69話 爆炎は壁をも穿つ
俺は目の前の滝を見上げながら重光に言う。
「なぁ、重光、、、お前この滝を凍らせる事出来るか?」
「無理よ」
「だよな」
滝はかなりの勢いで水が流れ続けている為凍らせる事は難しいだろう。勿論それを分かった上で重光に質問したのだ。逆に滝を蒸発させるのは論外だ。今の所添島は無理矢理力で登っていけそうで、重光も階段状に土魔法で周囲に階段を作れば、、、あ、、、俺はこの時点で気付いてしまった。俺は馬鹿かと、、、普通に崖を登る必要なんて無いじゃないか、、、重光に濁流が流れている外側に階段を作って貰ってそれを全員で登れば上に行く事は可能だ。天井の穴が小さいから見落としていた。階層の狭間とかじゃない限り、、、つまり、同じ階層内の移動だったら普通に壁に自分で穴を開けて移動する事は可能だ。壁を破壊する事のできる火力があるかどうかは別としてだ。
「重光、、、土魔法で階段を作って俺達を上まで行かせる事は可能か?天井は俺が壊す」
「ええ、それなら可能よ、、、だけど全員が乗っても安全に登れる強度、、、そして、どうせあの技を使うのでしょう?あの技の反動に耐えられる強度で作るとなると、、、相当時間かかるわよ?」
「大丈夫、、、大丈夫、、、今のところこの階層には大した敵はいないから」
「そうだと良いのだけどね」
重光は淡々と答えながら土魔法で階段を作り始めた。ある程度の強度を持たせる為にかなりの時間とマナを消費する。マナがほぼ無限である重光位にしか頼めない事だ。天井は恐らく添島の攻撃でも壊せない事は無いのだろうが、かなり溜めていたオーラタンクのエネルギーを使ってしまうだろう。それを使う位ならば割と直ぐに貯められる俺のマナを使った方が効率は良さそうだ。まぁ、一番は俺がインプレスエンチャントの練習がしたいと言うのはある。今の俺の能力ではインプレスエンチャントを暴発無しで放つには事前にかなり溜める時間が必要だ。それでは対応力に欠けるし、敵にも勘付かれてしまう。そして、更に言えばこれは属性にもよるが撃った後は隙も大きく媒介を通して放った場合でも腕にかなりの衝撃が伝わり大きな隙が出来、しばらくまともに腕が機能しなくなる。これは大きなデメリットだ。俺的にはノータイムで最大火力を媒介無しで放っても問題無いレベルにはしたいものだ。そして、重光が淡々と階段を作る作業を繰り返し天井の近くまで足場が達する。さて、俺の出番か、、、いくら威力が高いインプレスエンチャントでも距離が離れてしまうと当然威力は下がってしまう。だから俺は足元の石を拾い天井に密着させた。
「内部圧縮属性付与 火!」
俺はゆっくりとマナを圧縮させて、天井に強烈な一撃を叩き込む。横でアクアが軽減能力を使い、俺の身体への反動ダメージと消費マナを軽減する。
(ドン!)
視界が真っ赤に染まり赤熱した天井が砕け散り足場にヒビが入る。勿論俺の腕も痺れている。だがこの痺れは重光が階段を形成している間に回復するのは問題ない。問題があるのは、、、天井を破壊した時に上部に水が溜まっていた場合は濁流が俺達を襲う事になる。それと俺のマナの残量だ。キツい。まぁ、これが十回とか続くようならば休憩を途中で取る形になるだろう。重光も精神的にキツイだろうしな、、、上が水かどうかはちょっと判断しかね無いが、少しならば俺の熱で蒸発するし、重光も俺がマナを込めている間にバリアを張ってくれている。そうでもしておかないと本当に不味い。だがこの後俺が危惧していた事は起こらずに俺達は滝壺の上部に到達し、滝壺から抜ける。
(ザーッ)
大雨が降り、雷が時折鳴っている。モンスターの姿はあまり見えない。
「雷雨か、、、だが、この階層ももう少しの筈だ。頑張ろう」
添島が俺達を励ました時だった。
「キュイイイ!」
何か鳥の様な鳴き声が聞こえ上空から大きな影が俺達の方向へと近づいてくる。そしてその大きな影は複数体俺達の目の前に姿を現した。ん?あれは前の階層でヴァレオンに捕食されていた鳥、、、?いや、違う。その鳥の姿は良く似ていた。だが違う点がある。その鳥達の身体は仄かに光っており黄色い稲妻がビリビリと身体から発せられていたのだった。