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ツブラの冒険者ギルド

「せっかくツブラに来てもらったというのに失礼をしてしまったな。おお、そうだ。今日いっぱいクロエをこの町の案内としてつけよう」


 と言うボック伯爵のあまりありがたくない申し出をむげにもできず、


「……クロエ=アルトだ」


 明らかに不服そうなクロエが今日の午後の案内としてつくことになってしまった。

 ヒカルが驚いたことには、フードを取ったクロエは金髪に、尖った耳——つまりエルフだった。


「なんだ、じろじろ見て。フォレストエルフがそんなに珍しいのか——いひゃい!?」

「すまんのう、クロエは口が悪くてな。根はいいヤツなのだが……気に入らんことがあったらこうして頬をつねってくれい」

「いや、わけわからん」


 ヒカルはのしをつけて返そうと思ったが、ハッハッハと高笑いしてボック伯爵は去っていった。これから領主と会合があると言って。

 なんだか、厄介者を押しつけられてような気がしないでもない。


『フォレストエルフは初めて見たわねー。やっぱこう、「ザ・エルフ」って感じでいいわね』

『「()・エルフ」じゃないのか』

『細かいことはいいのよ』

『というか……フォレストエルフってなんだ? スピリットエルフとなにが違う?』


 ここ連合国のマルケド女王がスピリットエルフという種族だったはずだ。同様に、学生連合の仲間であるクロードも。


始祖(オリジン)エルフから派生していった種族みたいよ。森で暮らすことが長くなり、「森の民」とも言われるフォレストエルフは、日本人の知ってる一般的なエルフイメージよね。スピリットエルフは早いうちに他の種族とともに生きる道を選んだ。外見はあまり人間と変わらないけど、感覚に優れてて、自分たちがエルフの血を引いているということを誇りに思っているとかなんとか』

『へー』


 その、森の民であるはずのクロエは、食事を終えてお茶を楽しんでいるヒカルたちに憮然とした顔を向けていた。


「不服そうな顔をしているときは頬をつねっていいんだっけ?」

「ち、違う! あれはボック伯爵のお茶目なご冗談だ! 貴様らがどうこうできることではない!」

「残念エルフ……」

「フォレストエルフだ!」

「そのフォレスト()ルフはどこを案内できるんだ?」

「ウルフではない! エルフ! ——この街は何度も来たことがあるから、どこだって連れて行ける」

「まあ、僕らは特に行きたいところもないんだけど……」


 ちら、とヒカルがラヴィアを見ると、


「ネコが見たいわ」

「よし森ウルフ。ネコの居場所に連れて行け」

「ネコなどどこにでもいるだろう!? それに、エルフ、だ! エルフ!」

「犬っころが生意気だぞ」

「貴様ァ……!」

「ほう、その態度、ボック伯爵に報告していいんだな?」

「ぐっ」


 ぎりぎりと歯を食いしばったクロエは、


「……ネコの多い裏路地に連れて行こう」


 振り絞るように言った。

 それをヒカルは満足そうに眺める。


「私もヒカル様に痛めつけられたい……」

「ヒカルくんは結構性格が悪いな」

「ソリューズに似てる気もするけどねえ〜」

「ざまぁ展開では完膚なきまでに相手をたたきのめして屈服させるのがセオリーよ!」

「……軽蔑します」


 ポーラと、東方四星のメンバーが好き勝手に言っている。ポーラの願望がまずいところに行こうとしている。


「東方四星は行きたいところはないのか?」

「ん? 私たちか? 実は行こうと思っていたところがあってね——」




 結局、クロエに連れられてやってきたのはネコハの冒険者ギルドだった。東方四星は各町の冒険者ギルドには必ず顔を出しているらしい。ツブラへ移動中に立ち寄った街には、ギルドの出張所程度しかなかったのでスルーしていたようだが。

 顔を出す理由としては、街の冒険者では解決できないような難しい依頼がないかどうかを確認することが第一。そんな依頼があれば東方四星は請け負って解決するという。

 後は、たとえばシュフィは「天の遣い」に関係しそうな依頼がないか確認したり、セリカは「異世界に移動する方法」に関係しそうな情報をチェックするし、ソリューズも、サーラも、東方四星としての活動以外にやるべきことがあるのだそうだ。そして、「どうしても請け負いたい依頼」があった場合は全員で協力して達成する。


「ここが冒険者ギルドだ」


 ネコハの街の中央広場は、役所や各種ギルドが密集している。市場の次に、人の往来が盛んな場所と言えるだろう。

 1メートル程度の高さに石垣が組んであり、その上にギルドの建屋が建っている。入口は石垣の上なので、数段の段差があった。


「——結構広いね」


 真っ先に入っていったのはソリューズだ。東方四星のメンバーが続き、ヒカルたち、クロエの順番で入っていく。

 確かに、広さを感じる造りだった。吹き抜けになっていて、2階の資料庫やギルドマスターの執務室が見える。1階は半分がラウンジのようになっていて床下に暖房設備が走っているようだ。奥には受付のカウンターと依頼掲示板がある。併設されている冒険者用の酒場へ行くには扉を開けて隣の建物に移る必要がある。

 内装は木目で統一されており、壁にはなんのモンスターかわからない、巨大な牙や、剥製にされた獣の顔が掛けてあった。


「おお?」

「見たことねぇ女だ」


 東方四星に注目が集まっている。それもそうだろう。女性ばかり4人のパーティーで、控えめに言っても美人ぞろいだ。特にソリューズが目立つ。白銀の胸鎧(ブレストプレート)もそうだし、シニヨンにしている輝かんばかりの金髪、それに美しい顔立ちは「正統派美人」である。

 視線を完璧に無視したソリューズたちはカウンターへと向かう。受付にいた女性職員は目を瞬かせている。


「君」

「あ、は、はいっ! なにかご用件でしょうか?」

「この街で、解決できないような大型モンスターなどの依頼は出ていないかな?」

「へ?」


 東方四星はポーンソニア王国でずっと活動していた。王国内ならば知らぬ者のいない彼女たちだが、フォレスティア連合国——しかもツブラの辺境ともなれば話は別だ。職員も知らないらしい。


「え、ええと、あのぅ……どういうことでしょうか?」

「この町の冒険者では解決できないような依頼が残っていないかな、と聞いたんだ」


 とソリューズが言ったときだ。


「おいおいおいおい〜。ねぇちゃんよぉ、まるで、この町の冒険者が役立たずだったらお役に立ちますとでも言ってるようじゃねぇか?」


 ヒゲ面の男がカウンターへと歩いていく。筋肉ガチガチでそれなりに腕が立ちそうではある。

 ソリューズはにこりと微笑んで、


「その通りだよ。君たちが『役立つ冒険者』であるのなら、それでいいんだ」

「だってよ! 聞いたかおめぇら?」


 ヒゲ面が肩をすくめると、下品な笑い声が上がる。


「俺たちゃそりゃぁもう役に立つ冒険者よ。だからさっさと帰りな——」

「あ〜、ギガントロックヴァイパーの討伐依頼が残っちゃってるねえ〜。もう1年も討伐されてないじゃーん」


 サーラが依頼掲示板でそれを発見した。


「どうやら、君たちはあまり役に立てていないようだね?」

「…………」


 ヒゲ面の額に青筋が走る。


「……んだぁ? おめぇらはギガントロックヴァイパーを殺せるとでもいうのか? 討伐推奨ランクはC以上だぞ」

「そのためにここに来たんだ。昼から油を売っている君たちとは違う」

「ほぉぉぉ」


 ヒゲ面に呼応するように、数人の冒険者が立ち上がる。


「それじゃぁ、ちょっとばかし役に立つねぇちゃんに手ほどきしてもらおうかよ? なぁ、お前ら」


 おお、みたいな声が聞こえるが、怒りを孕んでいる——一方のソリューズは相変わらずにこにこしている。


「——というわけなので、訓練場を借りてちょっとやってくるよ。ヒカルくんたちは——」

「ああ、もうこっちはこっちでやることがあるから好きにしなよ。……ていうかアンタ、僕より性格悪いな。わざと煽っただろ?」

「これは世直しの一環だよ」

「ストレスの解消と言いなさいよ! 長旅でソリューズは身体がなまっているらしいわ!」


 そんなことを言いながらソリューズは冒険者たちとともに表へと出て行った。


「……あの4人についていかなくていいのか?」


 ちょっと心配そうなクロエに聞かれる。


「問題ない」

「女だけで4人だぞ? 怒らせた相手にはランクCの冒険者もいた!」

「問題ない。——ていうか気になるなら行ってきていいぞ」

「…………」


 使えない、とでも言いたげな顔でクロエは外へと出ていった。


「実力差がわからないんだろうな」


 ヒカルはすでにソウルボードを確認していたが、あのヒゲ面は【大剣】2で、このラウンジではいちばんの高レベルだった。あれでランクC? と疑問に思ってしまう。いや、だからこそ、「推奨討伐ランクCのモンスター」が討伐されずに残っているのかもしれない。


(低レベルの冒険者を高ランクにして、冒険者ギルドもなにを考えているんだか)


 ちなみに、ラヴィアとポーラはすでに離れている。ラウンジの隅、野良猫が出入りできるスペースがあり、そこには床暖房の上でくつろいでいるネコたちがいた。


「毛艶がいいわ……ちゃんとご飯を食べさせてもらっているのね」

「ラヴィアさん、そこにブラシがありますよ。かけてあげましょう」


 すでにネコと遊んでいる。


「あなたたち、真っ先にここに来るとは見所があるわね」

「この子はこのおもちゃを使うと喜ぶのよ」

「エサの時間はもう終わっちゃったけどね」


 ネコハの女冒険者、お使いでやってきたらしい女子店員と意気投合していた。女性ばかりが集まる空間だったが、臆することはない。ヒカルは「隠密」を発動すると、ネコを1匹確保して離脱、膝に載せてなでてやる。ネコは、ごろごろと喉を鳴らしながらヒカルの膝の上で伸びをした。穏やかな昼下がりだ。30分後に無傷の東方四星と傷だらけの冒険者たちが戻ってきた。最後に呆然としたクロエが入ってきた。


イベントは東方四星がこなしてくれました。

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