60話 威力調節
「あのなぁ、、、せめてその技使うなら使うでその技について俺達に話しといてくれよな、、、」
添島が二十六階層を歩きながら愚痴を漏らす。
「それについては悪かったって言ってるだろ、、、」
だが正直言ってこの技を練習するには犠牲は付き物だ。ジジイがいない場所では練習出来ないと思う。
「第一にその技も属性付与の派生なんだろ?それだったらわざわざ自分の腕で試さなくても物で練習出来るんじゃ無いか?」
添島が何気なく呟いた一言によって俺の中で革命が起こった。
「それだぁぁあ!」
「ちょっと!いきなり大きい声出さないでよね!」
隣にいた山西がビクッと驚き不機嫌そうな顔で言う。まぁ、それは置いといてだ確かに物にインプレスエンチャントをすれば腕が吹き飛んだりはしないだろう。これは試してみる価値はありそうだ。
「おい、お前ら、、、周りを見ろよ、、、デカイ声出すからモンスターが集まってきたじゃねえかよ、、、」
「へ?」
俺が周りを見ると翼の生えた竜のような生き物が俺たちの周りを覆っていた。サイズはそこまで大きくは無く、俺達より少し小さい位か?だが翼を広げるとニメートル程の大きなはある。腕は自身の翼のようで頭は丸く口には鋭い牙が生え揃っている。確かあれはローグレードワイバーンだ。ワイバーン種の中でも劣等種と言われており、個人の強さは大した事は無く集団での連携を得意としている。こいつらなら試せそうだな、、、
「添島!俺にちょっと試させて欲しいんだが、、、」
完全に戦闘モードに入りそうな添島に話しかける。このままだとマジで敵を全滅させてしまいそうだ。
「分かった。だが決して奴の足元に行くなよ?連れ去られるぞ、、、そして、あまりマナを使い過ぎるな」
ローグレードワイバーンは飛べない敵などを狙って空から落とす攻撃が一番厄介だ。まぁ、俺達の場合連れ去られたら亜蓮か重光が撃ち落としてくれるとは思うのだが、、、そして、重光が落下地点を調整してくれる筈だ。
「了解!」
「邪魔な敵とか安元が連れ去られたらそいつは俺が撃ち落とすわ」
亜蓮がいつでもナイフを投げれる態勢を維持し、重光も魔法を事前に発動直前までして待機する。そんなに俺が不安か、、、それなら見せてやろう!俺の新しい力を!俺はおもむろに近くの石を取ってマナを込める。因みにマナを込めてそのまま爆発させれば爆弾として使えるのでは?とか思うだろうが何かしら触れてないと俺の能力は使えないのでただマナを込めただけの石ころとして飛んで行くから効果は無い。
「内部圧縮属性付与 火!」
俺はゆっくりと慎重とマナを込め始める。ゆっくりと、、、優しく、、、
「シャァァア!」
ローグレードワイバーンが痺れを切らしたかのように何匹か襲ってくる。
「はぁぁあ!」
しかし、そのローグレードワイバーンは距離を詰めれば添島にカウンターで斬り伏せられ、背後に回ろうものなら亜蓮のナイフに脳天と翼を貫かれ谷底へと落下していく。そして、俺のマナは爆発せずに込め終わる。まぁ、込めたマナの量が少なかったというのもある。だがそれでも石はぷすぷすと嫌な音を立てている。そして俺は石を握ったまま一番近くにいるローグレードワイバーンの方を向き溜めた力を放出させた。
(ブオオオォ!)
「熱っ!?」
石はかち割れ俺の手を巻き込んで特大の炎が放出される。だが、圧倒的に威力不足である。この威力では実用性はほぼ無いと言っていいだろう。
「軽減!」
俺は自身の引火した腕を鎮火させてから回復させる。軽い火傷で済んで良かった、、、だがほぼ顔面にゼロ距離から特大の炎を食らったローグレードワイバーンは身体を炎に包まれて落下していく。うーん、、、何かイメージと違うんだよなぁ、、、目の前をドカーンと爆発させて大ダメージを与える程の威力が欲しかったんだが、、、勿論、普通の属性付与で火炎放射をするよりは威力は上がっていた。だが、今のは火吹き芸の強化版位の威力だと思う。しかもほぼゼロ距離でしか着火させられないというクソ火力。使えねえ。多分もっとマナを込めれば爆発的な威力は出せそうだが制御出来る気がしないんだよな、、、
「添島、亜蓮、もう倒していいぞ」
「そうか、、、」
二人にそういうと残りのローグレードワイバーンを淡々と処理し始め勝てないと察したローグレードワイバーンは空に帰って行った。
「お前、チキっただろ?まぁ、ここでまたマナを使い切った上で負傷して貰っても困るんだが、、、」
ローグレードワイバーンを倒し終わった添島が皮肉そうに言う。まぁ、練習だよ、、、練習、、、そして、俺達はローグレードワイバーンをマジックバックを回収し先に進む。昨日俺が負傷した所には昼までには行きたい所だ。俺は石を握り微弱なマナを込めながら移動する。そして、そろそろかと思った時に空撃ちしているが、本当に火吹き芸のようで俺はいきなり何も言わずにそれをやるので周りは迷惑そうにしているが練習の為なので何も言わない。たまに暴発して手元で爆発するのだが流石に重傷になる程のマナを込めているわけではないので重光の手を少し借りるだけで問題は無い。マナの消費は総合的に見ると何気に結構している。添島のマナの消費を出来るだけ抑えると言う作戦は何だったのか、、、まぁ、自分が動ける量キープ出来てれば良いか、、、そう思いながら俺達は峡谷を進み昨日の所を通過するのだが、後にこのマナの消費が自分をピンチに追い込む事になるとは俺は予想もしなかったのであった。