61話 転落
(ぷすぷす)
俺の持っている石ころが軽快に音を立ててリズムを奏でる。実際はそんなに優雅な音ではないのだが。
「練習するのは良いんだが、、、その音どうにかならねえのか、、、?耳障りなんだが、、、そしてマナの残量には気をつけろよ、、、?」
「おう、、、」
俺は少し声をすぼませて答える。実を言うと、、、結構マナを使ってしまっている。この階層は既に中腹までは来ているのだが、そろそろ日も暮れそうで何処かで休む必要がありそうだ。因みにこのインプレスエンチャントは放出させるまでは外部に熱などが出る事は無いので温度を感知するモンスターなどに気を配る必要は無い。まぁ、休憩すればマナは回復するのだからそこまでストイックに管理する必要があるのか?と言うのが俺の考えだ。そして、日は暮れ俺達は休む事にする。渓谷は昼は暑いが風があるお陰かそこまで暑く感じなかった。だが夜になると一気に寒さが押し寄せる。そして、大体の生き物は夜行性だ。となると何処か風を凌ぐ場所が必要となるだろう。
「よし、今日はここら辺で野宿にするぞ。明日で次の階層には辿り着きたい所だな。重光、壁に穴を掘れるか?」
風や敵の襲撃を防ぐ為に壁に穴を掘って一夜を越すらしい。
「ええ、ちょっと壁が硬いから少し時間が掛かるけど良い?」
「大丈夫だ、問題無い」
重光が壁を触り硬さを確認して、魔力を込め始める。その間俺達は特にする事も無いので周囲の見張りを行う。だが、特に移動もせずに固まっている俺達は空を飛ぶモンスターにとって格好の獲物だ。
「グルルルルルル!」
「テレインヒッポグリフ!?」
山西が暗闇に輝く瞳を発見して叫ぶが違う!あれはテレインヒッポグリフでは無い!暗闇のせいか相手の姿が上手く捉えられない。よく見るとテレインヒッポグリフよりも身軽そうな身体を持っており背中には大きな翼が生えている。あれはヒッポグリフだ。添島が構える。不味い!ヒッポグリフとテレインヒッポグリフで動きの軌道がまるで違う。同じように相対すると痛い目を見るだろう。
「添島!あれはヒッポグリフだ!山西!強化魔法を!」
「了解!三重強化! 撃防速!」
山西の魔法が重光を除く全員にかかり強化される。そして、間近でヒッポグリフと気づいた添島は大剣を振るう。
「グルルルルルル!」
だがテレインヒッポグリフと違い大きな距離を取らなくても空中で軌道を変えられるヒッポグリフは最小限の距離で回避して前脚で添島を狙う。
「添島!」
不味い添島は大剣を振り切った体勢だ、、、これでは間に合わない!
「気貯蔵!」
その瞬間添島をエネルギーが包み一気に加速し添島は足を引き大剣を振り切ったまま返し柄の部分を物凄い速度でヒッポグリフの前脚の裏に打ち付ける。
「ギィィィイ!?」
あまりの衝撃にヒッポグリフの前脚は折れ曲がり反動で後ろへと飛ばされる。
「はぁぁあ!」
そして、その飛んでいく先に亜蓮のナイフが飛んでいく。
「グルルルルルル!」
だが空中で吹き飛びながらも翼で体勢を整え添島に折られていない方の前脚でナイフを砕く。そして、ヒッポグリフは再び添島の方へと向かった、、、様に見えた。だが、
「っ!?」
「山西!」
ヒッポグリフは添島の近くまで高速で移動し、翼を返し真後ろで槍を構えている山西を狙う。
「きゃあっ!」
山西は槍でヒッポグリフの攻撃を受け止めるも後ろに吹き飛ばされて崖から落下する。重光は後ろ壁の作業をしており援護に入る事は出来なかった。そして俺の身体が勝手に動き俺は崖から飛び出した。
「安元!?」
ヒッポグリフをそんな俺達を見逃さない。空中に浮かんだ俺達を狙う様に飛んでくる。
「不味い!」
亜蓮はナイフをヒッポグリフに向かって投げるが、ヒッポグリフは空中で華麗に回転しながら亜蓮のナイフを次々と破壊していく。そして俺の目の前に来る。
「っ!?内部圧縮属性付与!火!」
俺は咄嗟にインプレスエンチャントを発動していた。そして
「ギィィィィイ!」
巨大な爆炎がヒッポグリフを覆い、ヒッポグリフは悲鳴をあげる。俺の腕は軽い火傷で済んでいる。成功だ。だが今はそれどころじゃ無い!
「内部圧縮属性付与、、、!風!」
俺は先程とは反対の腕で風を放出する。
「くっ!」
腕はただの打撲で済んだが威力が足りない!マナ切れだ。俺は咄嗟に山西を仲間達の所へと放り投げた。
「キュイイイイ!」
アクアの声が聞こえた様な気がしたが俺は意識を失い煙を上げ白眼を剥くヒッポグリフと共に崖下に落下していくのであった。尚軽傷で済んだとは言ってもインプレスエンチャントを発動させた直後は暫く腕が痺れるなどしてまともには機能しない。