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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
22章 終焉
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520話 異次元の様子見

 管理者の言葉と同時に闇智達とジジイは目にも止まらぬ速度で動き始めた。矢をつがえた眷族達はジジイ達を援護する様に管理者の目目めがけて矢を放った。全ての矢が白銀のレインの硬い体毛で出来ており、その矢一本一本はまともに当たれば俺達を一撃で殺す程の威力を誇る。


  だが、その飛んでくる白銀の矢を見た管理者は口の端を釣り上げて避ける事無く突っ立っていた。その矢が管理者に突き刺さるよりも先にジジイの拳が管理者の頭を穿つ。


衝撃砲インパクトキャノン

「ぬぅ!?やはりお前の攻撃は痛いな」


  ジジイの拳から放たれた強烈な衝撃波に管理者は前につんのめる様にして片膝を付いた ジジイが放った拳から衝撃波が広がり空気を揺らす。その振動は百メートル以上離れている俺達にも直に伝わった。空気を伝わった衝撃波は耳を劈き体の平衡感覚を奪う。ジジイの拳を食らった管理者は脳が揺れた影響で身体をよろめかせて片膝を地面に付けてはいたものの、そのまま頭を振るい、ジジイを吹き飛ばす。速い!そして、強い!


「何が蹂躙じゃ!最初から本気で来る気が無いならそんな言葉を使うな!」


  管理者の角を掴んだまま上空を大砲の弾丸の様に吹き飛ぶジジイは怒りの声をあげながら要塞の壁を掴み、軽く受け身を取って再び大地を駆けた。


「痛えなぁ!」


  ジジイの影から飛んで来た矢を片手で吹き飛ばしながら管理者は頰を抑え地上から向かって来ている眷族達を殴りつけた。管理者の背後の崩壊した迷宮の壁は魔素を吸って再生し、迷宮の床が軋み抜けるがそれも直ぐに再生する。腕を軽く振るうだけで地上には立っていられない程の突風が吹き荒れ、要塞の壁が一部剥がれた。


「お前も前より腕を上げたか?」

「答える義務など無い」


  後方から闇智が放った槍を軽く摘んだ管理者はそのまま闇智の槍をへし折り、頭突きをかます。俺達であれば、即死していたと思われる一撃。それを闇智はまともに食らい、迷宮の壁を広範囲にわたって砕く。


「ぬっ!」


  闇智が攻撃を受けたのとほぼ同時だった。管理者の頭部が強烈なマナに覆われて爆発したのは。マナの被膜がある影響で周囲に被害は及んでいないものの、込められたマナの量は重光の最大火力の魔法数十発分にも及ぶ。


「化け物め。俺達は生憎スロースターターなんだ。まだ本調子じゃない」

「リーダー大丈夫?いつも以上に動けてない」

「そろそろウチも行かせて貰うっスね」


  突然要塞の上でタンクトップを脱ぎ捨て、半裸になった帝武は捕食者の様に目をギラギラと輝かせながら背中から巨大な翼を生やし、上空に飛び立つ。露わになった胸部は胴体に生えてきた鱗の様な物に覆われて隠された。

 地面に落下した闇智は超魔と帝武の言葉を聞き流しながら口元の血を拭い、笑う。微かに浮かぶその狂気の表情はやはりぎこちなかった。だが、あの威力の攻撃を食らっても闇智には殆ど効いていない様にも見える。


  俺達も戦闘に加わらないと。そう思っていたのだが、ジジイ達の圧倒的な戦闘を見せられて俺達は悟る。俺達が出る幕では無いと。今俺達が出た所で足手纏いになる事位安易に予想出来ていた。


「フハハ。やはり注意すべきはお前か?」

「ワシみたいな老いぼれは無視して結構じゃ」


  爆発して巻き起こった黒煙を利用し、蹴りを放ったジジイは自分の攻撃が受け止められた事を知り、両手を合わせて周囲に衝撃の波を作って黒煙を消しとばしながら管理者の中枢に直接ダメージを与えた。だが、管理者はジジイの足を掴んだままジジイを投げとばそうとして、自分が掴んでいた物が茨燕が作り出していた眷族だった事を知り、面白そうに笑った。


「ほぉ、眷属を纏わせて転移させたか?」

「あら、お気付きで?その大きな図体の割に小さな頭では考えられないと思ってましたわ?」

 茨燕の言葉に微笑を含めて返そうとした管理者。

遠吠え(ハウリング)

 その返そうとした言葉を遮る様に聞こえた獣の声とも取れる遠吠え。

「笑止。またまた何をーー」


 それに気が付いた管理者は後方へと跳んだ。


「――やはり無理じゃったか」

 管理者が先程までいた場所の迷宮の壁が粗方消失し、抉り取られる。そこの背後では黒い眷属に包まれたジジイの姿があった。


「当たり前よ。そんな稚拙な攻撃に当たる訳無かろう?例え当たったとしてもどうとでも無いが迷宮の壁と床を破壊するのをやめて欲しい物よ。迷宮を形成するのにもマナが必要なのだから」

「よく言うわい。ここの階層の迷宮の壁を形成する位お主であれば造作も無い癖に」

 ジジイは大地を蹴った。


  管理者の頭部すれすれを帝武が腕を変形させて作り出した獣の爪が通り過ぎ、帝武は再び吼える。活気のある美少女の顔は今や狼の様に毛むくじゃらに変化しており、とても可愛いとは言えなかった。彼女が吼える度俺達全員の身体を何か温かい物が包み、身体が軽くなる。バフだ。当然その効果の恩恵を受けるのは俺達だけでは無い。戦場にいる全ての眷属兵士達とジジイ全てだ。圧倒的な身体バフ。山西の単体短時間強化とは格が違う。


「済まないざリーダー。下僕ザーブはまだ未熟故にこいつ相手では盾役が務まらないざ」


 尚武の盾は未だに傷付かない。尚武の防御か固いのか?いや違う。本人が邪魔にならない様に立ち回っているのだ。尚武の本質はその圧倒的な耐久力にある。どんな攻撃も確実に受け流せる防御力だ。だが、流石の尚武も管理者相手だと分が悪い。ジジイの邪魔をする訳にもいかない。闇智達の中でも尚武の身体能力は高い方だ。いや、高い方と言うよりかは最高峰の身体能力を誇る。だが、そのステータスは防御寄りだ。その為ジジイでもまともなダメージを与えられない管理者に攻撃するだけ無駄だと考えたのだろう。


「気にするな。俺が傷付くその時。お前は真の力を見せる」

「主が傷付くその時。下僕ザーブは真の力を手に入れる」


  闇智はどこからか新しい武器を取り出して笑みを浮かべ、それに呼応する様に尚武も武器を上空で回す。二人は武器の柄で大地を叩いて音を奏でた。



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