499話 金剛不壊龍
俺が夢から目を覚ましてみんなの身体の疲れも大分癒え、俺達はゆっくりと立ち上がって九十六階層の外を目指す。結局あの夢は最後まで終わらなかったな。と言う事はあと一度見るって事だ。あそこまで見せておいてあの最終決戦だけ見せないって言うドラマの最終回だけ録画し忘れたみたいな展開はやめてほしい物だ。
防具が破損していた為、俺はマジックバッグから予備の防具を取り出して味方に配り、破損した防具を回収した。予備の防具も一軍級の物はこれで全て使い切った。正直二軍級の防具はまだ幾つかあるのだが、九十五階層までの雑魚モンスターの攻撃で一軍級の防具がこの有様なのだ。この先の階層では二軍級の防具で補える防御力は紙同然と思っておいてほぼ間違いは無いだろう。
予備の一軍級の防具を着込み、俺は仲間達に問いかける。
「準備は出来たか?」
「ああ、これだけ休めば十分だ」
亜蓮の傷がこの短期間で癒えたのは重光が高位回復魔法を覚えてくれた影響がかなり大きい。もし、重光が高位回復魔法を覚えていなかったとしたならば、動ける程度には回復出来ても未だに亜蓮の傷を治せていなかった可能性が高いし、火傷の傷が深い部分だけは未治療のままになっていただろう。こう言う時の為にこの前アクアリングを改良して貰う為にカオストロの住居を訪れた際に高性能な回復ポーションを幾つか譲って貰った。だが、カオストロ曰く今の俺達の戦闘力だと前程の効果は無いかもしれないとの事だった。それに今の俺達の戦闘力だと亜蓮の様な傷の場合は飲むよりも傷口の治癒力をあげた方が良さそうだ。それでも前みたいに瀕死の状態から一本飲むだけで体力全回復!みたいな事は無い。それに飲むんだったら消化にかかる時間も考慮しないといけないから一刻を争う状況だと飲むと言う選択肢はまず無いだろう。
様々な希少な鉱石が生えた洞窟を抜けるとそこには巨大な渓谷地帯が広がっていた。だが、その雰囲気はかつて俺達が探索を行っていた渓谷エリアの物や、氷山エリアの物とはかなり異なっていた。まず、俺達が立っている場所は渓谷の上ではなく、谷の下だ。谷同士の幅は狭い所で数キロ、広い所は果てしなく続いている様に見える為アクアが通るのにも全く支障をきたさない。
そして、渓谷の壁となる部分の素材も俺達が先程までいた洞窟と同じ様に希少な鉱石を主に形成されている。言う所の宝石の山だ。普通ならばこんな金が落ちている様な場所喜ぶのだろうがそうにもいかない。上空を飛び回っている飛竜や地を這っている飛竜は明らかに今まで見て来たモンスター達と比べて強そうだ。上空を飛び回っている飛竜ですらアクアの体長を超えており、かなりの巨体を誇る。空を飛ぶ速度もアクアの水流噴射無しの移動速度に引けを取らないクラスの飛行速度を誇っている事から単純なパワーだけで言えばAランクモンスターの枠には収まらない可能性も考えられた。
ただ巨大な図体のせいか、九十階層から九十五階層まで俺達を苦しめた機械兵達に比べると機動力は大きく劣るだろう。その為、アクアで同じ様に上空を突き抜けるだけならば、幾分か簡単だと俺は読んでいた。だが、その認識か後に甘いものだと気がつくのは俺達がアクアに騎乗してからすぐの事だった。
アクアに騎乗した俺達は地上で十分に加速してから上空へと飛び立つ。すると俺達に気が付いたのか上空の飛竜達が威嚇音を立てながらこちらへと近づいて来た。先程俺が考えていた様に近くに寄ってみても機動力は機械兵の方が上であり、何よりも圧倒的に数が少ない。その為逃げ切れると踏んだ俺はアクアに少し速度を上げさせる。その直後の事だった。俺達の百メートル程背後から俺達を追って来ていた黒くゴツい鱗に包まれた飛竜……金剛不壊龍が大きな漆黒の鉱石の様な口を開いてエネルギーを収束させる。
「やれやれ、飛んでくるのはレーザーか?それとも炎ブレスか?」
そんな金剛不壊龍の様子を見ても俺は落ち着いており、金剛不壊龍の名前に入っているとある鉱石についての考察を広げた。黒金剛不壊石。この鉱石の名はファンタジー好きであれば誰もが聞いたことがあると言っても過言では無い鉱石の名前だろう。加工する事すら難しい程の圧倒的な硬さを持ち最高峰の武具に使われている事が多い伝説の鉱石だ。地球では金剛石に例えられる事が多いがそれとは全く別物である。寧ろ金剛石は硬さの面で言えば硬いがかなり脆く、融点もそんなに高く無い。所詮は貴重な宝石であり炭素が黒鉛とは違う形で共有結合して出来た物だ。
元々、黒金剛不壊石はギリシャ神話から来た物だと言われている。要するに神様が使っていた武具に使用されていた鉱石だ。そう比喩される程硬く、頑丈な鉱石である。勿論、黒金剛不壊石にも金剛石と同じ様にグレードが付いていると予測ができる。実際に俺が夢で見た金髪の男が持っていた漆黒の鎌と比べるのも烏滸がましい程に目の前の飛竜の鱗の黒は醜い。
この龍の名前が金剛不壊龍と言うのは決して金剛不壊龍の鱗の材質が黒金剛不壊石で出来ていると言う訳では無く、単純にその鉱石に匹敵する程の硬度を誇り、それと類似した見た目を持つ鱗を所有しているドラゴンって意味合いだと俺は推測している。
「そろそろ来るな。アクア、一応アクアジェットの準備はしておけ」
距離が百メートルもあるのだ。奴が炎を放ったのを見てからでも十分に避けられる。誘導性があるならばまだしも、誘導性がない攻撃でアクアが奴の攻撃を避けられないとは俺は微塵も思っていなかった。それは奴が口元に収束させたマナの量が九十五階層のボスモンスターの放つレーザー光よりも劣っていたと言うのもあった。だが、金剛不壊龍が放ったのはレーザ光何かでは無かった。




