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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第1章 「隠密」とスキルツリーで異世界を生きよう
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聞き逃せない情報

 散々ネコミミフロントに心をかき乱されたが、最終的には「あ、これからかわれてるヤツだ……」と気がついてからは冷静になれた。


「まったくもう……」


 荷物を個室に置いてからヒカルはホテルを出た。フロントではネコミミが「いってらっしゃいませぇー」なんて手を振ってる。

 まだ日は高い。向かったのは神殿だった。

 ギルドカードの「職業」に現れる「暗殺神」とか「隠密神」。そんなに細分化してどんだけ神様多いんだよ? というシンプルな疑問を解消したかったのである。この辺についてはローランドの記憶にあまり入っていなかった。

 ちなみにローランドは職業「広域貴血族救済神:ノブレス」だった。貴族の子弟はほとんどがこれらしい。むしろこの職業が出ないと浮気による不貞の子が疑われるらしい。

 神殿に向かったのは偶然だったが、ヒカルはここで聞き逃せない情報を耳にすることになる。




 神殿は街の中央にあった。

 かなり栄えているようで、神殿に向かうにつれて交通量は増え、店舗も増えていく。

 360度、どこからでも入れるような円形の造り。

 木材と石材、さらに鉄骨を組み合わせた特殊な造りだった。骨組みは鉄骨だが、基礎は石材であり、しかし全体のトーンは木材……という感じだろうか。

 巨大なサーカステントのような形をしている。

 窓はいくつもあって、それぞれ様々な神様が透かし彫りされていた。


 入口は8方向にある。どこから入っても構わないようで、ヒカルもぞろぞろ連なる列について入っていく。


「おお……」


 入るとすぐに、巨大な壁がある。そこには半分浮き上がるように彫り込まれた神様がいる。

 高さ5メートルほどか。見上げるように高い。

 横顔だ。ローブを羽織って、右手にはペン、左手には水晶玉を持っている。


『智神』


 という文字が書かれてあった。

 その前では説教師が立っている。


「——皆様、お使いのソウルカードはこの『智神』の加護を得た研究者が作り上げたと言われています。その加護は強力で、今もってなおソウルカードの仕組みは解明されておりません。しかしながら不幸にも、その研究者はソウルカードシステムを構築後にこの世を去ったと——」


 なるほど、とうなずく。

 ヒカルもソウルカード・ギルドカードはずいぶん先進的な仕組みだとは思っていた。

 どうやら「智神」の「職業」が関係しているらしい。

「気が遠くなるほど」昔の話だと説教師は語った。


「智神」の横には「太陽神」がそびえ、その隣には「武神」がいる。

 それぞれ説教師がいるのだが、ヒカルはふと「武神」の持っている武器、そばに彫られている武具に気がついた。


(剣、大剣、小剣、短槍、長槍、弓、投げナイフ、盾、鎧……9種類だ)


 ソウルボードにある「武装習熟」スキルも9種類。一致している。

 偶然ではないだろう。

「武神」についての説教師による解説は、いわゆる「武芸者」向けの内容で、まあ言うなれば「ちゃんと精進すれば武神様も見てるよ。がんばろうね」という内容ではあった。

 しかし兵士や冒険者といった、マッチョたちは真剣に説教師の話を聞いていた。

 ヒカルが知りたい情報は出てこなかったので、説教師の話が一段落すると説教師に近づいてたずねる。


「おやおや、少年。なにかこの説教師に聞きたいことでも?」


 ヒカルのように筋力のなさそうな人間がたずねにいくのは珍しいのか、説教師は諸手を挙げて歓迎する。


「9種類の武具について聞きたいのだけど」

「ははあ。この『武神九道』についてですか。少年はどの武道を修めているのです?」

「……『武神九道』?」

「ははあ。そこからですか。——武神が武を究める際に定めたと言われている9種の武具ですよ」

「武神が定めた……武神が『この9種類は王道、他は外道』としたの?」

「他を排除したことはありませんが、似たようなものかもしれませんね。少年も知ってのとおり、街中で開かれている武道場はこの9種類のどれかでしょう?」


 うん、まあ、はあ、みたいに適当にうなずいた。


「このポーンドには『剣聖』と呼ばれた『レイブリッグ剣術道場』、『長槍』では大陸随一の『天命槍術』の道場がありますね」

「……その、他の武具を扱う場合には『職業』で優遇されないのかな?」

「ははあ。ギルドカードのことですかな? さようですね。この説教師、寡聞にして『武神九道』以外の武具において加護が顕現したという話は聞いたことがありません」

「わかった。それじゃ最後の質問だけど、武神がその9種類を選んだのはどんな理由があるんだろう?」


 またしても説教師は「ははあ」と言って、


「神のなさることに理由はありません。ただ結果のみがあるのです」


 なかなか含蓄がある、とヒカルは思った。




 一通り神殿を回った。

 ここには「1文字」か「2文字」の神だけが祀られているようだった。

 創世神話のような立て札もあったが、これについては「諸説あります」という但し書きまでついていたので、この世界の根幹システム——神話については憶測で語られているようだ。


(……だけど神は存在するんだよな。「職業」で恩恵が得られるんだもの)


 あの「職業」は「私はこの神様を崇拝します!」という意思表示であるようだ。ギルドカードが加護を発動しているのではなく、ギルドカードを通じて神に「声が届く」。その結果、ヒカルの場合は「隠密」スキルが強化されたりする。


(このシステムを作ったヤツ……神、か? 興味があるな。僕の知識欲がうずく)


 そんなことを思いながら神殿を出ようとしたときだった。


「——ほんとうか。もう決まりなのか?——」

「——そのようだぞ。我々もお役御免というわけだが——」

「——納得できないだろう。あんなものは捜査とは言わん——」


 ふたりの男が話しながら神殿を出て行く。

 その声に聞き覚えがあった。


(モルグスタット伯爵の屋敷で巡回していた騎士だ!)


 思わず彼らの後を尾けてしまう。


「——第一発見者だから犯人だというのはあまりに短絡的だ——」

「——バカ、声が大きい。他人に知られたらどうする——」

「——どうせすぐに知られる。あれほどの大物殺害犯だぞ——」


(……え? 犯人が捕まった? 今の話の流れからすると——モルグスタット伯爵殺害犯のことだよな?)


 その犯人とは、正真正銘ここにいる。


(いや、待てよ……「第一発見者」とか言ってたよな)


 モルグスタット伯爵が死んで、最初に現れたのは——。


(あの女の子)


 銀髪に青い目。透き通るように白い肌。

 パジャマを着ていたせいだろうか、ものすごく痩せていたようにヒカルには思い出された。


(あの子が殺害犯になっているってことか? そんな)


 動揺する。

 いわば自分の身代わりになったようなものだ。


「——どのみち王都に移送だろう。俺たちの仕事は終わりだ——」

「——ふざけるな。そのために神殿に来たのか。懺悔でもしたつもりか——」

「——懺悔などではない。俺たちは仕事をしただけだ——」

「——それがふざけていると——」


「ヒカルくん?」


 背後から声をかけられて、ヒカルは5センチくらい飛び上がった。

 人通りの多いところを歩いていたから「隠密」スキルは使っていなかったのだ。


「——ジル、さん」


 若草色のワンピースを、腰のところで革紐で縛っている。

 襟元のスカーフがベージュで華やかだ。

 手には明るいホワイトのバッグを持っている。

 私服姿の、ジルが立っていた。




「こんなところで会うとはねえ。あっ、もしかしてヒカルくんってばアタシのこと尾けてた? もう、おませさんなんだから!」

「……声かけてきたのはそっちだろ……」

「それにごちそうになっちゃって悪いわねー。あ、店員さーん。アタシは糖蜜桃のパフェと霊芝茶ね!」

「おまっ」

「え? いいんでしょ? なに食べても?」

「……うん」


 ヒカルは水を注文した。10ギランするらしい。

 そう、ふたりはカフェにやってきていた。

 先ほどジルに声をかけられ、ハッと気づいたときには騎士ふたりを見失っていた。おそらくモルグスタット伯爵邸あたりにいるのだろうが、できればさっきの話をもうちょっと聞きたかった。

 ヒカルはジルに話を聞くつもりで声をかけたのだ。ごちそうするのは情報代というつもりで。

 そうしたらジルが「オススメ」というオープンテラスのカフェへと連れてこられたというわけだ。


「ふんふんふふーん♪」


 ギブアンドテイクで行きたいのだが、なぜかジルはご機嫌だった。


(まあ、機嫌がいいなら話を聞きやすいか……)


 そう思うヒカルである。

 そのためになら、ジルの頼んだ「糖蜜桃のパフェ(120ギラン)」と「霊芝茶(30ギラン)」なんて安いものだ……安いものだ……きっと……。


「さて、聞きたいことが2つある」

「へ?」

「へ、じゃない。あらかじめそう言っただろう?」

「え、あれってアタシをお茶に誘う口実じゃなかったの?」


 ヒカルは目を閉じてこめかみを親指で押さえる。頭痛がしてきた。


「……はー、なーんだ。おかしいと思ったんだよね。ヒカルくんがいきなりアタシをお茶に誘うなんてさー」

「なんで急に不機嫌になるんだ」

「べっつにぃー? あ、店員さーん。この『緑リンゴパイ』も追加で」

「追加ってなんだよ追加ってぇ!」

「情報料なんじゃないの?」

「っぐ……」


 90ギランがさらに飛んでいくことになった。


「で、聞きたいことってなによ」


 明らかに不機嫌になっている。

 その心の動きがさっぱりわからないヒカルは、そう言えばジルはこんなふうに感情がころころ変わるヤツだった、と思い直す。


「ウンケンのことだ——アイツはギルドマスターだろう?」

「あら。本人が言ったの?」

「『解体屋じゃ』って言い張ってたけどな」

「それじゃあ解体屋なんじゃない? アタシがとやかく言ったら怒られる」

「つまりジルにそれくらい影響力を持っている人間なんだろう。やっぱりギルドマスターだ」

「もー。そういう駆け引きっぽい言い方止めてくれる? あたし、好きじゃない」


 ヒカルは肩をすくめた。


「それで、ヒカルくんはギルドマスターが誰なのかを聞きたかったの?」

「いや……そうじゃない。見たところ、かなりの実力者のように思えた。どんな人物なんだ?」

「んー。アタシの情報も又聞きだけど」

「構わないよ」


 運ばれてきた水を飲んだ。温かった。

 それを運んできた男の店員を見ると「てめぇガキのくせに美人連れてんじゃねーよ」という目でこっちをにらみつけてくる。

 冒険者と同じくどこの男も短絡的らしい。ヒカルは小さく嘆息した。


「あのね、ウンケンさんは……冒険者じゃなかったんだって」

「……なんだって?」

「もっと公的な機関で働いていたみたいよ」


 意外な回答だった。

 冒険者の「あがり」の仕事として冒険者ギルドがあるのだと思っていたし、そのギルドマスターともなればさらにそういう傾向があるのではと推測していたのだ。

 動物の解体ができるのだからなおのことそうだろう。


「でもそこで『大きな仕事』が終わって、それでそっちは引退して、冒険者ギルドで働くようになった——とかね」

「いやいや、一体何者なんだよ。どんな仕事をしてたんだ?」

「……これ、あんまり言いたくないんだけど」


 と言いながらジルはメニュー表の一箇所を指差した。「ツイントルネードジュース」と書かれていた。150ギランと高額である。


「わかったよ、頼めよ……」


 こうなってくると3泊前払いで宿泊費を払ったことが悔やまれる。

 ウンケンから7,500ギランでも先にもぎとっておくべきだった。

 なんだか細かい注意書きまで書いてあったが読む気も失せた。好きに飲めよという気分だ。


「いいの!? ほんとに!? ほんとのほんと!?」

「男に二言はない」

「やった、男前だなー! アタシ一度飲んでみたかったんだよね!」


 嬉々としてジルが追加を頼むと、さっきの店員が射殺さんばかりの視線を投げてきた。

 なんなんだ、まったく。


「それで、ジル。話の続きを」

「あ、うん。これ絶対他言無用だよ?」

「わかった」

「約束だよ? 言ったらこっそりヒカルくんのギルドカードに罰則つけるからね」

「約束するって。……ってそんなことできんのかよ!? 絶対やるなよ!」

「ウンケンさんだけど、たぶん——」


 ジルはいっそう声を潜めた。


「……王様直轄の密偵、あるいは暗殺者……だったんじゃないかなって」

「うん、それで?」

「…………」

「それで?」

「……ちょっと、反応が薄いんだけど!? アタシめっちゃ緊張して言ったんだからね!」

「いや、僕だってそれくらい想像していた。でも続き、っていうかジルがそう直感した理由があるんだろう」

「うん——」


 運ばれてきた「糖蜜桃のパフェ」を食べ始めるジル。

 ゼリー状の桃……と言えばいいだろうか。そのすべてが「蜜」であるらしい。

 そんな糖蜜桃を角切りにして、生クリームと和えている。

 ちなみに「霊芝茶」とは薄緑のお茶だった。緑茶にしか見えない。


(甘ったるすぎるだろ……よく食えるよ)


 ヒカルは信じられないものを見た気がする。


「——ウンケンさんがギルドに来たのって50年くらい前なんだって」

「ああ、結構年だもんな。マンノームだっけ」

「そうなの。そうなるとあの人が『前職の大きな仕事』を終えたのは50年ちょっと前ってことでしょ」

「ふむ」

「50年ちょっと前っていうとさ……このポーンソニア王国の隣国、クインブランド皇国で代替わりがあったころなんだよね。当時、皇国の皇帝って『悪帝』って言われてたバルザード皇帝だった。バルザード皇帝は……風の噂では『暗殺された』っていう」

「…………」

「これだけだったらアタシはなんとも思わなかったけど、バルザードはポーンソニアを攻め滅ぼすって公言していたらしいの。で、ポーンソニアは当時、疫病が発生してて国力が低下していた。バルザードをいちばん暗殺したかったのは間違いなくポーンソニアなんだよ」

「……状況証拠は完璧だな」

「うん。それで……ウンケンさんの部屋に書類を届けたときに、机に古い文書が載っていたことがあったんだけど。それって……国王様からの感謝状だったんだ。出しっ放しでちょっと外に出てたみたいで、アタシがちらっと見た瞬間に帰ってきて、それについては聞けなかった。『見たか!?』ってすごい怖い顔されたし」

「なるほど。国王が感謝状を出すようなケースは限られているな。ふつうは宰相や各種組織の長、あるいは領地の貴族の名義で発行する。国王が出す場合は、戦争で大きな勝利を収めた場合が一般的だ」

「そうみたいなの! ……ってなんでヒカルくんはそんなこと知ってるの?」

「昔、貴族の知り合いがいたんだ」

「へぇ……」


 ウソはついていない。

 ジルもそこにはそんなに興味がないようだった。


(しかし……ジルの推測はあながち外れていないかもしれないな。ローランドの記憶にもうっすらと、隣国の情報が入っている。現行皇帝は非常に好人物で、ポーンソニア王国とも友好関係を築いているとか。そして前皇帝は悪帝だ)


「となると、ウンケンは『救国の英雄』ってことになるな……」

「ね。すごいよねー」


 糖蜜桃のパフェを食べ終わり、続いて「緑リンゴパイ」に取りかかるジル。


「ん〜、美味しー! やっぱりストレスが溜まってるときは甘いものだよねー!」

「……よ、喜んでくれたのならよかった」


 自分なら絶対食べきれないなとヒカルは思う。


(「救国の英雄」かよ……あのスキルレベルで? いや、50年前なら151歳か。それくらい知識と経験を積んでいれば、いけるんだろうか?「隠密」スキルをウンケン以上に振っている僕には、やっぱり「暗殺」スタイルがいいってことか——でも皇帝すら暗殺できるって……)


 ウンケンのポジションがわかれば自分のレベルもわかると思っていたが、よりわからなくなった気分だった。


「さて、もう1つ聞きたいことがある」

「ん。なんでも聞いて。あ、アタシの住所とかはダメよ?」


 食べ始めて機嫌がよくなってきたのか、ジルは質問歓迎ムードだった。


「……そんなのは聞かないよ」

「え? 聞かないの?」

「聞いて欲しいのか聞いて欲しくないのかどっちなんだよ。——まあ、いい。僕が聞きたいのは」


 ヒカルは、言葉に迷ったが、単刀直入にたずねることにした。


「モルグスタット卿を殺害した犯人が捕まったそうだな?」


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[一言] ジルうざい 先生お気に入りのキャラみたいで頻繁に出てくるけど ┐(´~`)┌
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