504話 猪突猛進
「嘘っだろ!?アクア全力で飛べ!絶対に奴に追いつかれるな!追いつかれたら即死だ!」
上空から迫る影に俺は危機感を募らせる。遥か上空から自然落下に身を任せて落下してくる巨大なゴーレムの下敷きになんかなってたまるものか!俺達は何としてでも逃げなければいけない。
「はぁぁっ!?」
巨大な黒金剛不壊石の泥人形が跳躍してから約十五秒後奴は俺達の背後に着地した。上空から迫る影が地面に降り立つのと共にまるで天地がひっくり返った様な轟音を立てながら大きく大地を揺らす。その想像以上の衝撃に俺達は怒りと驚きが混ざった声をあげながら土煙の中を駆け抜ける。大地はドミノの様にゴーレムが着地した場所から大きくせり上がり、地形を変える。たった一回の跳躍で高度千メートル近くまで飛び上がって俺達を踏みつぶそうとするとか正気の沙汰じゃねえ。せり上がった地面から巻き起こる衝撃波によって砕かれた鋭利な鉱石の破片は竜巻となって周囲に散り、奴の攻撃を避けた俺達にも容赦なく襲いかかる。音速を超える勢いで飛翔する鉱石の刃を身に受けながら俺達は全力で逃げた。地面に着地した際に大地、及び自分の脚が破損した影響なのか、黒金剛不壊石の泥人形は舞い上がる鉱石の破片の中から俺達を追撃する事は無かった。黒金剛不壊石の泥人形とは言っても黒金剛不壊石が全ての肉体を補っている訳では無い。それに幾ら黒金剛不壊石とは言え最低品質の黒金剛不壊石では奴の尋常では無い大きさの体躯の重量を支える事は難しいだろう。地面に胴体から着地したならばまだしも、あの巨体を支えるには不安定な二本の脚で地面に着地したのだ。この階層の地面も硬い鉱石で出来ている事からその脚にかかった衝撃は計り知れない。
今の一撃により、被害を受けたのは跳躍したゴーレムだけでは無く、ゴーレムの脚が直撃した地龍達は即死したと思われる。せり上がった地面から巻き起こる鉱石の破片で様子は窺えないがあの威力の攻撃で生きている方がおかしいだろう。だが、あの一撃で即死した地龍ものの直撃を免れた地龍達は生きていると推測出来る。奴らはそれだけの耐久力を持っている。
まさか、黒金剛不壊石の泥人形が自滅してくれるとはこれは願っても居ない天運だな。機械兵達のプログラムが優れていた為こちらのエリアでもゴーレムの知能が高いかも知れないと警戒していたが、そんな事は無さそうだ。俺は遠くに見える崩壊した鉱山を眺めながらニヤリと口元を綻ばせて地上から飛んで来た巨岩をアクアに回避させた。
さてと、この階層一番の脅威は回避出来た訳だが、この階層の攻略がイージーモードになった訳では無い。敵は硬いし、攻撃の威力は一撃一撃が重いしで、油断は出来ない。この階層からは被弾は許されないのだ。攻撃が回避しやすい代わりに俺達の間には一発攻撃を食らったらゲームオーバーと思え、と言わんばかりの張り詰めた空気が流れる。その張り詰めた空気は古代文明エリアとはまた違う物だった。
――九十八階層。俺達は九十七階層とあまり変わらない景色にため息を吐く。
恐らく、鉱山エリアは最後まで景色が変わらないのだろうと思いながらも何か変わった事があるかもしれないので俺は周囲を見渡す。周囲には黒金剛不壊石の泥人形は勿論の事、その他にも他の鉱石を身に纏ったゴーレムが確認出来た。金色にも関わらず青い光沢を放つ鉱石に身を包んだ幻金銅の泥人形や、白銀の光沢を放つ青色の鉱石に身を包んんだ灰貴銀の泥人形。。真っ赤で、太陽の様な輝きを放った上で鉱石の表面の流紋が揺らいでいる様に見える鉱石に身を包んだ緋緋色金の泥人形など希少な鉱石を見に纏ったゴーレム達が勢揃いしている。
どの金属も品質によっては黒金剛不壊石に匹敵する程の価値を誇り、それぞれ特徴を持っている。硬さでは黒金剛不壊石には匹敵しないが、簡単な相手とは言えないだろう。ただ、どのゴーレムも空を飛ぶ事が出来ない為、空路を使えばそれなりに安全だ。そう思った矢先だった。灰貴銀と幻金銅のゴーレムの身体にマナが収束し始める。俺はその動作に見覚えがあった為急いで上空に退避した。高度数千メートルまで上昇しても巨岩は飛んで来る。寧ろ、投擲を行うゴーレムの姿が見えなくなる分回避は大変になる。その為、高度を上げすぎてはいけない。ただ、収束されたエネルギーが放たれた際にある程度の距離が無ければ回避は出来ないだろう。
「魔方陣!?あいつ魔法を使うつもりか?」
そう思って上空に足を進めた俺達だったが、俺達の進路上に赤い魔方陣が突如として出現した事によって高度をあげるのをやめてアクアを急いで旋回させる。灰貴銀の泥人形の仕業か……。面倒だな。俺は空中に次々と浮かぶ赤い魔方陣と下方向から飛んできた極太の熱光線を交互に見ながらアクアに先を急がせた。交戦は避けるべきだ。この鉱山エリアも古代文明エリアと基本的な方針は変わらない。今の俺達の目標はただ一つ。百階層一気に突っ切るぞ。俺はこの時点で何処かで休めるかもしれないと言う甘い考えを捨てた。




