56話 休暇
「ん、、、」
「キュイイイ!」
「良かった!」
「な、何だ!?」
俺は目を覚ますや否や何故かアクアに顔を舐められ、山西に抱きつかれていた。そうか、確か俺は奴の体内で意識を失って、、、今俺がここにいると言う事は、、、倒したんだな。いくら勘の悪い俺でも流石に今回は状況を理解する。
「やれやれ、、、心配かけおって、、、」
ジジイが溜息をつく。まぁ、一件落着って奴だ、、、それよりもだ、、、
「おい、ジジイ。あのガスマスク、、、殆ど意味なかったじゃねぇか、、、」
添島が俺の気持ちを代弁するようにジジイに詰め寄る。あのぉ、それは良いんだが一応俺今起きたばっかりなんだから少しくらい心配して欲しいんだが、、、
「そ、それはの、、、道具に頼ってちゃお主達の為にならんと思ってじゃの、、、」
ジジイは早口でそう答えた。まぁジジイの事だ。作ろうと思えば普通に完全防護マスク位は作れるだろう。まさか、沼地階層に強力な悪臭ガスや毒霧ガスが漂っている事を忘れてた訳でも、、、無い、、、よな?多分。拠点に帰った俺達は体調を整える為にも一日休暇を貰う。それでだ。一日休暇を貰ったものの何をしようか悩む。迷宮内なので特に面白そうな事も無い。添島達はここ最近美味しい食べ物が食べれて無かったので草原階層や浜辺階層に行って食材探しに行くそうだ。俺も誘われたがそんな気分じゃ無いのでアクアとお留守番だ。添島は美味い飯取ってくるわ。とか言って転移していった。さてと俺と何をするか、、、
「キュイ?」
アクアは行かないの?と思っているようだ。
「いや、ちょっと試したい事があってな」
俺は試したい事があったのでジジイを呼びに行く。まぁ、その為に留守番をしたのだがな。そして、俺はトレーニングをする為の的なとが置いてある広場へとジジイと向かう。
「お主が自分から広場に向かうのは珍しいのう?ワシと手合わせでもしたくなったか?」
「いえ、遠慮しておきます」
俺はジジイと手合わせをしに来た訳では無い、、、というかしたくない。
「ジジイは治療役でお願いしたいんだけど、、、」
そう今回ジジイを呼んだのは俺が怪我した時の治療役だ。何たって新しい技を開発するわけだ。怪我もする可能性もあるだろう。
「分かったのじゃ」
ジジイは少しがっかりした様な声で言った。いや、どんだけ戦いたいんだよ、、、さぁて始めるか、、、
「属性付与火」
俺は火属性を自分の腕に付与する。だがいつもと違う点がある。それはいつもは腕の外部に湧き出す様なイメージでつけていたが今回は内部に込める様なイメージで付ける。そして、俺はゆっくりとマナを腕の内側に少しずつ慎重に込めていく。何故こんな事をしようと思い付いたかと言うと発端は泥沼での大爆発だった。あれも同じ様に泥の内部でガスなどが圧縮されて威力が増大したものだった。そして今まで俺の能力エンチャントは直接何かに触れるか媒介を通じて触れないと威力を発揮できなく、威力も瞬間的には出ない使いにくい能力だった。だから今まで直接外部に放出していたマナを内側で圧縮して撃てば実用性が上がるのでは無いかと考えたのだ。もしかしたら遠距離から敵を攻撃する事が出来るかもしれない。勿論今までも直接手のひらから火炎放射の様に火を吹かせる位の事は出来たが範囲は狭いし、距離による威力の減衰も激しくマナの消費効率も最悪、、、しかも瞬間的な火力は全然出ない為その様な事をする位なら手で直接敵に触れて発動させる方がマシで遠距離攻撃手段は無いに等しい。だが、新しい技を習得するのは簡単な事では無かった。俺が腕にマナをある程度注いだ所だった。腕が膨張し、中でプチプチと何かが弾ける音がする。そして、
(バン!)
「うわぁぁぁあ!」
俺の腕が爆発し、黒い煙をあげる。暴発したのだ。ジジイに回復魔法をかけて貰い再び練習を繰り返す。そしてかなりの時間が経過した時だった。俺は少しだけ感覚を覚え始めた。
(バン!)
「うがぁぁあ!」
相変わらず腕は爆発したものの手のひらから距離にして一メートルくらいだろうか?その範囲で爆発が起こる。実用性はまだ無いだろうが、少し成功したと言えるだろう。火以外でも試してみた結果似た様な事が出来なかったのが水だけだった。水は圧縮出来ないらしい。水圧を加えて威力を上げられないかとかはまだ練習中だ。そして、火が一番威力も出るけど、制御に失敗すると一番痛い。いやまだ制御にはどれも成功していないのだが、、、そして、時間はあっという間に過ぎ。添島達が帰って来た。
「美味いモン沢山取って来てやったぜ!ってお前ここで何してんだ?」
「いや、ちょっと秘技をね」
俺はカンフー風のポーズを取りながら答える。この技にはカンフーなどは関係ない。あくまで気分だ。
「まぁ、よく分からねぇが飯にしようぜ!安元も早く食えよ!全部食っちまうぜ!」
それはダメだ。早く行かねば!こうして俺達は久しぶりに美味い飯を堪能したのであった。
「あの、ずっと治療し続けたワシへのお礼は無いのかの、、、」
悲しそうに呟くジジイの声は誰にも届く事は無く、俺達は夜を明かしたのであった。