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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
22章 終焉
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535話 魂付与

「愉悦、憂鬱、憤怒、非情、悲壮、楽観、恋情、畏怖、信頼、驚嘆、拒絶……この娘は複雑な感情を持っている」


  管理者は十一の感情を読み上げた。プラスされた一個の感情は山西本人の物であった。安元は身体の中心から赤いオーラを迸らせて、息を荒らげる。


「意識が……っ!?」

「混濁としておるな」


  安元はふらふらと立ち上がるが、よろけて地面に倒れこんだ。その拍子に管理者は愉悦の表情に歪んだ山西の分体を葬った。


「数が増えた所で、一個体の強さは大した事無いな。纏めて一掃するのも悪くは無いか?」


  管理者は強大な魔素をチラつかせて安元達の感情を遊んだ。それに対して自分の意識を保つので精一杯の安元はその声など聞こえても居なかった。そして、自分の意識を制御出来ないと感じた安元は残った僅かな意識の中全力で叫んだ。


「アクア……添島と共に逃げろ!ここに居てはダメだ!」

「!!!」


  添島は歯を食いしばった。その安元の声は安元だけの声では無かった。安元の声と他の魂……イグニや、フローラ、エスカーチの声も全て合わさっていたから。それに安元が苦しそうな顔をしていたから。そして、今安元がやろうとしている事を理解していたから。だから、添島は言った。


「わかった」


  だが、その返事とは裏腹に添島の身体は逃げようとはしていなかった。心の中では安元の言いたい事を理解していた。それでも、自分が全く役に立たない。管理者の事を安元だけに任せて自分だけが生き残る。その事に対して添島は葛藤していた。添島は自分だけが生き残る位ならば、寧ろ死んだ方がマシだ。とも思った。だが、それは安元の意思に反する。添島は全く動けなかった。いや、動かなかったのだ。


「な、にを……し、ている!は、やく!!!」




魂付与ソウルエンチャントぉぉお!!!」

「やっとか?これだけ待ってやったのだ。それで大した事無かったら承知しないぞ?それだけのエネルギー……魂を輪廻させる事なく全てオレが食らえる。そんな時が来ようとは!」


  山西の分体を殆ど始末した管理者は覚醒した安元を見て狂気の笑みを浮かべた。


「オレはただの戦闘狂じゃねえ。流石のオレも魂のエネルギーまでは食らえねえ。だからアンデッドや、あのバカ勇者の様に余計な産物が産まれる。その余計な産物までをも食えたとしたならば?オレは更なる力を手に入れられる」

「お前が魂を崩壊させて、抽出してくれれば、オレはそれさえも食らえる。もしもその力が今の鎧を纏ったオレとまともに戦える程の力があるならば間違い無くオレは大きく強化され、オレの目標到達までの時は縮まるだろう」


「……そうか」


  安元は短く答えた。その声には抑揚など一切無い。最低限の答えだった。安元の身体は全身から迸る強大なマナによって覆われ、赤い霧がかかっている様にも見える。安元は意識を集中させていた。既に添島などを気にする余裕は無い。声を発する。言葉を考える余裕すら残っていなかった。


「来い!その力をオレにぶつけてみろーーっ!?」


  安元の目が赤く光った。その直後。管理者の腕に安元の拳が叩き込まれた。マナで直接殴る様な攻撃。それに管理者は目を見開く。


「速くて、強い攻撃……。これは、オレも呑気にしてられないな!」


  管理者は拳を振るった。それを安元はまともに食らって吹き飛び、地面にぶつかる。


「安元っ!!?」

「……大丈夫っ!」


  安元は立ち上がった。管理者と戦う安元の姿を見ていた添島の首元を誰かが掴んだ。


「何をする!?」

「グルルル!」


  アクアだ。添島はもがくが、骨の折れ、気円蓋オーラドーム使用後の弱体化した肉体ではアクアに抵抗できる訳がなかった。アクアは添島を引きずりながら転移碑まで飛び、百一階層へと退避した。


「……あり……がとう……」


  安元はポツリと呟いて再び管理者の方へと走る。


「邪魔な奴を退避させたか?良い判断だ。ただお前……上手くその能力をコントロール出来ていないな?動きが単調だ。だが、オレの拳を受けて、大したダメージを食らっていない事は評価してやろう」


  管理者は様子見で放ったとは言え自分の一撃を生身で食らって安元が大した傷を受けていない事を確認して愉快そうに笑った。それで管理者は確信したのだ。今こいつを吸収すれば、自分は遥か高みに到達する事が出来ると。


  安元は地面から突き出る槍に対して走りながら蹴りを放つ。安元の足からマナを濃縮した赤い鞭の様な物が現れ、それが地面を薙ぎ払う。管理者の形成した槍はへし折れ砕ける。あの闇智達ですら破壊出来なかった槍をだ。


「そうか!これならばどうだ?叫び(シャウト)!」


  管理者は尚武を一撃で瀕死に追いやった攻撃を放つ。一直線に進む強烈な衝撃波が安元を襲う。安元はそれを回避しなかった。いや、回避する事が出来なかった。だが、安元の周囲に迸る強大なマナが安元を守る様に球体状に変形する。地面を抉るような強烈な衝撃波の中、安元の身体の赤い光は外からも可視出来るほどに輝いていた。管理者も勿論それを見ていた。


  だから管理者はマナを濃縮した黒い球を周囲に浮かべて安元を追撃した。安元は魂付与ソウルエンチャントを発動しても管理者に殆ど近づけなかった。それは安元を自分に近づかせたくない管理者も同じだった。

 


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