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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
1章 チュートリアル
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7話 ジジイとの手合わせ

物語の前半の描写は後々直す予定です。流石に酷すぎますね(2018 6月時点での作者意見)

  先程初めてジジイの援護もあったがモンスター討伐に成功した俺達にどうやらあのジジイが武器の指導をしてくれるそうだ。


  さて、人間面では隙が多いジジイではあるが、戦闘面においては到底俺達が敵う相手ではないだろう。そのジジイの訓練……とても気になる。


「と言うわけで、武器の訓練を開始したいのじゃが……」

「おお!スッゲー!!!なんだこれ!?」


 俺は唸った。それこそ心の底から。


  ジジイが話そうとした瞬間俺は別の物に興味が削がれた。



  そう、ジジイがたったの一日で作り上げたという武具にである。


 正確には半日で作り上げただが……その中でも、気になる装備が二つあった。


  現実でもあまり見た事の無い形の武器だ。あれはなんだ?身長近くありそうな大きな両刃剣……その裏側の鞘とつながっている部分そこにフックの様な物がかかっている様である。

 普通に背中に背負ってたら抜刀出来ないからだろうか?


 ジジイの工夫が窺える。


  そして、もう一つバックルアーマーみたいな物が見えた。一見すると籠手の部分に装着する小型の盾に見えるが、その割にごちゃごちゃしている。それをよく見てみると盾の部分が可動式でバックルと手甲の隙間に何かを入れるスペースがあった。


 これも何かに使うのだろう。


 とても半日で作り上げたとは思えない完成度だ。普通は武器を作り上げるってなったら二週間はかかるだろう。ここまで準備が早いとそもそも元から用意していたものなのではないか?と言うか疑念にも駆られてくる。俺がそう感情に浸っていると亜蓮の声が聞こえた。


「安元はあんな奴ですよ」


 俺の感情は一瞬で褪せた。おい、これ見て感動しない方が珍しくないか?なんで一番ゲーム好きな筈のお前がテンション低いの!?可笑しいでしょ!?


「おお、そうか……」


 ジジイはその言葉を軽く流した。く、ジジイまで納得しやがった。否定はしないがな。だが、俺だけがこう貶されるのも納得がいかない。


「少しは落ち着けぇぇぇえい!」

「!?へぶっ!?」


 そう俺が思った矢先だった。山西の追撃のドロップキックが顔面に炸裂して俺の視界は真っ暗になった……。




 なんで……?こいつの方が落ち着いてなくね……?


「山西さん……」


 重光が何か言ってる様だ。

 今俺は意識が茫然としている。山西に蹴られてthe endかもしれないな。


 それは無いと思うがな。


 幼馴染に蹴られて終わりとか悲しすぎだろ。俺は朦朧とする意識の中でノリツッコミを繰り返し地面に倒れた。


「あれくらい大丈夫よ!」


 山西はフンと息を吐いた。周りの男二人は愛想笑いを浮かべ


「安元の鼻血は見ても平気なんだな……」


 と呟いた。その言葉を聞いた山西は少し眉を顰め何か少し悲しそうな顔をした。だが、それに気が付いた人はその場にはいない。


 そして、ジジイは倒れている安元を一旦スルーして添島の所へ近づいた。


「まずは、一人一人に装備の特徴を説明しようと思う。人によって戦い方等が異なるじゃろうからワシが合いそうなのをチョイスしといた。足りない素材はワシの持ってるストック分で補っておいたぞい」


  ジジイは各々に対してその場に置いた武具や使い方などの説明を始める。


「添島、まぁお主は言うまでも無い。前線重戦士タイプじゃな。機動力はそこまででも無いがかなりの攻撃力と防御力を誇っておる。武器種は両刃大剣じゃな。まぁ使い方は使ってるうちに覚えるじゃろう」


 添島はその言葉に頷く。


「次は亜蓮お主じゃ。お主はスピードファイターじゃから軽装備にククリソードのテンプレ装備じゃの。盾は腕に付属しておるのを使うが良いぞ」


  ジジイは亜蓮に必要事項を伝えると亜蓮の方から安元の方に向き直り、苦笑いしながら答えた。


「次はそこで伸びてる安元なんじゃが……こやつには特殊な力があるっぽいんじゃ……」


「トレーニングをさせている時に気が付いたのじゃが、もう属性を使っておった……。しかも、自分の体に纏って使っておったのじゃ」

「更には、属性を纏っているのにも関わらずマナの力を体外には感じなかった。今話しておくがワシら全員何らかの固有スキルという物を持っているのじゃよ」


 ジジイはマナとか固有スキルなどの新たな単語を用いて話した事により皆の頭には疑問符が浮かんだ。


「その固有スキル?でしたっけ……。それはどうやったら分かるのですか?」


 重光が固有スキル常々よりもジジイが何故安元の固有スキルに気付いたのかを尋ねた。


「それはのぉ……発現するまではワシでも分からないのじゃ。まぁ、多くて一人三個って所じゃろうかの……?」

「勿論、発現以前に固有スキルを持っていない場合もある……と言うか皆んながみんな持っているワシらが異常な位じゃよ。因みに固有スキルは自分が最初から持っているものと授かれるものの二種類あるのじゃが、後者の方は稀じゃろう」


 とジジイは言った。そこに疑問を持った添島が質問する。


「その固有スキルとやらはどうやったら発現するんだ?」


 するとジジイは困った様子で


「それは、一人一人発現する条件が違ったりするからワシの口からは何とも言えんのう……」


 と言った。


「スキルとか属性って何ですか……?」


 固有スキル以前の問題に疑問を持った山西がジジイに尋ねる。それに対してジジイは語り出した。


「まぁ、スキルと言うのはいわゆる特殊能力じゃ。体内に存在するマナと言われるものを使って発動する事の出来る力じゃよ」

「それを使えば斬撃を飛ばしたり魔法を撃ったりも出来るぞい」


「まぁ例としてはこの前スケイルベアの調理に使った「衝撃ショック」などじゃな」

「まぁついでに魔法についても説明しとくぞい。魔法もスキルと同じ様にマナを使用するのじゃがスキルと力が作用する点が違うと言ったら良いのかのう……?」


 とよく分からない事をジジイは言い出した。


「それは……つまりどう言う事だ?」


 添島でも理解出来ていない様である。


「多分スキルでは力や実力に大きく比例して、威力とかが変わるけど魔法はマナ量にも大きく比例する……。という見解で合ってますかね……?」


 重光が答えた。


「まぁ、殆ど合ってるわい」

「おい、ちょっと待て。その定義で行くならば魔法とスキルは性質が一緒って事になるぞ?魔法は事象の中にも術式を組み込む必要があってスキルは直接マナの力を事象に変換するって事じゃないのか?」


 ジジイは重光の質問に肯定の意を示したものの添島の鋭いツッコミにジジイすら目を見開いて顎に手を置いて考える。


「そうじゃな。ワシ感覚派だから説明は苦手なんじゃよ。その魔法の例と言ったらこの前言った……」



 添島からの思ってもいなかった質問が飛んで来た事により動揺したのか話の主導権を取り戻そうとジジイが話そうとした時亜蓮が遮った。


着火イグナイトですね」


 何故いきなり話し出したのかは謎である。だが、ジジイは一切嫌な顔をせずに如何にも自分が添島が言った理論を説明したかの様に魔法について解説を加え、属性について説明を始めた。


「そうじゃ。添島の言ったことを分かりやすく言うと着火イグナイトとかでも火が着火されるだけの事象に見えるが、その中にはちゃんと術式が組み込まれておると言う事じゃの」


「それで属性と言うのは属性適性と言うものがあっての。得意な属性、苦手な属性、適性無しとあり、無しの場合はその属性が使えないのじゃ。敵によっては属性によっては有利に立てたりするぞい。まぁいわゆる火とか水とか雷とかそう言う感じの物だと理解して頂けると有り難いのお。因みにワシは全属性得意じゃの」


 ジジイの長話が終わった頃にやっと安元は目を覚ます。


 俺が目を覚まし周囲を見渡すとジジイが何やら話しをしていた。俺どれ位の時間眠っていたんだろう……そして、皆の表情から大分ジジイが長話をしていた事は察した。


 起きた俺に気付いたジジイは話を戻した。


「おお!伸びていた安元も起きた所だし、話を戻すぞい。さっきの話は後で聞かせてやれば良いじゃろう」


 ええ、あの如何にも長そうなジジイの話を後で聞かないといけないのか……憂鬱だ。


「よし、安元よ。お主には最初はキツイじゃろうが、双太刀にしようと思うのじゃ。……お主ならイケると信じているぞい」





 は?




  俺はジジイの発言に自分の耳を疑った。


 いやいや、マジで双太刀とかあり得ないだろ?

 だって、太刀って時点であまり打合せしたら刃欠けたりで使えないし、太刀自体の重さで二本とか難しいと思うし、抜刀の時とか腕が両方塞がっている事もあって鞘を引けない為、二本同時に抜けないから腰を捻りながら一、二って交互に刀身を抜き去る感じになるだろうし……使い辛さMAXじゃねぇか!?


  まさか他の良くあるアニメとかと被るのが嫌だったとか思いつかなかったとかじゃないよね!?ま、まさかな……。


  それか切りながら研磨でも出来れば違うんだろうけどなぁ……。

 とか言う俺の私情を完全に無視したジジイは山西の所へ向かった。


「次は山西じゃの。お主は補助魔法に適性があるみたいなのじゃが……特に身体強化系に優れているのじゃ。だから、色々サポートに適している両刃槍を扱って欲しいのじゃがそれで良いかの?」


 ジジイは補助魔法がどうとやらと言っていた。しかし、俺達は魔法を使う事は愚か魔法が何なのか自体知らない。なのにどうやって適性を判別してるんだろう……?魔法や適性自体の説明は俺が寝込んでいる間にしていたのかもしれない。


 だが、それでも底の見えないジジイだ。


「はい、頑張ってみます」


 山西が返事をしてジジイは重光の所へと向かった。


「次は重光お主じゃ。お主の役割は割と多くなりそうじゃが、まぁ気に負う事はないわい。お主は魔法全般に適性があるのじゃ」

「じゃから攻撃、防御、回復……尚且つ後方支援と言う事もあって全体の状況もよく見る事が出来る為。指揮も取れれば文句なしの役割じゃ。だから武器種はロッドで攻防頑張ってもらいたいのじゃが……良いかのう?」


 ジジイは重光に魔法の適性がある事を伝えた。


 特に後方支援は全体の状況を見て考えながら動かないといけない為とても気配りもいる役割だ。


 重光さんが気に負わなかったら良いのだが……重光さんだ気に負うだろうなぁ……。


「が、頑張ります!」


 重光が緊張した顔で答えた。


 あれ絶対気張ってるな……後で声かけとこう。


「と言うわけでお主らがトレーニングをして貰っているうちにワシがお主らが一番力を発揮出来る装備を見極めさせて貰った。これで装備に関する説明は終わりじゃ」


 ちょっと、待った。絶対俺の双太刀だけおかしいよね……?だけど、面白そうな武器だし使ってみたいのは使ってみたい。


「早く、これ使ってみたいぜ!」

「じゃあ、まずそれらを装備してみたらどうじゃ?」


 ジジイが意味有りそうな顔で言った。すると、横にいる添島がもう装備を着けていた。いや、早すぎだろ。いつの間に着けたんだよ……?鋼鉄で出来た鎖帷子の鎧と自分の身長の七分程もある大剣を易々と持ち上げて装着した添島は腰を捻ったりして動きを確認していた。


「おお、こうか?」


 添島は難なく着けている様だ。そして、俺も装備を着用しようとした……が……え?これ重くね……?動くどころか手に武器持つだけで限界なんだが……?


 添島お前どんな筋肉してんだよ!?お前の装備一番重いだろ!?


「フォッフォッフォッ結構重いじゃろ?」


 ああ、キツイ。この状態でトレーニングなんて……出来るわけ……。俺は防具を持ち上げてそのあまりの重さに絶句する。防具の重さは然り、それ以上に驚いたのは武器の重さだ。俺の武器である双太刀は一本あたり刀身一メートル弱の小太刀とはとても言えない大きさの武器だ。一本持つだけで手が震える程の重さだった。


「と言う事でまずは装備の重さに慣れて欲しいのじゃ。一日目のトレーニングはただ装備を着用するだけじゃよ」


 ああ、良かった……。ジジイの言葉に俺は胸を撫でた。


 だが逆にこれだけで良いのかな……?でもこれ以上キツかったら無理だな……うん。そう言う事にしておこう。


「ほう……?何か物足りないような顔をしているのぉ……」




 は?


  ジジイは俺のホッとした表情に対して笑みを浮かべた。


 何すんの?ジジイの顔が怖いんだが……


「重力ニグラビティセカンド!」

「「うおおぉ!」」


 ジジイが手に黒っぽい何かのオーラ?を纏って俺達にかけた瞬間全身の重さが急激に増えた。


 うおおお……!死ぬ!これ装備脱がないとマジで死ぬ!俺はあまりの重さに武器を地面に投げ捨てて防具を脱ごうとした。


「があぁぁ!でも……これを脱いでしまえば……」

「そんな事はさせんぞ?」


 するとそれを見たジジイは一瞬で三つの魔法を唱えた。


粘着ディサイブ!」 「規制リグレイ!」 「限界リミット!」


 その刹那俺の腕から離れた筈の武器が俺の腕に張り付き、防具も外れなくなってしまった。くっ……何なんだこのジジイは……装備が外せない!?しかも体の自由まで……!?楽な体制にもなれないのか……!?ふざけやがって……。


粘着ディサイブはいらなかったかのう……。まぁ、大丈夫じゃ、身体が極限状態になったら強制的に休めるぞい」


 う、嘘だろ?この状態が身体がぶっ壊れる直前になるまで続くのか?そんなの地獄じゃねえか!?俺は全力で叫んだ。


「この、鬼畜ジジイがぁぁぁ!」





 亜蓮も頭に青筋を浮かべてジジイを睨んでいた。あの表情は割とマジでキレている。






 お前装備軽そうやんけ。







 あれから数時間が経過した。その場に残っていたのは添島だけだった。添島だけが倒れずに耐えていた。やっぱり筋肉ゴリラだ。逆に添島以外……常人には耐えられる訳が無かった。彼は人外だ。


「ほお?流石じゃのう。一番重い防具を着けているにも関わらず一番長く耐えるとは……。もう休んで良いぞい」


 ジジイはまさか耐えるとは思わなかったという様な顔をして言った。彼は俺達の中でも例外だ。並外れた身体能力を持っている。


解除リセット!」


 ジジイが魔法を唱えた瞬間俺達にかけられていた拘束が解け、重さも元に戻った。それと同時に俺は地面にへたり込んでため息を吐いて立ち上がろうとして身体の違和感に気づく。防具を付けている筈なのに身体がそんなに重くない。


 ん?これ結構動けるな……。何だったんだ?さっきまでは……。


「まぁ、一ヶ月後には重力十倍の状態で戦闘が出来るくらいにはなっていて欲しいのお」


 ジジイが笑いながら言った。やっぱり鬼畜ジジイだ……。だが、確実に感覚的な効果は出ている様子だった。



 でも俺達はド◯ゴンボールの主人公ちゃうぞ……。






 ーー次の日


「ああ……痛ててて……あの髭ジジイのせいで身体中筋肉痛だぜ……」


 寝床から立ち上がると身体の節々が痛み、ポキポキと音を鳴らす。そこで俺は悪い顔をした。そうだ、身体の筋肉を理由に訓練をサボれるかも知れない。


 そうだな。


 過度なトレーニングは逆効果だ。うん。そうだな。


「おう、爺さん。俺さ……筋肉痛で今日動けないからさ……訓練を……」


 俺はトレーニングをサボる旨をジジイに伝えようとした。だがそれをジジイの言葉が遮った。


「おう、やっと起きたか?その程度の問題なら安心せい。皆同じ様な事になっていると思っていたのじゃ」





 え?


 どう言う事だ?


回復ヒール!」


 ジジイがまた魔法を唱えた。その瞬間淡い光が俺達を包み筋肉痛の痛みが嘘の様に消えた。


 嘘だろ!


 おいい!ヒールってこんな感じじゃないだろ!?

 ヒールのイメージって傷を治すイメージなんだが……そうか……筋肉の損傷か……理解した。


「これで皆訓練再開できるのお」


 ジジイが満足気に頷いた。


「「ええーー!!」」


 ガッカリだ。


「まぁ、今日はそこまで辛くは無いぞ?」


 ジジイは悪い笑みを浮かべた。


  お、そうなのか……?だがどうせこの鬼畜ジジイの事だ。キツイに決まってる。その予想はある程度当たっていた。


「戦士職にはひたすら基本の動きを繰り返してもらう。サポートの山西も一応戦士職として扱うぞい」


 成る程。先ずは型からか確かにそれは大事だな……。だがそれは一日、二日でできる様な物では無いと思うのだが……?


「一人一人に個別で指導するから、改善点があったら直ぐにワシが向かうわい」

「戦士職でない光っちゃんにはワシが魔法職のアレコレを隅々まで叩き込んでやるぞい!」


 え?光っちゃん?俺達でも重光さんの事そんな感じで呼んだことは無いぞ……ジジイ気持ち悪いぞ……。


「「光っちゃん!?」」


 皆がえ?みたいな感じでハモった。


「え?ダメなの?」


 ジジイが何で?みたいな顔で言ってきた。いやいやこっちが何で?って言いたいわ!


「はい、その呼び方は少し恥ずかしいです……」


 おお、流石は重光さん。控えめに断ったぞ。


「そ、そうか、 じゃあいつも通りの名前で呼ぶ事にするわい」


 ジジイは落ち込みながら答えた。そうしてくれ。


「それでお願いします」


 重光さんが結構真面目なトーンで答えた。やっぱり嫌だったんだな。


 あの呼び方。


「それでは今日もトレーニング頑張るのじゃぞ!」


 ジジイが鼓舞したがイマイチやる気がでない……だって、昨日のあのキツさを思い出したらね?


「返事をせんかい!」

「「うぃー」」


 ジジイの問いかけにいかにもやる気の無さそうな返事が流れた。だってやりたくない物はやりたくないじゃん!?


 でも型は大事だと思ってる……でもやる気は出ない。所詮人間そんなものだろう。


「こりゃあ、やる気が無さそうじゃのう……」


 こうして俺達は個別で的確に指導するジジイの凄さに気が付かないまま、この日を終えたのであった。






 ーー次の日


「よし、お主らには今日、このニ日間のトレーニングの成果を見せてもらおうと思う」


 ジジイが言った。


 だが正直たったの二日でそこまで変わるものか?と思う。

 少なくとも元の世界では……だ。


 実際二日前は、装備を着用するだけでキツかったのに、ジジイの的確なスパルタ修行の成果もあってか、今では装備を着用したままそれなりに動けるようになっている。


 身体能力の向上も元の世界の比では無いだろう。


 それでも所詮まだ元の世界でいう超人レベルにも達してはいないのだが……魔法とかが使える様になっている時点で相当なアドバンテージだとは言えるだろう。


 そして、トレーニング成果を見せてもらうと言っていたが……何をするのだろうか?


「それなら、今日はトレーニングはしないのか?」

「トレーニングはするぞい。今日は連携力を高めるトレーニングをする。ただし、それはかなり実戦に近い形にはなるがのう」


 ジジイは言った。成る程な……チームで戦う為の戦法を教えてくれるのか、確かにこれも大事だ。


「それで、具体的には何をするんだ?」


 添島が獣の様な顔で尋ねた。元々獣の様な顔だが。


「今日はワシを相手に戦ってもらう」

「「えっ……」」


 全員が顔を見合わせた。嘘だろ……そんなの普通に考えて勝てる訳がない……。


 このジジイは何を言っているんだ?


「もちろん、ワシは妨害を旨として、反撃するし、威力もしっかり加減するぞい」


 成る程。ジジイは俺達にダメージを与える攻撃はして来ずにしかも加減する……かそれなら安全か。


「皆一斉にかかってくるが良いぞ!」


 ほう?しかも俺達五人対ジジイ一人か……これなら分からないな……。


 俺達武器使って良いのかな……?いくらジジイが強いと言ったって刃物だぞ。大丈夫か?


「なあ、俺達って武器使って良いのか?」

「問題無いぞ?ワシも伊達に長生きしている訳では無いからのぉ」


 ジジイは笑みを浮かべて答えた。ジジイは途轍も無い自信を持っている様だ。何処からそんな自信が出てくるのやら……。


「いやいや……もしもの事があったら……」

「そんなに心配か?それならワシは素手でOKじゃよ。それと今回はワシは『気』も使わんわい。おお、そう言えば『気』に付いて言って無かったわい。説明しよう」




 ええ、もしもの事ってジジイにもしもの事があったらって意味だったんだけどこのジジイ勘違いしちゃったよ……。


 本当に大丈夫なのか……?俺もう知らないぞ……。


 元々刃物を人に向けると言う事をした事が無かった俺達にとって刃物を持つ事はメリットとは限らない。

 躊躇する可能性もあるが、ジジイの言葉を信じる事にする。


 ジジイは強い。


「まずワシは『神気』というのを使えるが、その『神気』というのは、闘気と魔力を極めた者だけが使えるマナの力じゃ」


 そこで、聞き覚えの無い単語が聞こえて俺は首を傾げる。


 ん?まてまて、まず闘気と魔力ってなんだ?


「闘気と言うのは主に身体を強化したりするのに適している力の事なんじゃが、元々体内に内包されている力の為にそれを上手く引き出す事が重要となるのじゃ」


 成る程……闘気は肉体戦闘が得意そうな奴らに合ってる力だな……例えばジジイとかあの筋肉ゴリラとか筋肉ゴリラとか……。


「魔力と言うのは周りに漂っている物も含めてマナを使う時などに威力を底上げしたり、効果を付与したり魔法を使う時に使ったりする力の事じゃ」

「もちろんこれも体内にもこの力は混在しておりそこから事象を起こして空気中のマナと連鎖させて魔法を発動させたりする」


「これは、上手く体内に混在している魔力。これをいかに効率良く変換して強い力を引き出せるかが鍵じゃな。ただ、どちらも性質が違うだけで気でも魔法の様な事は出来るし、魔力で身体能力を強化する事も出来る。じゃが、魔力と気は似て非なる物じゃ。鍛え方とかによってそれぞれの成長に差は出るし、得意不得意によっても違う」

「あ、もう一つ言っておこう。気を使わないとは言っても元々の基礎的な強さは変わらんので注意する事じゃよ。基礎となる筋力とその内部に染み込んだ動きをサポートするマナの力によって元々のワシの基礎的な肉体は並みの刃物でも傷がつかん程に強化されておる」


 ふむふむ……難しいな……。て言うか、どれだけ力落としても刃物が肉体を通らないとか……最初にジジイを心配していた俺が馬鹿だったよ。


 だが、取り敢えずはどちらも体内に内包されている力でどれだけエネルギーに効率変換出来るかが鍵なのは確かだ。


「因みにワシの普段使っている武器種はパイルバンカーじゃ」


 ジジイが異質なだけに武器も異質だった。ジジイは聞いてもいない武器の話を始めた。


 パイルバンカーとは実物は見た事は無いが、杭を物凄い勢いで撃ち出して大ダメージを与える武器と言うのは何となく聞いた事がある。


 それにしても気は、使わないと話していたが魔力も使わないのかな……?


「魔力も使わないのか?」

「そんな事したら妨害出来る手段が限られるじゃろうが」


 成る程、流石のジジイでも魔法で足止めするのか……確かに拳で足止めとか洒落にならないな……。


「では、そろそろ始めるぞい。連携のコツは出来るだけ陣を崩さずに戦い続ける事じゃの……」


 ジジイが開始の合図を切った瞬間添島が駆け出して大剣を上から全力で振り下ろし切りかかった。躊躇無しにジジイを切りにかかっている……。


 これはある意味ジジイを信頼しているのか?


「うおおおおぉ!」


 するとジジイは落ち着いた様子でノーモーションで魔法を唱えた。


束縛バインド


 今まで切りかかっていた添島が見えない何かに巻き付けられ動けなくなる。それを見た重光が背後から魔法を唱えて添島を支援する。


状態回復リカバー!」


 淡い光が飛んでいき添島の拘束が解かれる。重光が添島を回復している間に亜蓮は走り、添島を追い越してジジイの背後を取った。


「はぁぁぁ!」


 ククリを最短距離……真っ直ぐに打ち出した強烈な攻撃。にも関わらずジジイは背後も振り返らなかった。


「重心がズレているぞい」


 軽く亜蓮の足を自らの身体を回転させて払った。亜蓮は情けない声をあげながら転けた。

 そこで俺は教えてもらった固有スキルの使い方を試してみた。


属性付与アトリビュートエンチャント!火、雷(ファイア、サンダー)!」


 俺は三人の後方から如何にも厨二病なセリフを叫び、俺自身に火属性、山西に触れて雷属性を付与した。俺の身体から炎がめらめらと陽炎の様に燃え上がり、山西の身体からはビリビリと何か電流の様な物が立ち上がっているのが分かるが俺達はその影響を受けない。


 後々の話だが、普通に叫び声「エンチャント!ファイア、サンダー」で良かったらしい。


 無駄に長く叫んでしまった……。


「ほお、固有スキルか!大分使える様になったのお……」


 そして、山西も


「身体強化。スピード!」


 と俺に速さが上がる補助スキルを使った。そして、山西と俺はジジイを両側で挟む様にして武器を構えて斬りかかる。容赦はしない。


「「えいぃ!」」


 ジジイは軽く跳躍し、数メートル飛び上がり、簡単にその攻撃を避けた。俺と山西の武器の刃がお互いに当たりそうになった事で俺と山西は咄嗟に動きを止める。


 だが、ジジイがその攻撃を回避するのが分かっていたのか重光は先ほどから詠唱していた『火球ファイアボール』の一つを上空に飛ばした。火球はジジイに向かって真っ直ぐと狙いを定めて飛んでいく。


火球ファイアボール!」


 それを見たジジイはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、空中で身体を捻り拳で火の玉を殴って爆散させた。どんなべらぼうな身体能力してんだよ……!


 爆散した火球は周囲に白煙を撒き、ジジイの視界を潰した。白煙の背後に隠れていた添島は跳躍し、重力で落下して来たジジイ目掛けて上段から全体重を乗せた強烈な一撃を放った。


「はぁぁぁ!」


 そこに合わせて俺の隣で落下してくるジジイを視界に捉えた山西が補助魔法を唱えて援護する。


「身体強化。アタック!」


 添島の身体に薄緑色のエネルギーのような物が絡みつき、これで威力が底上げされた添島の一撃に更に重光が援護する。


多重火弾マルチファイア!」


 複数の小さな火の玉を生み出しそれを添島の周りを援護する様に回らせた。


 あの時間でのこの制御力を身に付けたと思えば恐ろしい才能だ。正に完璧な援護。俺達の現時点で出来る最高峰の一撃である。


 すると、それに対してジジイはほぉ?と感心した様子を示し自身の上空の添島を見つめると両手の平を力強く合わせた。


「合掌!」


 その瞬間衝撃波の波がジジイを中心に広がり添島の周りを漂っている火球は全て割れ、添島を含めたその場にいた全員が衝撃波に吹き飛ばされた。


  嘘だろ!


「がああぁぁぁ!」


 添島が地面にぶつかり息を切らしながら言った。


「はぁ、はぁ、やっぱりジジイ只者じゃねえとは思ってたが強いな……」


  俺も地面に背中を付けたまま天井を見上げて思った。このジジイに勝てる映像が一切思い浮かばねえ。


 それに対してジジイは息を一切切らさずに笑って言った。


「中々この短期間で仕上げたとは思えんほどの連携じゃが、まだまだじゃの。まだ、訓練は始まったばかりじゃ!それと、まだ人を切るときに躊躇しているようではワシは倒せんぞ!」


 こうしてジジイのスパルタ実戦は数時間続いた。






 ーー数時間後


「「ハァッ、ハァッ……」」


 俺達は疲労困憊だった。尚ジジイは余裕の表情である。


「うむ、良く頑張ったぞい。合格じゃ。今度から迷宮に潜っても良いぞい!」


 おおやっとか……ってこのセリフ何回目だよ!また何かありそうだ……。


「まぁ、ワシも付いていくがの」


 ジジイは最後に言葉を添えた。



  ええ、またこのジジイと一緒かよ……。


 嫌な予感しかしない。


「「えー……」」


「いやいや、基本的にはワシは何もせんよ。後を付いて行ってピンチの時に助けるだけじゃよ」

「それって良いとこ取りなんじゃ……」


 このジジイは俺達の好感度でも上げたいのか……?


 だが確かにこのジジイは強い。

 最初はついて貰った方が安全だろう。


「最初は安全にこしておいて損はないと思うぜ」


 添島は同意の意を示した。


「まぁ、ボディーガードみたいな物だろう」


 亜蓮も賛成の様だ。


「そ、そうじゃ、ボディーガードみたいな物じゃ!」


 いや皆同意してるから、もうジジイ喋らなくてもいいから。

 まあこれで安心できる。


 安全は確保された様なものだ。


「また、明日からも頑張るぞ!」

「「もちろん!」」


 こうして、基本的な訓練を受けた俺達は今度こそ迷宮ダンジョンに挑戦するのであった。


 え、挑戦するよね……?それは俺達にはまだ分からない。



〜〜〜単語やスキルなど〜〜〜


固有スキル…個人が持っている特殊なスキル

スキル…体内に存在するマナと言われる力を使って発動する。直接事象に変換する。 例 炎を出すスキルの場合 直接炎が出て、その炎は炎と言う単純な事象である。

魔法…マナの力を使い発動する。術式が必要。 例 火球の魔法を詠唱すると火球を形成する為の術式が組み込まれて炎の玉が飛ぶ。 その炎の球も内部には術式が組み込まれている為単純な事象ではない。

属性…火とか雷とか。

重力グラビティ…対象にかかる重力を変化させる。

粘着ディサイブ…対象に糸を飛ばし拘束する。

規制リグレイ…対象の身体の自由を奪う。使用者が強い程強力。

限界リミット…対象の身体が壊れる直前で身体の動きを強制停止させる。保険。

解除リセット…対象にかけられた魔法などを無効化する。使用者が強い程強力なものも打ち消せる。

回復ヒール…対象の傷を癒す。ジジイは異常。

神気…闘気と魔力を極めし者のみが扱える。ヤバい。

闘気、魔力…力の質は違うが体内に内包してある力。正しくは質と言うよりは使い方である。筋肉量とマナは関係している。基礎的な力を支える筋力とそれをサポートするマナの力。元々調節出来なくて元々内包しているマナは元の身体能力などを左右させる。どんな人でもどちらのマナも持っている。ただ、鍛え方によって内包されるマナには成長に偏りが出る。つまり、性質の違う二つのマナと言うこと。

束縛バインド…対象を物理的に束縛する。使用者が強い程強力。

状態回復リカバー…拘束系を解除する。毒とかは不可

火球ファイアボール…初級魔法。火の玉を撃つ

身体強化…身体能力を強化する

多重火弾マルチファイア…多数の火の玉を撃つ。ファイアボールよりは小型

合掌…ジジイの固有スキルと組み合わさって、手を打ち付けるだけでとんでも無い範囲を攻撃する事が出来る様になった技。掌を力強く合わせるだけ。ジジイの固有スキルについては後の話で説明します。

魔法付与エンチャント…主人公、安元翔司が持つ固有スキル。魔法付与とあるが魔力を使うというよりはどちらかと言うとスキルなので、違う。らしい。今は属性を付与させる事しかできない。付与魔法とは別の位置付けである。

添島が扱っている大剣について…背中に付ける鞘の部分と本体がフックで繋がっており、剣を引き抜くとフックが抜け鞘が開き中のピストンが動き、鞘と剣が一体化して抜刀時に使用者の邪魔にならない様になっている。 尚戻す時はもう一度背中から下ろす必要がある。亜蓮のバックラーに付いては後の話で解説します。

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