492話 兵器起動
機械兵達との戦闘が始まって数十分が経過した。俺達の連携プレーにより着実に巨人機兵や巨怪機兵達は数を減らしてはいるが、まだ膨大な数の機械兵達の何分の一も倒せていないと言うのが現状だ。分かってはいたもののあまりにも数が多過ぎる。しかも、それがただの機械兵では無く、巨大な機械兵と言う事もあり、火力を軽減した生半可な攻撃では倒しきれない事もあった。その為、俺達の体力は少しずつではあるが、機械兵達の数が減るよりも早く消耗してしまっていた。まだマナには余裕があるものの、巨大な機械兵達を葬った後に完全武装型巨怪機兵と戦うエネルギーは多く残しておきたい。未だに完全武装型巨怪機兵は動きを見せず不動を貫いており、本当に俺達が他の機械兵全てを淘汰しないと動かない。そう思わせる程に不気味だった。確かにまだ、大量の機械兵達が残っている為、奴が動くのに十分はスペースは確保出来ていないのだが、それでもあれだけ武装をしているのだ何か攻撃手段があってもおかしくはない。
全てプログラムに従って動いているのならば、機械同士の動き位は認識出来る筈だ。実際に九十四階層の機械兵達は自らの役割を理解して連携して俺達を追い詰めていた。それはつまり、機械兵が機械兵同士の動きを認識し、その上で動ける事を示している。それを考えると完全武装型巨怪機兵が動かない理由が分からなかった。奴が積んでいる武装は当然近接武器だけではない。誘導性がありそうな火器も複数抱えている。動けない理由があるのか、それとも俺達の実力を見くびって余裕ぶっているのか……。俺が考えるに後者はほぼあり得ないと見ている。何故ならば、複数の巨大な機械兵達相手に俺達は余裕の表情で立ち回っており、軽く機械兵達を破壊している。この状況でタイマンで俺達とまともに戦えるのは完全武装型巨怪機兵しか居ないだろう。俺のそう言う疑念を感じ取ったのか遂に完全武装型巨怪機兵は動きを見せる。
今まで電源が入ってなかったかの様に全く動かなかった完全武装型巨怪機兵の目に激しい光が灯り、奴はゆっくりと三対の腕を解いて三日月状の刃を持つ剣を背中の武装から一斉に引き抜いた。剣を引き抜く金属音が周囲に響き渡り、俺達の間に緊張が走る。
サーベル?何故、完全武装型巨怪機兵があの武器をチョイスしたのかは分からない。三日月状の刃を持つ剣の形状を見る限り、あれは複数回打ち合う様な剣ではない。相手に傷を負わせる事に特化した剣である。普通の人間があの武器を扱うのであれば、薄い剣の刃が欠けない様に気を付けながら相手の動きに合わせて行動を阻害して使う必要があるだろう。だけど、完全武装型巨怪機兵が握るその三日月状の刃を持つ剣の大きさは長さ三十メートルを誇り、とても小型の剣と言える代物では無い。
巨怪機兵と交戦中の俺達の方向へ向かって歩いてくる完全武装型巨怪機兵の足は遅く重い。百メートルを超える巨体が一歩踏み出す度に大地には大きな重低音が響き渡り、空気は震えた。正直、完全武装型巨怪機兵が何を考えているか分からない。来るなら走ってくれば良いのに。俺はそう思いながらも亜蓮のサインから目を離さず巨怪機兵に向かって炎を放ち続ける。
俺との距離が十五メートルを切ろうとした時再び完全武装型巨怪機兵は動いた。三対ある瞳の内真ん中の瞳が赤色に発光し、それと同時に完全武装型巨怪機兵の背中のエンジンが青い火を噴いた。
「来るぞ!」
俺は大声で危険を仲間達に知らせて新たな攻撃に備える。エンジンを噴かせた完全武装型巨怪機兵は一瞬にして俺の真横に回り込んで三対の腕を横薙ぎに振るう。その一撃はアクアの上に騎乗している亜蓮と俺を狙っている事は明らかだった為、俺と亜蓮はアクアの身体を蹴って上空に舞い、亜蓮は魔導射出機構、俺は内部圧縮属性付与で加速を得てアクアと距離を取った。
アクアと分離した俺と亜蓮の間を完全武装型巨怪機兵の腕が通過し、周囲の巨怪機兵の機体ごと真っ二つに両断した。何て威力だ。それに完全武装型巨怪機兵の動き方は緩急が付いており、回避し辛い。単純な速度で言えば俺達が上回っているものの、完全武装型巨怪機兵の攻撃速度は事前に攻撃を予測していないと俺達でも回避し捏ねる程の速度を誇っていた。ゆっくりとした動きから急に体を加速させて攻撃するタイプか……。
ただ、攻撃を行う前に瞳が光ったり、エンジンが激しく火を噴いたりと色々予備動作は多い為、事前予測はしやすい。問題は攻撃のタイミングでは無く、奴がどこにどの様な攻撃を放ってくるのか?と言う事だ。流石にそれだけは見てからじゃないと分からない。
それに俺達の敵はこいつだけでは無い。完全武装型巨怪機兵の攻撃を回避したのも束の間、直ぐに巨怪機兵達が俺達に距離を詰める。アクアから離れている俺達は奴らにとっては最大のカモだ。とは言ってもカモになる気は更々ないけどな。
俺はそう思いながら全身に炎を纏って自分を襲って来た巨怪機兵の放った弾丸諸共、機体を焼き尽くす。だが、その間にも完全武装型巨怪機兵は再び体勢を整えて武器を構えて俺の方を向いた。そして、奴の一番後ろの目が黄色に激しく点滅する。また来る!俺は周囲にも目を配りながら完全武装型巨怪機兵の動向に注意を向けた。




