484話 生命線
「お前ら!俺に付いて来い!全身内部圧縮付与不死鳥」
重光が形成した床の上を全身に炎を纏いながら疾走する俺はアクアに向けて放たれた眩しいレーザー光に眼をしかめながら指示を出す。内部圧縮属性付与状態の俺に走って付いて来れるのは添島と亜蓮の二人だけだ。山西と重光は付いて来れない。それでも問題は無い。今俺がマナを込めて走ったのはあくまで迎撃用だ。どうせ、アクアが俺達に追いつくのならば関係の無い話だろう。
極太のレーザー光がアクアが居た場所付近を薙ぎ払うがアクアは口から水を勢い良く噴射して身体を横にズラして高速移動し、それを回避する。その際に自身の身体を鎖を巻き取って反撃に転じていた巨人機兵の身体にぶつけて鎖を引き千切っている辺りアクアも落ち着いていた。
城壁の上からは次々と新たな巨人騎兵達が城壁を乗り越えてこちらに向かって来ているが、あの程度問題は無い。巨人機兵の耐久力は俺の内部圧縮属性付与一撃で落ちる程度の耐久力しかない。その程度の耐久力ならば何体襲って来たとしても、添島と俺二人で十分だ。アクアが戻って来てそこから熱光線の再装填の時間までに巨大な城壁を越えるまでの時間は稼げる。
槍さえ避けしまえば問題は無い。そう。槍さえ避けれればな。今俺達が立っている場所が地面であれば添島の馬鹿げた力で弾き飛ばす事も可能なんだが、今の足場は重光が形成した足場だ。この状態で巨人機兵が放った攻撃を弾き飛ばそうとすれば間違い無く足場は崩壊するだろう。それに、長さ三十メートル近くもある巨槍を避けるにはかなり大きく回避行動を取る必要があった。
俺達を迎撃するつもりの巨人機兵達は既に槍を構えて投げる姿勢に入っているが問題は無い。
「影武者」
亜蓮が右手から放ったのは弾幕の様な量のマナで形成したナイフだ。そのナイフは全て紫色のオーラを纏っている。エスカーチに強化された亜蓮の技を俺は初めて見たがこれはヤバイな。以前克服したとは言え影武者による複数対象へのヘイト管理はかなり神経を注ぐ作業だ。しかも、今亜蓮が行なっているのはタイミングズラしと呼ばれる作業で、指向性除去を行う前段階の作業である。
流石に距離も離れている為、数百をも超える攻撃を全てコントロール出来ている訳では無いが、今俺達が必要としているのはアクアが来るまでの時間稼ぎだ。その時間までに槍が俺達に到達しそうな巨人機兵相手だけを対象にスキルを発動したのか。やはり、瞬時に周囲の状況を判別する能力が俺達の中で亜蓮は一脱しているな。場の空気を判別する能力は欠けているのに、いざ自分の世界に入り込んでしまえばとんでも無い実力を発揮するヤバい奴だ。機械系の相手にも亜蓮のスキルは通用する。寧ろ、一定のプログラムしか保たずに動く機械系の相手の場合、意識を亜蓮に向かせた場合虚を突くのは困難だ。何しろ応用が利かないのだから。幻術などの相手の心情に作用して効果を働かせるスキルと違って相手の攻撃と言う指向性を動かせる亜蓮のスキルは機械系の相手とは相性が良い。ただし、相手がその場で状況判断できる知能を持っていて複数の解決できる攻撃手段を持っている場合は別ではあるが、大抵の機械系のモンスターにそんな高度な知能は無い。
亜蓮が発動したスキルによって巨人機兵達が放った槍はナイフに引き寄せられ、俺達に向かって最短距離で放たれた筈の槍はあらぬ方向に飛んで行く。だが、それを認知したプログラムが亜蓮のスキルを理解したのか、亜蓮が放ったナイフに向かって多数の空人機兵が飛翔する。
「チッ。面倒くせえな。タイミングがズレる」
亜蓮の放ったナイフとぶつかって空中で爆散した空人機兵に亜蓮は舌打ちをして悪態をつきながら新しくマナでナイフを形成させ、周囲の空人機兵の位置を確認してから空中に放つ。その間コンマ数秒。自身のタイミングをズラされたのにも関わらず、即座に空人騎兵の位置関係と飛行速度を判別してタイミングを再び戻す。そんな事は普通の人間には出来ないだろう。
そして、タイミングを綺麗にズラされた槍は亜蓮が発動した指向性除去のスキルによって一点に集中し、亜蓮に難なく流されてしまう。三十メートルを超える巨大な槍が亜蓮と言う小さな対象に同時に集中した場合どうなるのかは簡単に想像出来る。互いの槍は亜蓮にぶつかる前に火花を散らしながら鎖を絡め合い、あらぬ方向へと攻撃を流された後も互いが解ける事は無かった。その影響で槍を放った巨人機兵達は思うように槍を操作出来ず大きな隙が生まれる。その為流した槍が再びこちらに向かってくる事は無い。その隙に鎖を破壊したアクアが俺達に追いついて俺達全員を回収した。
俺全身に炎纏った意味無かったな。俺はそう思いながら全身の炎を解除してアクアに乗り込んで城壁の向こう側を目指す。既に俺達は光線の射角外に入った為極太のレーザー光が飛んでくる事は無い。俺達が城壁の上空を超えると一キロ程先に虹色の幕が姿を現した。
先程の大量の巨人機兵達はどこから湧き出ていたのかと俺は思い真下を見るが巨人機兵達は地下から次々と湧き出ている様子だった。このエリアのライフラインが地下にあるとすれば案外空中以外だったら地下から行くのが正規ルートなのかもしれない。
空中も弾幕だらけ、地上も機械だらけ。そう考えたら……いや、例え地下に行ける道があったとしても地下がライフラインであるならば、ここよりももっと警備は厳しい筈だし狭い地下でこんな奴ら相手にする方が厄介だ。ただファンタジー好きな亜蓮とかは時間があるならば地下で機械兵達がどう生成されているのか見たかっただろうな。それに、地下帝国とかめっちゃロマン溢れてる。すまんな亜蓮。今回はゆっくり探索できそうに無くて。だが、それを我慢してくれた事感謝するぜ。俺はそう思いながら九十三階層を突破した。




