495話 核爆発級範囲攻撃
俺の目の前で俺を囲む様に次々と横に展開される大量の兵器。だが、それは悪手だと俺は思った。無理に反撃を狙わなくてもさっきの様に防御壁を展開したら良かったのにな。
「全身内部圧縮属性付与火!」
俺の声と共に俺の全身から炎が上がり、完全武装型巨怪機兵が展開させた兵器諸共奴の背中の部品が大きく吹き飛ぶ。そこにはエンジン部分も含まれていた為、完全武装型巨怪機兵は一気に体勢を崩し、制動力を失って地面に向かって落下して行く。まぁ、防御壁を張れないのは分かってたけど、奴の機動力ならばもう少し俺の攻撃による被害を減らす事ができたと思う。奴は防御壁を張りながら攻撃不可能。その為、腕を変形させて攻撃態勢に入ってしまった奴が防御壁を張ることは出来なかった。俺は落下していく完全武装型巨怪機兵を見て目を見開く。こいつ!まさか最初からこれをーー!?
「指向性除去!」
地上付近から突如として眩い光が俺に向かって近付き、俺の直ぐ隣をものすごいスピードで通り抜ける。その光は俺の鎧の表面を焼き払い、俺の腕を露出させた。千切れた鎧の腕部分が腕から離れぷらんぷらんと虚しく揺れる。亜蓮がスキルを発動してくれたから良かったものの、亜蓮がスキルを発動しなかったら完全に終わってた。油断はしていないとか自分で言いながら情けない。奴はまだ死んでいない。ただエンジン部分が大きく損傷しただけで、他の三対の腕や二本の脚、頭は無事だ。と言うことは奴が次に向かう場所はあそこである可能性が高い。
先程完全武装型巨怪機兵が落下した地点の辺りからドシドシと言う轟音が響き土煙が上がる。空中での移動速度に比べたら遅いものの、空中特化機体の癖に巨人機兵とかと同等の速度で走ってがる。
奴が向かった先は重光の所だろうな。
「アクア!亜蓮と共に援護に向かうぞ」
「グルルル!」
俺は巨大な肉体が的になりやすい為意図的に遠くで巨怪機兵を相手取らせていたアクアを呼び寄せて亜蓮と共に背中に飛び乗り、重光がいる方向へと向かう。幾ら完全武装型巨怪機兵と言えども奴は空中特化機体。アクアで追いかければ流石に追いつける。
「アクア。警告射撃だ」
「グルル!」
重光が居る場所付近からは広範囲が黒煙に覆われており、距離も離れている事もあって上空からはまともに重光の姿を視認する事は出来ない。その為重光の方も敵の接近には疎い。敵が重光の方に向かった事を知らせる為に俺はアクアに水流ブレスを重光がいる方向に放たせた。アクアが放った水ブレスはレーザービームの様に細く強く真っ直ぐに伸び、駆ける完全武装型巨怪機兵の脇をすり抜けて飛んでいく。
本当は地上戦になるのであれば添島に走らせる方が速いのだが、流石の添島でも全力で走る完全武装型巨怪機兵と並走するには気円蓋の使用が必要だ。今まだ周囲に沢山の敵がいる以上はあの技を添島に使わせる訳にもいかないし、重光とは反対側を攻めに行って、地上の機兵達が上空の俺達に攻撃出来ないように添島が広範囲をカバーしている状態の為、こちらに向かう事は出来ない。例え出来たとしても添島が完全武装型巨怪機兵に追いつくよりも完全武装型巨怪機兵が重光に追いつく方が先だ。
アクアの放った水ブレスが黒煙を払い、俺と完全武装型巨怪機兵との距離は百メートルにまで縮まる。アクアの速度であれば後五秒もあれば追い付ける。本来であれば完全武装型巨怪機兵の背中に備え付けられた銃口が一斉に俺の方を向いて集中砲火を行うのだろうが、生憎その武装は先程の俺の攻撃で粉々に砕け散っている。奴が防御壁を展開する時には攻撃は愚か、移動も出来ない事は確認済みである。お前はもう終わりだ。完全武装型巨怪機兵は逃げるのを諦めたのか、瞳を黄色に点灯させて、脚を止めて身体を反転させる。
「大丈夫だ!そのまま加速し続けろ!」
またか!完全武装型巨怪機兵に向かって高速で突っ込む俺達に対して急激に速度を緩めた完全武装型巨怪機兵。そして、奴の頭には強烈なエネルギーが収束する。走ってた奴がいきなり急ブレーキ踏んで後ろから走って来てる奴にエネルギー砲を放射したら普通は回避出来ない。それに俺は転移座標印も付与していない。マナを半分以上残していて良かったぜ。
「時間付与」
アクアに騎乗したままポツリと言葉を呟いた俺は自身に残されたマナの内の八割……つまり全体の四割に当たるマナを注ぎ込んで完全武装型巨怪機兵を包み込むように空間を操作する。すると、完全武装型巨怪機兵は数秒前まで俺達がいた場所に向かって高密度のエネルギー波を放った。強大なエネルギー波の通り道にいた機械兵達は全て焼失し、辺り一面には高熱の爆風が吹き荒れた。
それによって安心した俺は両腕にマナを込めて完全武装型巨怪機兵にとどめを刺そうと後ろを振り返りギョッとした。俺が見た完全武装型巨怪機兵は全ての目を点灯させ、今までに無い程のエネルギーを胸の辺りに集中させて激しく発光していた。そんな完全武装型巨怪機兵の様子に俺の頭は警笛を鳴らす。あれはヤバい。奴が何を今からしようと思っているのかは誰から見ても歴然だ。奴を止めようと更に両手にマナを込める俺だったが間に合うかどうか分からない。いや、間に合わなければ俺達が負ける。自爆。奴が行おうとしているのはそれ以外の何でも無かった。




