71話 谷伸縮毒蛇
「俺はお前の能力に始めて感謝したわ」
俺は添島の毒舌を受けながら灼熱の大地を突き進む。、、、灼熱って程では無いのだが、、、二十九階層は二十八階層とは異なり水分は殆ど干上がってしまっており、高温で乾燥しており地面に当たった日光が反射しかなり暑い環境になっている。今のところ敵は二十六階層に近い感じではある。そして、増えたのは禿鷲の様な鳥だ。チャージホークや、ローグレードワイバーンと比べて小柄だが、頭が賢く爪の力も強い為に時にはヒッポグリフをも仕留める事が出来る実力を持っている為に油断は出来ない。そして、現在俺達が快適に移動出来ているのには原因があった。俺がエンチャントで全身に冷気を纏い周囲の気温を下げているのだ。これだけで辺り一面で感じる温度は下がるだろう。だが水分だけはどうにもならないので、しっかりと休憩を取りながら補給する。そして、俺達が通路の隅で休憩をしていると慌ただしい様子でヴァレーゴートの群れが俺達の前を走り抜けていく。そして、その後ろをものすごい勢い速さで何かが通り抜けていき、空中を滑空する。なんだ!?俺達にはその何かは興味は無い様でそのままヴァレーゴートの群れを単独で追いかけて行く。ヴァレーゴートを単騎で狩ることの出来るモンスターは今までヒッポグリフの様な大型のモンスターばかりだった。だが目の前を通り過ぎて行った何かはそこまで身体が大きい様には見えなかった。羽を広げてもニメートル位だ。到底単騎でヴァレーゴートを仕留められるとは思えない。そして、その何かはヴァレーゴートを抜き去り先頭に躍り出る。そして、
「シャァァア!」
その生き物は口から何かの液をヴァレーゴート達に向かって覆い被さる様に噴出させた。その瞬間ヴァレーゴート達は頭を振り苦しみ始め、逃げようとするヴァレーゴートは足元がふらついている為か崖で足を滑らせ転落し、反撃をしたヴァレーゴートは華麗に攻撃を回避され首元に噛み付かれる。そして、俺はそのヴァレーゴートを噛み殺した生き物の姿を見る。頭は丸くローグレードワイバーンの様だが黄土色の縦長の爬虫類的特徴を持つ目はしっかりとヴァレーゴートを捉えて離さない。そして口には長い舌が常に出し入れされており、何かを探っている様にも見える。そして、先程俺がニメートル程の大きさかと思っていた体は縦長のコブラの様な形に変化しており体の長さは五メートル近くある。だがサイズだけで言えば元の世界でもニシキヘビとかの方が大きいと思う。だがこいつ、、、もといヴィコンヴァイパーの身体は特殊な特徴を持っている。それは伸縮自在だという事だ。身体を伸縮させて胸部を膨らまして空中を滑空したり、身体をバネの様に使い高速で崖と崖を移動したりと用途は多数ある。そして、大型の草食モンスターを一撃ですぐに倒れさせる程の猛毒、、、こいつに不意打ちをされると厄介で仕方が無い。まぁ、アクアの能力と重光の解毒で対処は可能だが、、、普通の蛇形のモンスターは敵を絞め殺す事を得意にしているモンスターが多く、体格が小さいとそれが出来ない事が多く大きな敵を仕留める手段が毒液のみの種類も多い。だがこのヴィコンヴァイパーは違う。伸縮自在の身体のお陰でより強力な締め付け攻撃も行う事が出来るのだ。そして顎の力も強い。元々蛇は蛇でもコブラ種は毒液攻撃が基本なのにどちらも出来ると言うのはかなり反則的なモンスターだとは思う。だが勿論こいつにも弱点がある。伸縮自在な身体故に骨が薄く連なる様に出来ている為耐久力は大した事は無い。恐らく山西でも物理的に倒せてしまうだろう。攻撃が当てられるかどうかは別としてだ。遠くから亜蓮のナイフとかで倒すのが一番楽だろう。ヴィコンヴァイパーはヴァレーゴートを飲み込みそこで陣取っている。ヴィコンヴァイパーは戦闘の際に群れを襲う事が多いが、自身の大きさ故に何匹も食べる事は出来ない。その状態でどうするのかと言えば、、、満腹になったヴィコンヴァイパーが口から先程とは違う何かの液体をヴァレーゴートの死骸に向かってかける。するとそのヴァレーゴートの死体に蜘蛛の巣のやうな膜が張り、周囲に悪臭が漂い始める。そしてそれを確認したヴィコンヴァイパーは崖を滑空して何処かに飛んで行ってしまった。あの液体は餌が腐敗するのを遅らせ、他の敵から餌を取られるのを防ぐ酸かと思われるのだが、、、通路に放置されても俺達がこまるんだが、、、尚ヴィコンヴァイパーは満腹状態でも割と素早い。そして、俺達は重光にヴァレーゴートの死骸を燃やして貰い、周囲に漂う悪臭に顔を歪ませながら先に進んだのであった。こんなの沼地エリアの臭さに比べたら大丈夫ではあるのだが臭いものは臭いのだ。