65話 獅子の戦闘意義
「多重防御壁」
添島にヴァレオンの蹴りが目の前まで迫った時だった。重光が援護の為に詠唱していたバリアを添島の目の前に幾重にも展開する。だが
(バリバリバリ!)
アクアのオリヴィエでヴァレオンの攻撃の威力が軽減されているにも関わらずヴァレオンの蹴りはバリアを貫通して行く。俺ももしもの事を考えてインプレスエンチャントを準備しておく。そして、ヴァレオンがバリアを破っているほんの少しの隙で添島は体勢を立て直す、、、だが
「グオオオオオオ!」
「何っ!」
「内部圧縮属性付与 火!」
ヴァレオンが向かった先は俺達の予測もしない場所だった。添島は後でいつでも狩れると踏んだのか、援護をする重光の方へと最後のバリアを砕きながらバリアの壁を蹴り上げて重光の方へと向かい、俺は準備していたインプレスエンチャントを解き放ちヴァレオンに直撃させる。大きな爆炎がヴァレオンを包み、空中にいたヴァレオンは少し吹き飛ばされるが、地面に着地する。
「はぁぁぁあ!」
亜蓮がせめてヴァレオンの動きを止めようとヴァレオンの目に向かってナイフを投擲する。
「グオオオオオオ!」
だが、ヴァレオンは煙の中からナイフを噛み砕きながらこちらへと向かって来た。嘘だろ、、、俺のインプレスエンチャントの爆炎を食らって尚ヴァレオンは元気そうだ。だが、鱗の表面に傷が入り全身が焦げておりそれなりのダメージが入ってる事には間違い無い。
(ギィィィン!)
添島の剣とヴァレオンの牙が当たり火花をあげる。
「お前の相手は俺だ!余所見すんじゃねえよ!」
添島はオーラタンクの出力を上げてヴァレオンを吹き飛ばし追撃に入る。アクアの軽減能力のお陰か添島の気の消費量は割と抑えられている。
「グオオオオオオ!」
ヴァレオンは先程俺にやられた傷が痛むのか吠えたかと思えば追撃をしようと向かってくる添島を迎え撃つ。
「っ!?」
添島は何かを察して後ろへと飛び退くが時遅し。
「がぁぁぁぁぁあ!」
ヴァレオンの口から放たれた火炎弾をまともに食らい添島は地面に転がり込む。アクアの軽減能力があっても着火する威力か、、、中々エゲツない攻撃だ。ヴァレオンは逆に添島の方へと追撃に向かう。
「内部圧縮属性付与 水!」
水は内部で圧縮出来た記憶が無かったが、俺は咄嗟に添島の方へとインプレスエンチャントで水属性を付与し、放つ。
「ぐっ!」
すまんな添島!俺の手から放たれた水はまるで高圧洗浄機のように俺の腕から飛び出し添島を押しヴァレオンの攻撃が当たるのを防ぎ添島の体に着火した火を鎮火する。どちらかというと圧縮したと言うよりは内部で貯めてから勢いで噴き出させたに近い形になってしまい、かなり効率の悪い技の出し方をしてしまった。水属性のインプレスエンチャントは今後あまり使わない方が良さそうだ。いくらアクアの軽減があるとは言えインプレスエンチャントを使える回数はあと二回撃てるかどうか、、、と言うレベルである。あまり無駄撃ちは好ましく無い。添島は組織破壊が回復したようで、再び剣を構えてヴァレオンと相対する。もう一度インプレスエンチャントの爆炎を当てる事が出来れば十分に勝機はある。
「添島!ヴァレオンを俺が至近距離であの爆炎を当てられるくらい引きつける事は可能か!」
俺は添島に声をかける。その回答は
「ああ、勿論だ!」
添島は笑みを浮かべながらヴァレオンの方へと駆け出した。
「グオオオオオオ!」
ヴァレオンは横に跳びのき俺から距離を取ろうとする。俺達の作戦の何かを察した!?んな馬鹿な!
「多重雷火槍!」
距離を取ろうとするヴァレオンに重光は雷と炎で包まれた槍でヴァレオンを狙い撃ちして距離を取らさせない様にする。
「グオオオオオオ!」
ヴァレオンは重光の攻撃をまともに食らうがヴァレオンはそのままこちらに攻撃を仕掛けようとする。だが、
「お前の相手は俺だって言ってるだろうがよ!」
添島がオーラタンクの出力を更にあげて急加速し、ヴァレオンを迎え撃つ。
「グオオ!」
そしてヴァレオンは少し吹き飛ばされるが人吠えするとよく分からない行動を取った。
「なっ!?」
まるで、さらばだとでも言わん限りに俺たちに火炎弾を飛ばし崖を登り去って行く。ヴァレオンは賢い。俺達を襲うメリットの少なさを危惧して他の獲物を狩りに行ったのだろう。
「はぁっ、はぁっ、、、行ったのか、、、」
添島はそろそろ限界だったようで、息を荒らげている。俺達は去っていくヴァレオンを遠目に眺めるのであった。だが、ヴァレオンの目は俺のマジックバックを捉えており俺もその目を見過ごす事は無かった。俺のマジックバックの中に食料が沢山入っているのを見抜いている?そんな馬鹿な、、、マジックバック内の食料の匂いまで分かるのか?このマジックバックは小さな空間みたいな場所にモノを詰め込める。だが時間はちゃんと経過するマジックバックの中でもそこまで良い物では無い。それでも密閉された大きな部屋の片隅に食料の山を置いといてかなり遠くの外からあの家のあの部屋には食べ物が置いてある。と分かるようなものだぞ?そう、中は密閉されており、外に匂いが漏れる事は無いのだ。なのに察するのはどう言う事だ?っ!?まさか、、、俺がマジックバックから何かを出すのをずっと監視していてそれから考えた?いや、だが、ヴァレオンと遭遇したのはこの階層に入って直ぐの筈だ、、、それか、他の仲間達のポーチからは匂いがするのに俺のだけ匂いがしない事に気が付き表面に付着した比較的新しい食料の香りを察知して考えた!?俺はその可能性を考えてヴァレオンが再び襲って来ることを視野に入れて行動を開始するのであった。