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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
22章 終焉
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532話 発狂

「……一体どうなっているんだ?」


  俺達は茨燕の眷属が弱まった事により拠点への転移を決意した。それで転移したらこの惨状だった。そこにあった拠点は跡形も無く無くなっている。いや、原型はないもののガラクタの様なモノが散乱している。周囲に漂う強烈な腐乱臭に俺は思わず噎び、口を覆った。腐乱臭だけでは無い。周囲に漂っている血生臭い匂いもだ。


「何故戻ってキタァ!」


  神宮が叫び。俺達はハッとして周囲を見渡す。神宮の身体は血だらけ。闇智も全身ボロボロ。とても戦える状況では無かった。そして、俺達の目の前で帝武は管理者に殺される。身体を握られ、拘束された状態で頭に炎熱を浴びて。


  この時帝武は液状化になって逃げる事は出来なかった。液状化する前に管理者が炎を放ったからだ。


  目の前でぼとりと落ちた帝武の身体を見て俺の理性は崩壊する。俺がより一層〝死〝への恐怖を練り上げ、連想した瞬間だった。管理者が何かを言っている。だが、何を言っているのか分からない。脳が現実から乖離する様に情報を塞いでいた。


  俺達にとって圧倒的な戦闘力を持つ闇智達やジジイが負けた。その紛れも無い事実に俺は動けなくなっていた。こんな化け物に勝てる訳が無い。それは俺が例外な訳では無い。添島、亜蓮、山西、重光も同じだった。寧ろここで威嚇行動を取れたアクアは例外と言っても良いだろう。


「――?」


  管理者は微笑を浮かべた。


「決めた。お前が最初だ」

指向性除ディレクショナル・リム――!?」


  管理者は亜蓮を見つめた。その刹那。亜蓮は正気を取り戻した。恐怖の感情よりも先に亜蓮は身体が動いていた。だが、その動きはいつもの全て計算尽くされた亜蓮の動きでは無く、咄嗟に技を発動した亜蓮の動きだった。


「ん?これは不思議な感覚だ」


  亜蓮の身体を掴んだ管理者の腕は滑る様にして横に移動する。亜蓮のスキルの効果だ。だが、横にブレたと錯覚した直後の事だ。管理者の腕が再び亜蓮を包んだのは。


「――!」


  そして、亜蓮は管理者の腕の中でもがいていた。鎧が砕け、骨が軋む音が聞こえ、管理者の手の中からは大量の血が滴り落ちる。


「あと四人と一匹」

  管理者はにやりと笑って手を離した。

「あ〝あ〝あ〝あ〝ぁ!!!」


  管理者の手の中から肉片と変わった亜蓮を見た事で俺達は正気を取り戻した。正気を取り戻したと言うよりかは、状況を理解したと言った方が正しいだろう。亜蓮は一言も喋らなかった真っ赤に染まり、変形した肉体は黙りこくって地面に横たわっている。


  亜蓮が幸せだったのは状況を完全に理解し、恐怖を感じる前に死んだと言う事だろうか。添島は走った。叫びながら大剣を構えて。


気円蓋オーラドーム!」


  最初から手を抜く気など無い。全力だ。殺される。俺の頭の中で添島が殺される映像が流れた。そして、俺が殺される映像も。


「残りは四人じゃと!残りはーー」

「老いぼれは黙っていな」


  添島が殺されると思われた矢先神宮がふらふらと立ち上がる。だが、その瞬間管理者の拳がジジイの頭に叩き込まれた。完全に息の根を止めた。それは間違い無かった。管理者の昆布を受けた神宮はそこから喋る事は無く地面に横たわっていた。そんな中でもジジイは冗談だと言わんばかりに起き上がってくれそうな気がしていた。だが、そんな事は起こらなかった。


  俺達を更なる絶望が襲う。


  俺は覚束ない足取りで肉片に変わった亜蓮の側に近寄る。重光の方を見る。無理だろう。だけど、無理と言って欲しく無かった。俺はまだこの現実を信じ切れていなかった。


  重光は足を激しく震わせ、地面にへたり込んで顔を伏せ、泣いている。それには一切の戦意は感じられない。山西もだ。山西は唖然としたまま動かない。頰を涙がツーと伝った。声なき嗚咽。それは辺りを包んだ。


  死の恐怖。分かっていたつもりだった。だが、全然分かっていない。俺は常にこんな感情だったーー死の覚悟なんて出来る訳無いのだ。


  管理者に向かっていった添島は直ぐに殺されるだろう。そして、その次は俺達だ。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 




  死にたくない。死にたくない。死にたくない。俺は己の運命を恨んだ。自分が仲間達を誘わなかったら、こんな事にはならなかったんだ。自分一人で扉を開けていればこんな事にはならなかったんだって。俺はいつも人を巻き込む。サイテーな奴だ。


  添島の大剣は中程から真っ二つに折れた。管理者が軽く指で大剣の刃を摘んだだけで。もう終わりだ。俺は地面にへたり込んだ。


「お前は中々筋が良いな。死が怖く無いのか?」

「怖いさ。今でも思い出すさ。だが、死の恐怖や親しい者を失う事に対して怯えるだけじゃ現状は何も変わらない!」

「お前。過去に経験があるな?」

「――」


  添島は何も喋らなかった。ただ涙を流しながら無心で剣を振るった。添島は昔両親を失っている。交通事故で。祖父母の支援を受けながらバイトでお金を稼ぐ。残された身近な家族は妹位だった。その添島の言葉に俺は立ち上がろうとするが、全くと言って良い程身体が動かない。


  何故彼は動けるのだろう。逆にそう思ってしまう程に。


「良し。お前と俺に敵意を向けたあの子龍は後回しにしてやろう」


  管理者は添島の腕を軽く払うと、指で添島の身体を突き飛ばした。その一撃で鎧が砕け、添島は遠くへと吹き飛ぶ。俺の心臓の鼓動が更に早くなった。本来考えてはいけない事。俺じゃない人が良い。黄金に輝く管理者の瞳を見た俺はそう思ってしまった。だが、亜蓮を失った時の事を思い出して俺は胸が苦しくなり、視界が回る。視界がぼやけ、世界が回り、胃が激しく上下する。


「う〝あ〝あ〝あ〝あ〝ぁ〝!?」


  俺は立ち上がった。顔を真っ赤にし、顔をぐしゃぐしゃにしながら激しく声を震わせて。


「ほう?」


  そんな俺を見た管理者は眉をぴくりと動かし感心する素振りを見せた。


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