5話 トレーニング始動
自分の語彙力の無さが目立ちます。
先程、本当の中身が良く分からないジジイより、トレーニングをする旨を伝えられどんな感じの事を身に付けて欲しいと個人に言われたんだが、どんなトレーニングをするのか全くを持って想像がつかない。
きっとこのジジイの事だからトンデモトレーニングに違いない……きっとそうだ。
「それで、どんなトレーニングをすれば良いのですか……?」
取り敢えずトレーニング内容が分からないと何も出来ないからジジイに俺はジジイに丁寧な口調でトレーニング内容を尋ねる。するとジジイはまた口元を綻ばせながら答えた。
「まぁ、そう急かさんでも良い。今から一人ずつ案内するわい……さて、いつまでトレーニングを続けられるかのぅ……」
ジジイはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら俺達を端から順に眺めて意味深なセリフを呟く。なんだ……?嫌な予感しかしない、本当に怖いんだが……そして、ジジイが遂にトレーニングの内容を告げた。
「まずは、安元と山西じゃ。二人にはこの部屋に座りひたすら無心で居続けてもらう」
ジジイの発言に俺は耳を疑う。は? もっと衝撃の内容を期待してたんだが、凄く拍子抜けしたぞ?座るだけで良いとか楽勝過ぎだろ……ただのニ○トと変わらねえじゃん。 二○トは少し違うと思うが、然程変わら無いと俺は思った。
いや、分かんねぇぞ……もしかしたら、凄いトラップが仕掛けられてたりするかもしれない。一応確認は取っておくか?
「それだけ?」
俺の声に対してジジイは素っ気なく部屋のドアに手をかけながら予想通りの答えを述べる。
「そうじゃよ?」
そして、ジジイはドアを閉めた。 部屋には殆どものが置かれておらず、真っ白い部屋に二人で閉じ込められた感じだ。こんな部屋にいたら一人でも気が狂いそうだ。増して山西と二人なんて、不運な事もあるもんだ。俺は山西が何かちょっかいを出してくるのでは無いかと考えており、山西の様子を伺う。そして、予想通り部屋に入ってから十分も経たずに俺と一緒に部屋に入れられた山西がイライラした様子で呟いた。
「こんな事に一体なんの意味があるっていうのよ……」
それは俺も同感だ。あと山西と二人で入る必要は無かったと思う。ただ座るだけだからな……ああ、暇だ。サボってもバレないよな……?
「「痛っ!」」
うぉっ!痛え……。ゴンッと言う金属が硬い物と強く当たった音と共に俺の頭部に激痛が走り、俺は一瞬固まる。考え事をしていたら上から金だらいの様な物が降ってきた。コントかよ……。
そして、どうやって心の乱れを感知したんだ……?これは何処からか監視されている気がして来た。やっぱり何かトラップが仕掛けられている様だ。
「本当に罰があるのか……」
「っ!?痛え……」
俺が雑念を心に浮かべる度に上空から金ダライが降ってきて俺の頭皮にダメージを与え、俺は涙目になりながらもう一度不貞腐れた表情で考える。やっぱり、このトレーニングに意味があるのかどうかは良く分からないが俺と山西の精神修行の日々が始まったのであった。これはある意味苦痛だ。
ーー添島side
俺はジジイに知識を取り入れろと言われ、とある部屋に連れて来られた。そこはまるで巨大な図書館の様な場所だった。
こんなに大きな図書館は日本でもあまり見ないレベルだ。俺はこう見えて本は嫌いでは無かった。昔良く妹に本を読み聞かせていたからなぁ……。
ああ、家族は元気か……とか思いつつこの図書館に俺は純粋にかなり感動していた。本は綺麗に棚に整列されており、床には絨毯?いや、これは羊皮紙に似たような物か?何かの皮で作られた柔らかな素材の敷物の上には魔法陣が描かれており、いかにも図書館っぽい。その絨毯も巨大で端っこがどこにあるのか分からない程大きい。
俺が図書館に感動し、キョロキョロと周囲を見渡していると、いつの間にか俺の後ろに立っていたジジイがトレーニングの内容を告げた。
果たしてどんな内容なのか気になる所だ。
「うむ、それでじゃ添島、お主にやってもらおうと思っているトレーニングはそこに本が沢山あるじゃろ?」
ああ、沢山のレベルじゃねえな。
「その中から一定時間毎に特殊な問題を解いてもらう。それでじゃ、その特殊な問題を解けなくては配給のグレードが下がると言うルールじゃ」
ジジイは指をくるくると回しながら俺をおちょくる様に部屋の解説をするが、その内容は理に叶っていた為俺は文句を言わずにジジイの話を大人しく聞く。
成る程……飯とか生活環境とかはジジイが支給してくれるのか……それでトレーニングの打ち込み度や成果によってその質が変わると……。
これは適当には出来ないな……。まぁ、先程も言ったが本を読むのは嫌いでは無いし問題は無いか……。
と思っていると、ジジイが急に何かを思い出した顔で笑い、言った。なんだ?
「おお、!そう言えばあの二人には配給のグレードの話をするのを忘れとったわい!」
それ、笑い事で済むのか?結構重要な事……寧ろ趣旨と言っても過言じゃないと思うんだけどな。まぁ、あいつらなら良いか。あのバカでも流石に途中で気付くだろ……多分な……。まぁ、問題くらい解いてやるさ。
「任せとけ、どんな問題でも解いてやるよ」
「フフフ、良い意気込みじゃ、精々頑張るのじゃぞ」
ジジイがニヤケながら話しドアを閉めた。なんだ……?あの笑いは……まぁ、良いか、取り敢えず本読んで暗記してから問題を解くか……て……お、おいマジかよ……。俺は多少の事なら何とかなるとは思っていた為先程は粋がったが、これは想定外だ。
「は?なんだこれ?」
明らかに何かがおかしい事に気付いた。これは、厳しい戦いになりそうだな……。
ーー亜蓮side
あのジジイに身体を見られただけで陸上競技をしていた事を即座に見抜かれた俺はジジイに呼ばれ、とある部屋に連れて来られていた。部屋にはゲームセンターに良くある様なボールを射出する謎の機械が部屋にポツリと置かれており、その機械には無数の穴が空いていた。俺はゲームは得意分野の為それを見て少しテンションが上がる。
しかし、何だろうな、このジジイに俺の本質が見抜かれたのは何かが悔しい。もしも、この様な監督に出会えていたらとか考えてしまう。
だが、過去の事は過去の事だ今はこのジジイに稽古をつけてもらえると期待して部屋の入り口付近でジジイを見た。そして、ジジイがトレーニングの内容を告げた。
「お主には次々と飛んでくるボールを避けてもらったり。当たっても安全なトラップを避けてもらおうと思う」
成る程、かなり実戦的なタイプのトレーニングか……期待していた物とは違ったが、このジジイの言う事だ。きっと意味のあるものになるに違いない。
「まぁ、頑張ります」
「検討を祈るぞい」
ジジイは親指を上向きに立てながらドアを閉めた。まるでコーチの様だ。そして、正面からボールが飛んできた。
「お、避けれた」
意外と速度は遅く、避けるのは簡単だった。そう思った矢先。別の方向から飛んで来たボールを食らって吹き飛ばされた。 どうやらボールが飛んで来るのは正面に置いてある機械からのみでは無い様だ。要するに正面の機械はフェイクだ。一見してみると何も無いように思える壁にも仕掛けが施してあり、どこからボールが射出されるのか、事前に予測する必要がある。
「っ!?」
見た目以上に難しかった。思った以上にあのジジイはスパルタの様だ。
ーー重光side
重要な役割を頼むとさっきあのお爺さんに言われたんだけど、正直に言って心の準備が出来ていない。私はまずこの世界が不安なのに……どうすればいいのかも分からない……だから今はこのお爺さんの言う事を聞いた方が良いとは思っているの。
だから、私は一旦その役割を引き受けようと思った。でも即答は出来なかった。
少しあれから考えてたら、とある部屋にお爺さんに連れて来られていた。その部屋にはどこかから即席で持って来て部屋に配置した様に見える乱雑に白い机に置かれた大量の図鑑らしき本と一体の黒い猿?らしき生き物がいた。部屋全体は狭く目の前にいる猿?らしき生物と私との距離は非常に近い。距離にすると五メートルほどだ。猿の大きさはそれなりに大きくて、私よりも大きい。その事に若干、来押されながらもお爺さんはお構いなく私の方を向いて真剣な眼差しで頷いた。
そして、お爺さんがトレーニングの内容を告げた。
「この部屋ではお主に一通りこのモンスター辞典を読んでもらってこのスピードクリフと言う特別なモンスターの弱点を見定めてもらう。たったのそれだけじゃ」
それって危なくないのかしら……いや眺めてると案外可愛いかも知れないわね。だけど、弱点を見つけるってどう言う事かしら?やってみなくちゃ分かんないわね……。
「はい。やってみます」
「不安か?安心せいお主なら出来るはずじゃ」
お爺さんは微笑みながらドアを閉めた。
辞典を読んで分かった事はこのトレーニングの趣旨は弱点を実戦で見つけると言う事だった。
辞典には弱点は書いてなかったのだ。生態や特徴などが主に辞典には書いてあった。
そして、スピードクリフと言われたモンスターを見てみると残像が出るくらいの速度で動いている。しかも、休憩する素振りも見せない。最初はこれ程の大きさの生物がこの距離で動くのだから姿位は視認出来ると思っていた。でも、そんなにトレーニングは甘くなかった。
スピードクリフと言われた黒い猿は、地球に存在している猿とは違って体毛が殆ど生えていない。まるで生き物では無い様な感じだった。弱点なんてあるのだろうか?そう思わせる様な感じだった。
だけどあのお爺さんの言葉を思い出して頑張ろうと思った。
「私、諦めないんだから」
重光とスピードクリフとの戦いが始まった。
ーーその日の夜
安元はジジイのよく分からないトレーニングに早くも嫌気がさして、拠点の外をぶらぶらと歩いていた。
あーあ、こんな事してて本当に大丈夫なのかよ……こっそり抜け出して迷宮に行ってみるか……。
まぁ今の俺でも何とかなる筈だ。こんなトレーニングになるかどうかも分からない事をする位なら実戦をこなした方が良いに決まっている。
俺は拠点を出てからしばらく歩くとモンスターがいそうな所に出た。
「ここら辺にモンスターがいるかな……」
「グルルルル……」
「ん、?何だ?何かにぶつかっ……!?」
俺がモンスターがいそうな場所を歩いていると何か硬くて鋭い物にぶつかり俺は眉を顰める。そこから聞こえて来た声から何となく察してはいたものの俺は遅恐る顔を上げる。そこには鎧の様な青い鱗を全身に纏ったかなり大きな熊がいた。そして、その熊は襲いかかろうと腕を振り上げ、不快感を示す低い唸り声を上げる。
「うわぁぁぁぁあ!」
俺は叫び声をあげながらも恐怖で体が一切動かなかった。立ち上がると三メートルは有ろうかと言う巨体が目の前に見え俺は咄嗟に目を瞑っる。その時だった。
目の前でバシッと言う強くて鈍い音がした。そして、目を開けるとそこにはあのヒゲのジジイが片手で熊の腕を受け止めて笑いながら立っていた。
「ヒゲの爺さん……何で……?」
「それくらい、お見通しじゃよ」
後ろを振り向きながらジジイが言った……そして……。
「フン!」
ジジイが指に力を入れて熊の腕を粉砕した。そしてそのままの勢いで軽く腕を振り抜くと凄まじい威力の衝撃波が起こり熊の半身は粉砕した。それによって体の半分を失った熊は生命を保つ事が出来ずその場に倒れる。
「お主もこれで、分かったじゃろう……?」
俺は何も言えなかった。言える訳が無かった。このジジイには逆らえない。一旦このジジイの方針に従った方が良さそうだ。
相当ショッキングな光景を見ている筈なのにそれ以上の衝撃を俺は受ける。
「今のお主ではこの迷宮に入る事すら叶わんぞ」
「分かりました。トレーニングを続けます」
そして、いつかはこのジジイに認めてもらえる位強くなりたいと思った。
ーー次の日の朝
「おーい!お主らいつまで寝ているんじゃ!起きるのじゃ!」
恐らく早朝。ジジイのやかましい声が拡声された事によって巻き起こった物凄い爆音といきなりのトレーニングの罰である金だらい等に俺達は起こされる。
そしていつもの様にトレーニングを開始して直ぐに山西が不思議そうな顔をして俺の方を見て話す。
「安元?昨日何かあったの?」
山西は俺の変化に気付いたようだが、昨日と比べて俺の身体の変化は些細な変化でしか無い。昨日の事件で俺の身体に起こった影響と言えば寝不足で少し気だる位くらいである。
「いや、特に何も……?」
「「痛っ!」」
お互いの精神統一が乱れた事により、ジジイからお仕置きのタライが降ってくる。そう言えばそうだったな。こんな感じで今日もトレーニングが始まった。
ーー一週間後
「ほう……物凄い集中力じゃ。これならきっと……いけるかもしれんな……」
安元の部屋に向かったジジイは驚いた。安元と山西は何かに目覚めたかの様に集中し切っていた。
安元達の集中力に比例して何か地球では無かった力が働き、周りの塵などが共鳴して動く程に安元達は集中していた。次に、ジジイは添島の部屋へと向かった。そこでもジジイは驚かされる。添島はあの短期間で戦闘陣形、スキル等を殆ど網羅しており、戦術系の書籍を読み終え、既に普通の読書を楽しんでいた。
そして、その次に亜蓮の所に向かった。亜蓮は四方八方から飛んで来るボールを見ずに避けられる程に危機管理能力が向上し、例えボールに触れそうになったとしてもボールを弾く事が出来るようになっていた。これは一瞬間前の二方向から来るボールですらまともに食らってしまっていた亜蓮と比べると大きな変化であり、ジジイは目を見開いてこっそりと亜蓮を邪魔しない様に部屋の扉を閉めた。
「ほう、中々の速さと機動力じゃ。もしかしたら、こやつらの潜在能力はワシをも超えているかも知れんのう……勿体無い……時間があれば……」
ジジイが小声で呟いた。そして儚げな顔をした後にイヤイヤという感じで首を振り重光の所へと向かった。
すると重光はスピードクリフを手なづけて、スピードクリフの頭を撫でながら図鑑をスピードクリフに見せていた。スピードクリフは惚けた顔をしつつも重光にそれなりに懐いている様で、重光に頬を擦寄らせる。それにも驚いたジジイはもう迷宮に挑戦させても良いかと考えた。そして全員に集合指示を出す。
「お主らに重要な報告があるぞい。広場に全員集合してくれ」
唐突に広場に集められた為事情がよく分かっていない俺は隣にいる亜蓮に尋ねる。
「何だろうな……?」
「さぁ……」
亜蓮は空返事で流し、重光が期待を少し込めた顔で俺に問いかける。
「迷宮から脱出する方法がみつかったとかかな……?」
重光の問いに対して俺はその線を考えてみるが、どうもその線は薄そうだ。もし脱出する方法がこの短期間で見つかったのならば今までジジイは何してたんだよ!ってなるし。
「残念ながらそうでは無いのじゃ」
「「うわ!いたの!」」
唐突にジジイの低く嗄れた声が俺の背後から響き、急にジジイが出てきた。ビックリするじゃねぇか……。
「さっきからずっと広場に居たのじゃが……。ワシって影薄いかのう……?」
少しジジイが落ち込みながら答えた。本当に気づかなかった。だが後半の方は否定したい。影はどちらかと言うと濃いと思う。
「まぁ、お主らを広場に集めた訳なんじゃが……もう迷宮に挑戦しても良いと思うぞい」
「「え……」」
少し理解に時間がかかった。本当に一瞬の間だが、
「しかし、別のトレーニングは続けてもらうぞい」
「「おおー!やったー!!!」」
ジジイが言葉を続けるよりも先にみんなから歓声が上がる。やっとだ。やっと迷宮に行けるんだ!どちらかと言えばつまらないトレーニングから解放されると言う喜びの方が大きいのだが、それも変わらない感情だろう。
「これでやっと迷宮に挑戦出来るんだな?」
「うむ、そうじゃ」
若干興奮して話す俺達の問いに対してゆっくりとジジイが頷く。
「行こう!本当の迷宮へ!」
俺の掛け声に合わせてみんなが手を重ね、円陣を組む。
「「おー!!!」」
この全員の掛け声と共に俺たちは初めて迷宮内部に踏み入る事を許可されたのだった。もっとも安元は無断で迷宮内部に立ち入っているのだが、安元も公にはこれが初めてである。
やっと休みが取れたので連載を少し再開します。