512話 殲滅の咆哮
「山西!まだあのスキルを使うな!多分いつかチャンスは来る!全身内部圧縮属性付与 不死鳥」
刀の柄を握った俺は薙ぎ払うレインの尾を避け、その裏からレインを狙う添島を確認しながら炎を下に噴出させて高速で上空に飛び上がり、レインの身体が自分の間合いに入ったところで二本の刀を交互に引き抜き、先程添島が傷を付けた場所を攻撃しようとした。だが、当然レインはそこを狙われたくは無かったのか、身体を揺らし俺の刀は別の傷が無い場所に新たな二本の傷を作る。
「っ!」
「脆い刀だ。それは神宮が鍛えた物だろう?業物であるのだろうが、何にせよ素材が悪い」
だが、それと同時に俺の刀の破片が宙に舞い。俺の視線の先には刃が欠け、ノコギリ状になった二本の刀が目に入った。色欲之王の素材で作った刀がこんなに簡単に欠ける。それもジジイが鍛えた業物の刀が……!?その事実に俺は動揺を隠せなかった。パラパラと宙に舞ったレインの硬質な体毛の表面はヤスリの様な小さな突起物が生えており、攻撃した者の肉体を削ぎ落とす様な構造をしていた。
この様子だと当然添島の大剣も刃が欠けてるだろうな。あいつの場合は切り裂くと言うよりかは叩き斬るに近いスタンスだから斬れ味は殆ど関係無いのだろうが、俺の場合は切り裂くのスタンスたから大問題だ。俺は欠けた刀を素早くレインの傷口に向かって投擲し、炎をレインの身体に浴びせながらその場を離れた。レインに向かって飛んで行った刀は案の定レインの身体に突き刺さる事は無く、レインの身体に弾かれて切っ尖にヒビを入れて地面に落ちた。
その時の俺の視線はレインの脚に攻撃を弾かれて苦渋の表情を浮かべる添島よりも遥か上空に飛翔して追加統合魔法の準備を既に始めている重光の方へと向いた。
今になって何故この階層だけボス戦が連戦なのか分かった気がする。ボスの連戦はこの階層の攻略を厳しくさせていた訳では無い。寧ろその逆だ。再生泥人形に余裕で勝てない様ではレインには勝てない。それにこのレインの耐久力は再生泥人形を一撃で葬る様な攻撃……それこそ重光の追加統合魔法位の攻撃が出来ないと突破は出来ないだろう。
要するに再生泥人形を突破できる最低限の戦闘能力がレインに有効打を与えられる最低条件だったんだ。再生泥人形を倒せない奴はレインに挑戦する資格すら無い。その事実は明らかだ。
ただ重光の魔法を放つまでは良いとしても、重光の魔法をこの距離で食らってしまえば俺達も即死だ。それを防ぐ方法は今の所二つしか無い。俺がみんなを遠くに転移させる方法と亜蓮が魔法が爆発した瞬間に指向性除去と影領域を使って攻撃を逃す方法だ。
前者は俺が座標印を設置していない時点で不可能だし、後者は亜蓮のマナを大きく削ぐ。レインとの戦闘が今始まったばかりの事を考えるとまだ使うべきでは無い。だから今の重光の魔法はあくまで牽制だ。今の所撃つ気は無い。
「ほう。炎を纏い、火力と速度を上げたか?そして、上空から漂って来る強大なマナ。何か企んでいるな?良いだろう。大技を放つと言うならば我も受けてやろう」
何度も俺達の攻撃を食らってもビクともしないレインに対して苛々し始めた添島が今にも気円蓋を使いそうな雰囲気を放っているが俺はそれを制して全身の炎を滾らせて再びレインの方に向かって走る。先程俺の炎の噴射を受けてもビクともしなかった身体だ。もう一回行っても多少マナを込めただけでは無駄なのは分かっている。だが、俺は立ち止まる訳にはいかない。
上空に浮かぶ巨大な火球に気が付いたレインは自身の長い髭を鼻息で撫で、笑った。俺はその姿に危機感を覚える。重光の追加統合魔法でも牽制にすらならないのか!?そんな思いが俺の中に巡るが、その直後にレインが取った行動からその牽制になると思っていた考えは間違っていなかったと俺は気付かされる。笑うレインの頭と頸部、胸部は徐々に肥大化し、全身の半分程を覆う大きさまで肥大化した。その姿はまさに奇形。二頭身の姿になったレインは今までよりも更に低い声で唸る。
「強大な魔法と我の吐息どちらが強いか、その勝負しかと見届けるが良い!」
今までに無いほどレインの中のマナが膨れ上がり、レインの肥大化した胸部と頸部が赤みを帯び、太い血管が表面に浮き出る。やばい、何かが来る!?俺達が吸引されそうな位大量の空気を吸い込見始めたレインを止めようと俺達は必死にレインの身体を切り続けるが、レインの体からは薄く血が滲み、流れ出るだけだった。
「安元!やっぱり気円蓋を……!」
「ダメだ!まだ使うべきでは無い!」
「では行くぞ。我が吐息に刮目せよ!」
「亜蓮!撃て!」
「影領域。指向性除去!」
少しの溜めと共にレインは口を大きく開き、上空にいるアクアと重光に向かって強烈な炎の吐息を吐き出した。それに合わせて重光も追加統合魔法で形成した巨大な火球を放った。それがぶつかり合う事によって生じる余波は計り知れなかった為、俺は亜蓮の名を叫んだ。




