表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
22章 終焉
543/544

539話 終焉

「安元……」




 


  添島は揺れる迷宮の中、安元の勝利を願っていた。激しい揺れと共に時が止まった様な感覚に襲われ、迷宮は大きく傾いた。


「グルルル!?」


  その瞬間だった。アクアが、喉を悲しそうに鳴らした。


「何があった!」

「グルルルル!!!」


  その喉を鳴らす声は次第に何かを警戒する様な声に変わる。百一階層の中心には突然巨大な魔石が出現した。複雑な輝きを放つ巨大な魔石の中では炎が渦巻いており、近寄れば己が焼かれるのでは無いか?と言う熱を添島は感じた。それと同時にその炎から何か懐かしい物を感じてその魔石に添島はゆっくりと近づこうとした。


「やめておけ」


  そんな添島の背後から低い声が響く。


「レインか。お前がここに来たと言う事は管理者が倒されたって事か……?」


  添島はそう思いたいと言う気持ちでレインに尋ねる。だが、レインは静かに目を瞑って言った。


「そう思いたい。だが、そうであれば迷宮の崩壊が始まる筈だ。それが起こらないと言う事は新たな核が生まれたと言う事だ。 それに、先程の感覚……少し気になる点がある」


  レインは百一階層に突然誕生した核をじっと見つめてから背を返した。


「逃げよう。本当であれば核を壊したい所だが、我程度の力ではどうにも出来ない程の魔素をあの核からは感じる」

「逃げる……のか?最期に安元とーー」

「分かっているのだろう?あの核が安元だって事に」

「――」


  添島は引きつった笑いを浮かべたまま裏返った声で話す。添島は自らの頭からスッと血の気が引いていくのを感じた。核が安元である事位は何となく分かっていた。だけど、添島は最期に一言でも良いから安元と会話がしたかったのだ。例え、安元の意識が半分無くても。安元が死ぬと分かっていても。死ぬと分かっているからこそ話して起きたかったのだ。だから、安元が現れた瞬間添島は安堵の笑みを浮かべて安元の方へと走った。


「よせ!」


  核が現れた場所に安元……いや、炎の化け物……二代目迷宮管理者は姿を現した。レインは全形態に変化し、決死の表情でアクアを口に咥え、添島を尾で巻き取り、翼を羽ばたかせた。その瞬間レインの尾と添島を掴んだ後ろ脚が消し飛んだ。


「すまない。我は守れなかった」


  添島の身体は炎に包まれた。これが安元の最期の言葉であった。添島が何かを考える隙すら与えず、添島は焼き殺されたのだ。二代目管理者は独立した核では無かった。百一階層から動く事無い、ただの迷宮の核であった。だが、その核は動かないなりにも意思を持っていた。


  死の炎を撒き散らす核は永遠にその迷宮の最下層で眠り、解放を待っていた。







「彼らがやってくれたか。俺も死に場所が出来るか……」



  森階層。管理者の戦闘の余波でも破壊されていないそのエリアで一人の人物は佇んでいた。迷宮の大きな揺れを感じながら。その人物は階層の狭間を表す虹色の膜に触れて自分の腕がそれをすり抜ける事を確認した。エルキンドである。


「今の揺れは次元の戦争の時と全く同じ揺れだ。死ぬのは故郷の姿をもう一度見てからでも遅くは無いか」


  エルキンドは確信していた。隔離されていた迷宮がロークィンドと繋がったと言う事を。巨大な樹木のゴーレムを即座に形成したエルキンドはゴーレムの肩に飛び乗って階層を遡る。転移碑は使えなくなっていた為、上層の様子を確認するには自分の足で行くしか無かったのだ。


「確かこの迷宮があった場所は帝国首都付近……今は次元の戦争によって海に沈んでいる場所の筈……急がないとここもいずれ水没してしまうだろうな」


  エルキンドは急いだ。渓谷を越え、沼地を抜け、洞窟を潜った。そこで、目を潜めた。


「暑いな……。それに魔素の濃度が異常に高い」


  本来は冷涼な環境の筈の洞窟エリアや沼地エリア……そのエリアが暑いのだ。それに加えてエルキンドは非常に濃い魔素を更に上層から感じていた。


「次元を割るほどの攻撃がぶつかり合ったんだ。これはここから出られない可能性も考慮しておく必要がありそうだ」


  エルキンドはゴーレムを走らせた。エルキンドはそれなりに自分に自信があった。アンデッドとなった己の身でも七十階層位までは突破できる実力がある。だから、それなりに進めると。だが、現実は違った。


「何となく分かってはいたけど、俺の苦手が炎とはね……」


  エルキンドの視界に映ったのは完全に干上がって炎に包まれた浜辺エリアだった。管理者と二代目管理者との戦いの余波は下層の環境も変えていた。戦いが終わって尚、炎が燃え続ける様に。それがただの炎であったならば、エルキンドでも問題なかっただろう。だが、そこで燃えているのは濃縮されたマナを含んだ超高温の炎だ。


  元々土属性を操り、木などを操って戦うエルキンドにとって火は相性が悪く、尚更火を苦手とするアンデッドになった今の肉体ではその場所をエルキンドが通れる筈も無かった。


「参ったな」


  エルキンドは項垂れた。浮かび上がった小さな希望が断たれた様な気持ちで。




  それから数日が経った。


「我を使え」


  エルキンドだけでなくその場にはレイブンもいた。


  そこで口を開いたのはレインだった。尾と両脚を失った筈のレインの尾と両脚はアクアの懸命な治療により半分位再生していた。


「我の甲羅の中に入るが良い」


  レインの登場にエルキンドは思う所があったのか尋ねた。


「スパイル達はどうした?」

「奴はここに残るそうだ」

「そうか、アイツらしいな。と言う事はカオストロもか」

「ああ。そうだ」


  スパイルは砂漠エリアでモンスター達との共存を望んでいた。それ故にこの迷宮から離れる事は出来なかった。カオストロは研究の事以外は興味が無い。それを分かっているエルキンドは笑った。そして、隣にいる黒鴉に声を掛けた。


「レイブン……お前は……」

「処刑?しない。もうお前に罪は無い」

「そうか」


  レイブンは頰を少し赤く染めてそっぽを向いた。その様子にエルキンドは苦笑を浮かべ、レインの方を見る。エルキンドとしてはレインを直接見るのは初めてだった。前見た時とは見違える程強くなったアクアを眺め、次にレインを見る。


  レインから感じる半端では無いマナの量に流石のエルキンドも少し臆したのか、少し緊迫した空気を出してどこにも見当たらない甲羅を探し始めた。


「少し我の体力が回復するまで待ってはくれないか?そんなに急がなくても良いだろう」

「ああ、そうだな」


  ロークィンドの地形を知っている二人の表情が曇った。だが、圧倒的な戦闘力を持つレインの言葉に二人は頷くしか無かった。



 

 

 

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ