490話 完全武装型巨怪機兵
破壊しても、破壊しても出てくる人機兵に俺は眉を顰めながら両手にマナを込めて一直線上に炎を放ち人機兵達を一掃する。だが、その一掃した穴を補填する様に背後からは大量の人機兵達が湧き出て隙間をすぐに埋めた。
添島も大剣を縦横無尽に振り回し、人機兵や怪機兵達を粉々に粉砕するが、キリが無い。重光の範囲攻撃、添島の圧倒的な近接攻撃、俺の高火力の炎による攻撃、山西によるカウンター、亜蓮による高速攻撃、アクアによる水刃での範囲攻撃。この全てを持ってしても相手が湧き上がる速度は異常な程速く、先が見えない。このままではこの階層を突破するのは愚か足を一歩進めるのも一苦労だ。一体一体の機械達の戦闘能力は大した事は無い。だが、この数で来られると流石に厳しい。それに、ここにいる機械兵達が見えている数だけでは無いと言う事実を俺達は知っている。その為、この戦闘がひと段落するのがいつになるのか見当もつかなかった。
洞窟の地下には同じ様な洞窟が存在していたが、その洞窟の奥からは今までに無い様な強大なマナを感じる。何か奥にある。そう感じた俺達は周囲の敵を一掃し、隙を作ると再びアクアに騎乗する。
地下の洞窟もかなり広い為、アクアが問題無く飛行出来る。地下への入り口も大量の兵器が一斉に移動する事を想定していたのか数キロの幅がありかなり開放的だ。その為、地下への入り口は入り口と言うよりかは洞窟の続きって感じだ。
地下洞窟の奥へと羽を広げ進むと、強大なマナを放つ物体の存在が露わになる。半径数キロはあろうかと言う巨大な透明な球体の中では凄まじい速度で機械兵が生成されており、下に付属している土台部分に付いた大扉から機械兵が足を揃えて外に出て来ていた。これ、何処かで見た様な気がするな……。俺はそんな気がしたが、上手く思い出せない。それに、俺が見た事あるのはこれとは少し形が違った筈だ。恐らく気のせいだと俺は思い考えを断ち切って両手にマナを込める。
「これを破壊すれば、機械兵の生産は止まる筈だ」
根拠は無い。だが、目の前の巨大な機械の中で機械兵が生成されているのは確かだった為これを破壊すれば少しはこの階層の探索が楽になる筈だ。
「内部圧縮属性付与火!!!」
俺の両手からドリル状の炎が目の前の巨大な機械に向かってぶつかる。それと同時に機械の表面には小さな亀裂が入る。これならば何度か撃ち込めば破壊出来そうか?ただ、機械に入った亀裂は非常に小さく、俺の残りのマナでこれを破壊出来るか分からない。破壊出来るか破壊できないか微妙なラインである。まぁ、マナが半分を切ったら重光とか添島に任せれば良いか?それかそもそも最初からあの二人に任せるか?そう思いながら、もう一度俺が両手構えた所で目の前の巨大な機械は激しく発光し、警報の様なアラームを鳴らしながら中性的な声で喋った。
「――」
恐らくはロークィンドの言語だろう。俺は何を言っているかも全く聞き取れなかった。エルキンドに少しロークィンドの言語を習ってはいたのだが、機械が話したのはまた別の言語だった。それにエルキンドから言語を習ったとは言ってもたかが数日である。それで言語をマスター出来るならばグローバルな現代人になるのに苦労しない。マナの影響で頭の思考速度がかなり速くなっているとは言ってもそれは記憶力や理解力とは別物だろう。それでもこの短期間で目の前で機械が喋った言語のニュアンスで別の言語と理解出来た事位は評価したい。
古代文明って言う位だからそりゃ時代も言語も違うわな。
何かを喋り始めた機械の透明な蓋には巨大な魔法陣が浮かび、透明な蓋が割れ中からは大量の巨人機兵や巨怪機兵達が姿を見せる。あ、これはヤバいわ。
城壁による極太レーザーや迎撃人工衛星による誘導弾幕は無いものの、出て来た巨大な機兵達の数は類を見ない程に多い。それに、この洞窟では今俺達がいる場所が終着点の為、今まで使って来た逃走作戦は使えない。アクアで移動していなかったら迎撃は余裕なんだが、出来ればここは無傷で切り抜けたい。
俺のその心情が現れたのは目の前に現れた大量の巨大な機兵達の数が多かったのでは無い。巨大な機兵達の後ろで姿を現した一際大きな機兵の姿だ。機械で出来た黒色の肉体は巨怪機兵に似ており、頭は龍を象っている。頭に付属した宝石の様な三対のエメラルドの機械の瞳に全身を覆い尽くす程の武装。その武装を扱う三対の腕。その姿は阿修羅を彷彿とさせるが全体像は完全にドラゴンである。遠距離系の武装は愚か、近距離系の武装も一通り揃えている為その個体は万能性に優れている事も窺えた。三対の腕から原初の狩人を思い出すが、当然身体に留めるマナの量はその比では無い上、百メートルを超える巨体は見るものを圧倒する。とは言っても体内に秘めているマナの量から察したがあいつは俺達が勝てない相手では無い。エスカーチが力をくれたお陰でな。完全武装型巨怪機兵俺はこいつをそう呼ぶ事にして、アクアの身体を撫で仲間達に合図を出した。




