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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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大森林の孤独

 背後でドォンという大きな音が聞こえてきた——ヒカルは「始まったな」と思った。

 モンスターがボーダーザードの街に押し寄せる事態は考慮済みだった。街がひとつ崩壊したら、建国記念式典を取りやめる可能性が高まる。ボーダーザードの防衛もまた今回達成しなければいけない条件だった。


 ——だから、わたしも行く。


 ヒカルが討伐隊の支援に向かうと聞いたラヴィアは、そう言った。

 大量のモンスターを相手にするのは自分のほうが向いていると。

 ヒカルはラヴィアを危険な地に連れて行くことに気が進まなかったけれども、最終的には押し切られた。


 ——わたしにも「隠密」があるから大丈夫。


 ヒカルだって「隠密」がどれほど強力なものなのかはわかっている。

 ラヴィアも単独で行動できるようソウルボードを調整した。



【ソウルボード】ラヴィア

 年齢14 位階29

 6


【生命力】

 【スタミナ】1→3


【魔力】

 【魔力量】11→15

  【魔力の理】2

 【精霊適性】

  【火】6

  【魔法創造】1


【敏捷性】

 【隠密】

  【生命遮断】1→2

  【魔力遮断】1→2

  【知覚遮断】1→2



 これでラヴィアは——仮にボーダーザードが陥落しても「隠密」で逃げ切れるはずだ。

 モンスターが街に侵入したら「逃げる」ようにラヴィアには伝えてある。


(隠密移動砲台か。凶悪だな)


 ラヴィアひとりで大量にモンスターを倒すことになれば魂の位階が上がることも期待できる。

 目立ってしまうのは避けられないが、「隠密」を使えばどさくさに紛れて、顔を確認されずに離脱できるだろう。


(ボーダーザードの勝率はどれくらいかな。7割? 8割? いずれにせよ僕が仕事をしくじらないようにしなければ)


 ラヴィアひとりですべてのモンスターを倒せるとも思っていない。あとは他の冒険者のでき次第だな——と考えていたが、この時点でヒカルは、ボーダーザードに「東方四星」がいることを知らない。


(森だ……)


 太陽はまだ高いところにある。

 平原を抜けたヒカルは、森林へと足を踏み入れる。

 周囲の魔物の存在を「探知」していた。

 集団で移動している存在はなるべく避けて進んでいく。

 モンスターが逃げてくる方角——その先に「目標」はいるはずだ。


(迷わないようにしなければ)


 幸いウゥン・エル・ポルタン大森林は、磁気によってコンパスを狂わせるような場所ではないという。

 常にコンパスと太陽で自分の位置を確認しながら進めば迷うことはないはずだ。

 見上げると高いところに葉の屋根ができている。木漏れ日がちらちらとヒカルを照らすが、のどかな雰囲気はまったくない。


 ザザザザ……。


 ドドッ。


 遠くで、近くで、モンスターの大移動が続いている。

 ボーダーザードを訪れたのは第一陣、といったところか。最初ほどの勢いはないものの、三々五々、モンスターの集団が感じ取れる。

 中には集まってうずくまっている猿の魔物や、ヒィヨロヒィヨロと集まって議論している鳥の群れなどもいた。

 すべてのモンスターが逃げているわけではない。ふだんどおりに過ごそうとしているモンスターや動物だっている。


(っ!)


 雲霞のごとく湧いて出た、赤い蝶の群れにヒカルは思わず立ち止まる。鱗粉が火の粉のように散っている。

 ヒカルの近くを群れが通りがかったとき、


(!?)


 くらりと頭が揺れた。


(めまいが……!)


 あわてて距離を取ると、めまいは消えていく。

 どうやら蝶の周囲になにかが発生しているらしい。鱗粉かもしれないが確証はない。


(気を引き締めていかないと)


 相手に気づかれないまま戦闘不能になる、なんてのはバカバカしいにもほどがある。

 多少時間がかかっても仕方ない。

 ヒカルはますます慎重に進んでいく。

 鬱蒼と茂る木々。

「魔力探知」と「探知拡張」で、なるべく生き物がいない場所を進んでいるために、見渡す限りに動物はいない。

 足下は巨木の根が張っている。時折思い出したように茂みがあったりするが、それ以外は腐葉土の積もった森だった。


(……ひとりぼっちだ)


「隠密」を発動しっぱなしなので、何者からも認識されていない。ある種、ほんとうの意味で「ひとりぼっち」かもしれなかった。


(僕はこの、知らない世界にやってきた……最初は、僕に身体をくれたローランドがいた。それからラヴィアと出会って——あとはずっとラヴィアといっしょだった)


 久々の孤独感だった。

 もちろん、スカラーザードから首都のフォレスザードに移動したりといったときには、ラヴィアとは別々で行動していた。それでも、周囲には人間がいた。ヒカルを「乗客」と認めて馬車は走っていた。

 ここまで周囲になにもいないのは、久しぶりだった。


(感傷に浸っている場合じゃないな。今のうちにラヴィアへの言い訳も考えておかなきゃ)


 ポーラにソウルボードを使ったことの、言い訳だ。

 ラヴィアに自分の境遇を告白して以来、ラヴィアに、クロードに、ポーラに、ソウルボードを使った。正直使いすぎたとヒカルは思っている。この力はあまりに強い。そう、ぽんぽん使っていいものではない。

 ただ、クロードに使ったのはぎりぎり「ふつう」の範囲内だとは思っている。

 ラヴィアとポーラには、使いすぎた。ラヴィアはともかく、だからこそポーラは近くに置いておくしかないと判断した。

 だが——あの場面で、どうしてもヒカルには「救わない」という選択肢が出てこなかった。ポーラを信じたのは、「信じたかった」自分がいただけだ。明確な裏付けもなく行動したことは否めない。

 それでも……言葉を交わしたことがある、知っている人間が、目の前で死のうとしているのにそれを救わないではいられなかった。


(僕は甘々だ)


 苦い後悔が胸をよぎる。「仕方ないじゃないか」と思っている自分もいるのだが。


(わかってくれるよな、ラヴィアは。うん……わかってくれるはず。……怒らないよな?)


 主に「女の子に」使ったということがヒカルとしては引っかかっている。

 特別な意味はないのだが、そう取られることはありうる。


(誤解は解くしかないか)


 大森林を歩き出してから1時間が経過していた。ヒカルは手近な大樹に背を預けて腰を下ろした。

 身体にじっとりと汗をかいている。

 気持ちが高揚していると疲労を感じずどんどん進んでしまう。だからこうして、自分のルールを作って休憩時間を挟む。

 足下がふかふかで、しかも根をまたいだりしながら歩くと、疲労は思いのほか溜まるものだ。


「……ふうっ」


 水筒の水を飲む。精霊魔法石を入れているおかげで、放っておけばどんどん水が湧いてくるという代物だ。

 水は問題ない。

 食事は、5日分の保存食を背負っている。乾物が多く、水で戻しながら食べるので重量はさほどない。


(行きで3日、帰りに2日……これで間に合う場所ならいいけど)


 ウゥン・エル・ポルタン大森林を徒歩で横切るとなると、20日かかるらしい。

 だが、ボーダーザードから徒歩で1日ほどの距離に、冒険者ギルドの討伐キャンプがあった。

 そこから討伐作戦を展開して、竜を発見している。

 つまり、ボーダーザードから遠くても3日ほどの距離に竜がいる——それがヒカルの見立てだった。

 もちろん竜が移動していることは十分考えられる。だがその場合は、ポーンソニア王国からクインブランド皇国方面に移動したということだ。

 それならばそれで、むしろ望むところだった。フォレスティア連合国の損害はない。モンスターの大移動もすぐに収まり、建国記念式典は問題なく行われるだろう。

 もちろん、他2国の被害は大きくなるだろうが——。




 しかしヒカルの望みとは裏腹に、「その存在」は近いところにいた。

「隠密」を発動したまま樹上で仮眠を取ったヒカルは、翌朝——地響きを聞いた。

 魔法を使ったとか、地震があったとか、そういうものではない。

 巨大な生き物が動く足音だった——ボーダーザードへ向けて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公も十分大砲だろ、物理か魔法の違いだけ
[一言] ポーラを愛人として扱わないなら、 ラヴィアも怒らないと思うが、 ポーラは主人公に好意もってるし、どうするんだろうな 今までは硬派だったけど、結局ハーレム化してしまうのか?
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