508話 厄介な相手
再生泥人形に向かって真っ直ぐと走る添島。それに対して向かって来る添島を見つめる再生泥人形はゆっくりと重そうな巨体を動かして添島の肉体を掴もうと左腕を伸ばした。だが、その動きは鈍重であり気円蓋を発動していない添島でも目視してから避けられると感じさせる程度の速度だった。
「まぁ、単なる攻撃では無いだろうなっ!」
添島は再生泥人形の腕をステップを踏んで回避したものの、何かを警戒している様子で攻撃を回避しても再生泥人形から視線を外す事は無かった。添島が再生泥人形の攻撃を避けたのを俺達が確認したのと同時に俺達も添島の支援を開始する。重光は属性耐性及び、状態耐性覆服、魔法抵抗衣の魔法を使用し、俺達全員の被ダメージを極力抑える事にした。これだけ耐性系の魔法を積んでいれば、ちょっとやそっとの攻撃で俺達がやられる事は無いだろう。魔法抵抗衣を九十九階層や九十八階層で使わなかったのは単純に重光が忘れていた可能性が高い。重光でもそういう事を忘れる事があると言うのに俺は驚いたが、重光だって人間だ。逆にそう言う欠陥が無い人間の方が怖い。
「全身内部圧縮属性付与不死鳥!」
添島の援護の為に俺はアクアから飛び降り、再生泥人形の上空から炎を纏って急降下した。それに気が付いた再生泥人形はアクアなどの存在を認識した様子で魔法の詠唱を開始した。アクアがいる付近に魔法陣が浮かび再生泥人形の全身からは紫色の液体が勢い良く噴射される。
「っ!?危ねえ!」
その液体の正体を俺達は知っていた為、即座に炎を逆噴射して放たれた液体を燃やしながら身体を大きく後退させた。添島も距離を取って液体を回避したものの、奴が全身に液体を纏っている様子では添島も中々近づけ無いだろう。あの液体はマナを急速に吸収する能力を持っている。再生泥人形が持っている液体の量はあの沼地に比べると少ないが、これだけ距離が近いと俺達でも影響を受ける程マナを奪われてしまう。
上空ではアクア本体が真っ暗い空間に一瞬包まれて一筋の光が走った。それは亜蓮が影領域を発動させて魔法を受け流した事を意味していた。上は大丈夫だな。
「添島!ヘイトを引き付けろ!共鳴付与火!」
上空の様子を確認した俺は即座に再生泥人形の周囲に地雷を設置し、相手の動きを窺う。俺の指示に従って再び大地を蹴った添島は次々と放たれる液体を回避しながら徐々に再生泥人形に接近するが、再生泥人形はその場を動く事無く液体を発射し続けている。動く気無しか……。添島もあまり奴に近づくとマナを吸い取られてしまうし、自立起動するか。
「添島!一旦下がれ!」
「了解!」
「着火!」
設置した地雷同士を即座にマナで繋ぎ合わせた俺は爆発の衝撃が外に逃げない様に再生泥人形の周囲にマナで膜を作って内部の地雷を全て起爆させた。再生泥人形がいた場所が赤く染まり、周囲には轟音が響き渡る。この攻撃の威力は内部圧縮属性付与に相当する。黒金剛不壊の泥人形ごこの攻撃を食らった場合には損傷を与える事は出来るが一撃で倒せはしない。さて、こいつの場合はどれくらいダメージを与えられるかな?
黒煙が晴れるのと同時に周囲には悪臭が立ち込める。その臭いを嗅いだ俺は即座に鼻を抑えて後方に退避した。臭いを嗅いだ瞬間身体の中の魔素の一部の流れが悪くなり、俺は思わずフラついた。先程の液体が熱で気化したのか……!?この気体大量に吸い込んだら死ぬ!それにこの気体は毒と言うよりかは魔素を阻害する効果があるからキュアなどの状態異常回復魔法では回復出来ない。
また厄介な物を……。そして、その悪臭を放っている再生泥人形の肉体は軽く表面が抉れただけで致命傷には至っていなかった。流石に黒金剛不壊石の泥人形程硬くはないがこいつも相当硬いな。そして、それだけ損傷を負わせて僅か数秒。その短時間で再生泥人形に負わせた傷は跡形も無く修復する。
回復させる隙も無いくらいに猛攻を浴びせ続ければ倒せるか?そう考えた俺だったが、攻撃する度に魔素を阻害する気体を放出されるのでは俺達が先に倒れてしまいそうだ。
《アクア。ちょっと伝えたい事がある。人員入れ替えだ》
《了解》
俺はアクアに指示を出して再生泥人形から離れる様にして走った。




