64話 渓谷の猛者
俺がしっかり休むのを確認し、俺達は二十七階層に到達する。
「キイイィィイン!」
甲高い音が上空から響く。多分鳥の鳴き声だろう。実際濁には巨大な鳥が飛んでいる。そして、この階層には川が流れていた。あまり水量は多くは無いのだが先程までの階層には無かったものだ。水が少しでも流れているお陰か微妙にこのエリアは涼しいんじゃないか?と思わせる。まぁ、実際めちゃくちゃ涼しくて温度は快適だ。ただ川があるだけで俺達の心をやさしく馴染ませる。だが、その平穏は俺達がこの階層に来てから直ぐにぶち壊される。
「グオオオオオオ!」
何かの咆哮が辺り一面に響く。その音の方向を見ると崖の一番上の部分。頂点に当たる部分に大きなモンスターが王者の如く立っておりこちらを睨んでいる。そしてそのモンスターの足元には巨大な先程上空で鳴いていた鳥が頭蓋骨を砕かれ屈服している。いや、殺されている。そして、そのモンスターはその巨大鳥を豪快に食べ始めた。骨を砕きそんなものは関係ないとばかりに易々とそのモンスターの牙は巨鳥の体を骨ごと食べて行く。まさか、、、!?あのモンスターはヴァレオン!?ヴァレオンは渓谷エリアの中でも上位に位置するモンスターで個体数は少ないと言われている。獅子のような身体に竜の様な頭。強靭な鱗、、、長めの尻尾、、、翼は持っていない。テレインヒッポグリフのドラゴン版みたいな奴だ。だがヴァレオンの強さは奴の身体の強靭さにある。テレインヒッポグリフと違い獅子の様な身体にも毛皮の裏には鱗がぎっしりと並んでおり耐久力が高い事も伺える。そして、そんなに重そうな身体をしているのにも関わらずテレインヒッポグリフと同じような、、、いや、それ以上の動きが出来る筋肉、、、まずパワーが桁違いであると言うのは容易に想像できる。そして、ヴァレオンとテレインヒッポグリフとの最大の違い、、、それは、口から火炎弾を吐くことが出来ると言う事だ。ヴァレオンには自身の運動エネルギーを使用した熱を体内に溜め込み収縮させる事の出来る器官が存在する。それであの激しい動きはかなりの運動エネルギーを消費する筈だ。それで形成される熱量は半端ない量だ。だがその分食べ物は大量に必要になりヴァレオンは今も食事を続けている。ヴァレオンは食事を終えると次に俺達を捉えたようで崖から飛び降り向かいの崖へと飛び移る。来る!
「来るぞ!」
「三重強化 撃防速!」
「キュイ!」
「グオオオオオオ!」
俺は咄嗟に指示を出し、全員に強化がかかり、重光は援護の魔法の詠唱に入る。そして俺達の周りにキラキラと煌くドームが形成される。俺がアクアに指示を出したのだ。多少でも受けるダメージを軽減したかったのだ。ヴァレオン相手に中途半端にかかると事故が起こりかねない。
「気貯蔵!」
添島はオーラタンクを発動しヴァレオンに迎え撃つ。だが、
「ぐっ!」
ヴァレオンの攻撃を受けた添島は競り負けその反動で後ろへ退く。添島は出力全開では無いにしろオーラタンクを使った添島を押し返すとは、、、そしてヴァレオンの攻撃はそれからも続く。添島に対して引き続き後ろへ飛んでは加速をつけて向かって来ては添島が迎え撃ち、時には崖の壁を使って攻撃もしてヴァレオンは添島を翻弄する。
「はぁっはぁっ!」
添島の体力が厳しくなり息が切れる。このままでは本当に押し負けてしまう!だが、俺が行った所で太刀打ち出来るとは思えない。だが援護位はさしてもらおう!
「内部圧縮属性付与! 氷!」
俺はマナをゆっくりと込めてヴァレオンに向かって凝縮された冷気を一気に放つ。その瞬間、、、
「はぁぁぁあ!」
ヴァレオンの身体が地面と一瞬固定され添島の攻撃がまともに入るかと思われた、、、その時だった。
「グオオオオオオ!」
「がぁっ!」
ヴァレオンは身体から高温の熱を発し添島は眉を顰めたその瞬間、、、ヴァレオンの後ろ脚の回し蹴りが添島に直撃する。添島は大剣を盾にして防いだものの吹き飛ばされ崖の壁へと叩きつけられる。そした、ヴァレオンはそのまま添島に向かって追撃に向かった。対する添島は、、、
「!?」
避けられない!添島が気がついた時にはヴァレオンの脚が自身の目の前にあったのであった。