放送塔とラジオ局
抜け落ちていた部分の文章です……申し訳ない。
ヒカルががんばって説明した結果、「不特定多数に音声を届けられる魔導具」「この塔はその魔導基地」といった理解に落ち着いた。大体合っているのだが、全然間違っている——そんなもどかしい気持ちである。
一方で壁に書かれた内容を読んでいったセリカは、いくつかの固有名詞を教えてくれた。この塔——放送塔に出入りしていたらしい人たちである。全部で、9人。日本語で書いてあるから書いていた日本人の名前はわからない。そして壁の内容は、基本的に「落書き」らしい。日記というか愚痴というか、日本語を周囲の人間が読めないことをいいことに書いていたようだ。
ひとつずつ翻訳して読み上げると大喜びでメモを取るボック伯爵のお付きの人たち。
「——とはいえ、このラジオ局……魔導具が稼働するかどうかはわかりませんよ」
ヒカルが念のため言うと、
「わかっている。用途がわかるだけでもすばらしいことなんだよ、ヒカル。これで研究が数十年分進むかもしれないんだ!」
「そういうもんですかね……」
「ワシたちまで聞いてしまっていいのかね、ヒカル殿」
ケイティには情報を提供するつもりではあったが、ボック伯爵はたまたま居合わせただけだ。気兼ねするのかもしれない。
「これからシルベスター含め、連合国内で協力していくんでしょう? なら、僕も多少は協力しますよ」
「そうか……ありがたいことだ。どうじゃ? クロエをやろうか?」
「お断りします」
面倒ごとを起こしそうなクロエは全力でノーだ。そのクロエは、セリカが落書き内容を読み上げている合間を縫って「ソリューズ様はどんな食事の好みがあるのでしょう?」「ソリューズ様には心に決めたお相手などいるのでしょうか……?」なんて聞いている。やはり、全力でノーだ。
「冗談じゃよ」
「いや、持て余してるでしょ、クロエを?」
「ヒカル殿、我らツブラ人……こういう言い方も今後しないのかもしれぬな。連合国民は受けた恩には報いたい。シルベスター様を救い、龍腎華の葉を分けてくれたことも忘れてはおらぬよ。必ずなにかで報いよう」
「そうやってクロエを押しつけようとしても要らないですからね?」
「あ、あれは冗談! ほんとのほんとに!」
ヒカルたちは階段を伝って最上階を目指す。中がカラッポの石の塔がいまだに崩れていないのは、魔術的な処理もなされているかららしい。その処理については既存の魔術と変わらなかったそうだ。
ボック伯爵は「ツブラに保管されている解読不能の文書についても是非読んでいただきたい」と言っていた。
「ここが最上階……だが、気をつけてな。板は張り直してあるが、補強は完璧ではないのだ」
最上階は木の床となっていた。天井もまた木材で、その上は空だ。
「あー……これか」
ボック伯爵たちの言うところの「巨人の笠」が取り付けられている場所から、銅線が伸びており、巨大な機械に接続されている。
大きさで言えば洗濯機。メーターや調整用のツマミがついている。この世界でほとんど見かけない「機械」らしい見た目だ。
目を惹くのは、機械の中央にある凹みだ。数センチ程度で、凹みは石をくりぬかれており、その内部には金属がいくつか露出している。
凹みの下には、ラベルが貼られてあった。
「『聖魔充填』……」
それは確かに、ヒカルが「古代神民の地下街」——旧ポエルンシニア王朝の遺跡で見つけた「聖魔球」がぴったりはまりそうな凹みだった。