王朝は「聖魔」の力を使って大陸を平らげようとしていたはずだ。ほぼ独占的に技術を持っていたに違いない。「ラジオ局を作ろう」みたいなノリではまったくない。


「……こいつのせい、か」


 読み進めると、文章が不穏になってきた。仲間のひとりが「聖魔」の力に魅せられていく。軍事的用途でも大いに利用可能であり今すぐ使用すべしと太田に言う——つまり「聖魔」を使っての世界征服を勧めてきたのだ。太田は危険を覚え、「紫龍」にも、これ以上の「聖魔」は要らないと告げた。

 災害やモンスターへの注意を促すために、無線による連絡と、ラジオ波による広域放送を考えていた太田。娯楽のひとつとしてもラジオを考えていた——それなのに、ラジオ局の完成も待たずに備忘録は突然終わりを告げる。



『ルーヴィンヤードは裏切った。村人を襲い、人質とした。私もまた人質として幽閉されそうになったが村人の助けで逃げ出すことができた。村人たちは言った。私さえいればすばらしい世界は開かれるのだと。私が彼らに語ったラジオの夢を信じ、私の発明が私のオリジナルなのだと信じ、私が世界中の人たちに笑顔を与えられると信じた。私など放送会社で働いていた一介の技術者に過ぎないというのに。

 ルーヴィンヤードは私を人質にして紫龍を呼び出すつもりなのだ。そして紫龍を封印し、半永久的に「聖魔」を抽出しようとしている。もちろん、一度天へと帰った紫龍が戻ってくる可能性はほぼない。だが、もしも戻ってきたら。あのお人好しの龍がルーヴィンヤードになど捕まらぬよう、私は研究拠点であり住居だったこの塔に籠もり、塔を封印することにした。塔がなくなっていれば紫龍も気がつくはずだ。……気がついてくれるよな? あの龍は抜けているから気がかりである。しかし他に選択肢はない。私の余命もわずかだ。私の父と同じ、末期ガンの兆候がある』



 ルーヴィンヤードという野心を持った男の裏切り。そして太田はこの三重塔を「封印」した。その封印こそが地中に埋まったことなのではないかとヒカルは考えた。

 備忘録は次の内容で終わる。



『封印によって聖魔はほぼ尽きた。私がこのまま死んでも、なんとか経年による劣化を防ぐ調整はできるだろうが、誰かがここに入り、塔内設備の稼働が始まれば一気に残りの聖魔を使い切るだろう。私はこの場で死ぬことを選ぶ。村人は私を逃がそうとしてくれたが、ここには膨大な量の聖魔に関する研究内容がある。これをすべて持って移動はできない。それに、私も70歳を超えてからめっきり身体が弱った。願わくば、私と同じ、日本からの旅人にこの研究を活かしてもらいたい』



 ヒカルは備忘録を閉じた。

 こちらの世界に来てからの太田の人生はそう悪くなかったはずだ。最後に、野心に目がくらんだ男が現れるまでは。

 村人が救ってくれた命だが、遠くに逃げることはせず——逃げられなかっただけかもしれないが——ここでの死を選んだ。もう、これ以上、どこか知らない場所へは行きたくなかったのかもしれない。


「知ってる名前だ……」


 このルーヴィンヤードという男の名前に、ヒカルは見覚えがある。旧ポエルンシニア王朝から持ち帰った数少ない戦利品の1つである、「聖王朝系譜」。ガフラスティが欲しがっていたものであり、ガフラスティがポエルンシニア王朝の血を引く人間であることを証明するものだった。

 細かいところまでは覚えていないが、あそこに、「ルーヴィンヤード」という文字があったはずだ。王朝を建てた人物ではなく、王女を娶るなどして王家に入り込んだのだ。つまりルーヴィンヤードは「紫龍」を「聖魔球」に封印し、「聖魔」を利用しポエルンシニアを大陸の覇者にする基礎を作ったのだ。


「読み終わったの、ヒカル?」

「ああ。1階の巻物は、『聖魔』に関する研究らしい——」


 と言ったときだった。

 室内が一瞬、暗くなる。チカチカと明かりが点いたり消えたりする。塔全体が大きく震えた。


「なっ——」


 備忘録を思い出す。「誰かがここに入り、塔内設備の稼働が始まれば一気に残りの聖魔を使い切るだろう」——ヒカルたちが入ったことで照明が点き、聖魔を使い切ろうとしているのか。

 ずずずずずと壁が、天井が、床が振動する。


「まずい、脱出しよう!」

「は、はいっ!」


 ヒカルはラヴィアの手を握ると引き寄せ抱きかかえる。瞬発力を生かして一気に階段まで跳躍、落ちるように階段を下る。


「ポーラ!」

「ひ、ヒカル様ぁ……これ、なんですか?」

「逃げるぞ!」


 うずくまっていたポーラを引き起こし、階段を下りて1階へ——だが、


「ッ!」


 照明が途切れた。どぉんと音がして土埃が舞う。どこかの壁が崩れたかもしれない。魔導ランプの光が土埃によって遮られる。


「チッ」


 金属扉の正面に土砂が流れ込んでいる。ドアを押し開けようとしても、びくともしない。蹴り飛ばしてもがぁんと音が響いただけだ。


「ヒカル!」

「どどどどうしましょう!?」

「ドアから離れろ、ラヴィア、ポーラ!」


 ヒカルは懐にしまってあるリヴォルヴァーを取り出した。躊躇せず引き金を引くと業火で真昼のような明るさになる。金属の扉は向こうへと吹っ飛んでいく。燃焼した空気と外気が混じり合って強い風が吹き荒れる。


「走れ! 外だ!」


 爆風によって炎が舞い、壁に、書棚に、天井に火を点ける。外と違って乾燥していたせいもあって一気に燃え上がる。


「ヒカル、巻物が——」

「走れ! 崩れるぞ!」


 ポーラが先に外に出て、一瞬ラヴィアが渋ったが、その手を引いて走り出す。

 直後、ドドドドォンと音がして天井が落ちてくる。塔は土砂とともに内側に押しつぶされる。


「っぐ!?」


 衝撃でヒカルは前のめりに転ぶが、ラヴィアを引き寄せ、彼女の身体を守って転がった。


「いっつぅ……」


 頭に手を触れると濡れた感触がある。血のようだが、転がったときに魔導ランプも割れており光が足りない。塔が潰れたせいで火も消えたようだ。


「無事か……ラヴィア」

「ひ、ヒカル!」

「ヒカル様!? 治療を!」


 先に難を逃れていたポーラは無傷のようだ。


「治療の前に外に出るぞ……ここも崩れないとも限らない」


 ヒカルたちは這々の体で外へと出た。

 相変わらず明るい陽射しが降り注いでいる渓谷だったが、振り返り、見上げると、看板のあった場所からもうもうと煙が上がっていた。


「ヒカル様、こちらへ!」


 ポーラが回復魔法をかけてくれる傍らで、ラヴィアは言った。


「なにかを……持ち出す余裕もなかったわね」

「ああ。まあ、崩落のおかげで巻物の半分くらいは焼けずに済んだかもしれない。ケイティ先生にも教えたらきっと喜ぶ」


 崩落の調査が始まれば、どのみちわかることだ。「聖魔」の力は絶大のようだが、「龍」と接触しない限りはもたらされないエネルギーでもある。

 それにもし巻物が全部ダメでも、ヒカルは重要な情報を手に入れた。レッサーエンジェルの使い道は、あまりに強い。


「…………」


 しかし、新たな力を手に入れたことのうれしさよりも、太田の最期を思うと心が沈んでしまうヒカルだった。

ヲヘェイ

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