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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
22章 終焉
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534話 十面相

「い……や……だ」

「っ!?安元!」


  俺はまだ完全に力を扱えていなかった。いや、準備が出来ていなかった。そう易々と覚悟なんて決められるものでは無かった。仲間が死んだ無念。悲しみ。敵討ち。本来であれば俺は決して小さくは無い悲しみと憤怒の感情に溢れていただろう。だが、それを打ち砕いて悲しみと恐怖が勝る程、管理者は圧倒的な力を誇示したのだ。


「まだ完全に力を出し切れていないか?それともそれが限界か?オレを止めたければ力尽くで止めてみろ。この程度じゃないんだろ?でなければ興冷めだ」


  管理者は山西の方を向いた。俺の心臓の鼓動が激しく脈を撃った。俺のマナが揺らぐ。俺の身体の中心から外周に向かってマナが迸るが、それは再び体内へと循環する。死への恐怖と葛藤。それが俺を真の力に目覚めさせようとしない。寧ろ、無駄に抵抗して死ぬよりも亜蓮みたいに痛みも恐怖も殆ど感じない様に死んでしまいとも思ってしまった。


  ダメだ!


「あ〝あ〝あ〝!」


  動け!俺の身体!


  何をやっているんだ。


  魂付与ソウルエンチャントよ。発動してれ!


  俺は強く思った。だが、魂付与ソウルエンチャントは発動しない。あと少しなのに!


  俺がこうやっている間にも管理者は微笑を浮かべてゆっくりと山西に対して距離を詰める。仲間の死へのカウントダウン。それが始まった。


「早く力を出さなければ、お前の仲間は死ぬーー」

水龍刺突ドラゴンスタブ……」


  管理者の背後から龍の形を取った水流が襲う。


「まだ生きていたか?完全に忘れていたぞ」


  管理者は片手で水龍を蒸発させ、地面に這い蹲った状態で水龍を放った闇智を見た。そして、闇智に近付き、闇智の頭すら支える力も残ってないと言う程に軟弱した首を指で撫で、そのまま押し潰した。


  闇智は何も言わなかった。いや、言えなかった。首と頭部が離れ、闇智の首元から大量の血が滲み出る。闇智は放っておいても死んでいただろう。だが、管理者はそれを殺した。俺達に見せつけるようにして。添島は拳を構えた。


  だが、動けない。先程、管理者に指で弾き飛ばされた。たったそれだけで添島は大きな傷を負っていた。出血は酷くないものの体内の損傷や打撲、骨折が酷く、歩くのがやっと。そんなレベルだ。そんな状態で勝てると思う程管理者は弱くない。いや、元から万全でも勝つ可能性はゼロに等しい……違う。ゼロだ。


「お前なんか!死んでしまえ!」


  俺の中で何かが吹っ切れた。俺は走った。管理者に向かって。だが、その走る速度はマナを失っている分もあっていつも以上に遅い。速度が出ない。


「タイムリミットだ」






「――」


  山西が俺の方を振り向いた。


  そして、笑って口を動かした。声は出なかった。いや、声を出す前に頭が胴体と離れた。だが、俺には山西の口がこう動いた様に見えた。




 〝ありがとう〝





  と。


「う〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝あ〝!!!!!」


  俺はその場で泣き崩れた。様々な記憶が俺の中で反芻され、俺は何が何だか分からなくなった。顔を真っ赤にして大粒の涙を流す。ひたすら泣いた。その様子を管理者は笑って待っていた。残った三人に手を加える事も無く。




「飽きたな」


  俺が泣き始めてしばらく経った頃、管理者はつまらなそうな表情でポツリと呟いた。安元はこの時地面に倒れ込んだまま動かなかった。まるで心の中が空洞になった置物の様にただその場で呆然と地面にへたり込んでいた。


「フハハハ!己を無力だとは思わんか?全てはオレの手の上で踊っていたに過ぎんのだ」


 管理者は突然笑った。ドスの効いた低い声が響く。


「やはりダメか。そうか。それではそろそろ終焉としよう」


  管理者の目は真面目だった。管理者の笑っていた目は冷酷に染まる。


「状況は理解したか? まぁ理解した所で意味は無いのだがな……さぁ! オレの糧となれ!」


  安元達は既に状況を理解している。そんな事は管理者も分かっていた。だが、管理者は態と煽ったのだ。もう一度この状況を深く安元達の心に刻み付ける為に。


 管理者が拳を構えた。その瞬間、俺は死を悟った。


「ゔぁ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝!!!!」


  だからこそ、自分の生に対する未練は殆ど無くなっていた。だが、それは完全な俺の意思では無い。山西が倒れた事で俺の意識は朦朧としており、正気では無かった。半ば朦朧とした意識の中、死を本能的に悟り、防衛本能としてスキルを発動させたのだ。それを勇者達の魂が込められた遺品は補助した。


「ン?」


  管理者は眉をひそめる。


  このスキル発動も俺だけの力では不可能だ。それに、今回のスキル発動も彼女の手助けが無かったら間違い無く出来ていなかっただろう。


  管理者の拳の前には先程首を刎ねられて死んだ筈の山西の姿があった。いや、違う。山西達の姿があった。一人の地面に倒れた山西と九人の虚ろな目をした山西だ。管理者はそれを怪訝な目で見つめた。


「死を偽装したか?面白いスキルだ」

「……」


  山西は答えない。答える筈が無かった。山西は既に死んでいるのだから。潜在覚醒レイテントアラウザル。これの行き着く先は自分の中に秘めていた自分が自分本体すらを凌駕し、乗っ取る。山西の中の十人の顔。十面相が姿を現した。


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