487話 チートメンバー
城壁の上から姿を現した巨大な機械兵。巨人機兵と同じ様に黒色の塗装を施されたメタリックな肉体を持っているその個体。その個体の肉体のシルエットは引き締まったリザードマンの様な肉体をしており、二足歩行だ。背中には巨大なジェットパックの様な物を背負っており、そのジェットパックには複数の砲塔とエンジンが搭載されており、機械翼は関節部分が多く、迎撃人工衛星のパネルの様に三百六十度回転出来る部品もあり、人体には出来ない複雑な動きが出来る様に思える。その為、ジェットパックのエンジン部に集められたエネルギーと共に視認できる青色の炎と相まって空中の動きはかなり面倒くさそうな事が窺えた。俺はそいつを巨怪機兵と仮称し、アクアにしがみついたまま城壁の上を目指す。
城壁ごと破壊して先に進む事も考えてない事は無いが、巨人機兵と戦闘を行った際に俺が周囲の建物を崩壊させられなかった事を考えると、あの城壁を一撃で破壊する事は叶わないだろう。そうなれば、奴らの接近を許す事になる。そうなる位ならば城壁の上を潜り抜けた方が良い。
そして、俺達が城壁に近づくにつれて新たな事が次々と露わになって行った。城壁の後ろからは腕が異常に長く僧帽筋の辺りが発達している猿の様な形状をした巨怪機兵が姿を見せ、両腕に巨大な岩を抱えている姿が俺の目に映った。
「投石兵か!?」
猿型巨怪機兵の脇を擦り抜けて次々と地面に降り立つ巨人機兵の数も凄まじい。これ多分この城壁抜けても襲って来る敵は止まらねえな。俺はそう思いながらもアクアに掴まる事しか出来ない。この速度ではアクアに祈るしか無いのだ。防護壁もアクアと並走して張れなければ、攻撃を仕掛ける事も出来ない。この速度では流石の亜蓮も対象をマーク出来ないだろう。と言うか対象が多過ぎる。
巨怪機兵の空中機動力が大した事無い事をひたすらに祈る俺だったが、その希望は簡単に打ち破られる。それどころか、寧ろ厄介なのは巨怪機兵では無く、猿型の方だった。アクアの進路を塞ぐ様に的確に投げられた巨大な謎の金属で作られた岩石にはマナが大量に含まれており俺は何かがあると感じていた。その俺の予感が的中する様にアクアの正面に飛翔した岩石はアクアにぶつかる寸前に赤く発光する。
落石が来る事はアクアも分かっていた為、その落石を避ける為に左右に水を噴出させながら落石を避けて移動するが、更にその行く先を遮る様に落石は次々と放たれる。赤く発光した岩石は激しい閃光を放ち、俺達の視界を眩ませ、轟音周囲に響かせた挙句、銀色の粒子状になって周囲を漂った。その粒子に迎撃人工衛星が放つ砲撃が当たると即座に粒子は起爆し、周囲を爆炎に包む。その爆炎は威力こそそこまで高くは無いもののあり得ない程の黒煙を発生させ、更に俺達の視界を包んだ。
嘘っだろ!?何だこのクソ仕様!?真っ暗に包まれた視界一面に俺は心の中で愚痴る。だが、こう思ったのは恐らく俺だけでは無いだろう。亜蓮とかは絶対に糞ゲーだって叫んでいる筈だ。防具の兜に付いているのは遮光ガラスだ。岩石が爆発する際に放つ閃光は防げても黒煙の様な悪質な視界を塞ぐ攻撃は防げない。それだけならばまだしも全ての機兵達がジェット機が立てる様な爆音を立てながら動いている為、五月蝿くて仕方が無い。黒煙に関しても粒子の一つ一つが重量のある重金属で作られているのか、機兵達が放つ風圧などで吹き飛ばされない様に工夫がしてある。それに重金属と言う事もあって吸い込んだら害がありそうだ。実際にその物体を吸い込んでしまった俺の喉は少しイガイガしており荒れていた。粒子状になるって事はこの黒い粉の硬さはそのまででは無いのだろう。だから、肺の中で残り続けるって事は無いと思うが、これだけ大量の粒子を吸引してしまうと流石に不安にもなる。しかし、今周囲の状況を素早く判別しなければ俺達は袋のネズミだ。奴らは機械。直接的な視界妨害に干渉する事は無い。
「なっ!?本当にクソ仕様じゃねえか!」
そう思った俺はマナを周囲に広げて、敵の位置を探ろうとして思わず、怒鳴る。空中に散らばった黒い粒子自体が多量のマナを含んでいる影響で俺が行った魔力探知は上手く行かず、敵の位置を特定するのには至らなかった。
「――」
「?」
この状況に焦る俺に対して俺の前に座っていた亜蓮は何かを呟きながら指で俺に指示を出す。上に三十度?それは敵の位置か?いや、違う。敵は既に俺達の周囲を囲んでいる。そらならばアクアの飛ぶべき方向か!
《上に三十度飛べ》
《了解!》
そう理解した俺は即座に亜蓮の指示をアクアに伝達する。するとそれに従ってアクアは水を背後に噴出させ、方向転換を行った。そのアクアの真下を巨怪機兵が通過した。亜蓮の奴……視界が隠される前の敵の位置を全て把握していたとでも言うのか?いや、それでもその後の敵の動きなど読める筈が無い。そう考え、若干疑った目で亜蓮を見る俺を他所に亜蓮は次々と指で俺に合図を出して行く。その合図に従ってアクアを動かす事数秒。見事にアクアの身体は城壁の上空を通過した。それによって俺は確信する。戦闘力的に添島や重光の事を俺は化け物だと思っていたが、それは違う。俺達の中で一番の化け物は亜蓮。間違い無くお前だ。




