483話 失策王(再)?
九十三階層の機械兵達には名称の様な物は付いていない。だが、名称がないままだと俺がこんがらがってしまいそうなので、名称を仮称する事にした。戦闘機の様に変形して空中で襲ってくるタイプの機兵を全体的に総称して、空機兵と呼び、その中でも人型の物を空人機兵、竜や獣、昆虫の様な奇形の物を空怪機兵と呼ぶ事にする。地上での活動を主にしている機械兵達は単純に人機兵と怪機兵だ。
今目の前に見えている巨大な機兵は巨人機兵と仮称する。自動迎撃人工衛星については単純に迎撃人工衛星で良いだろう。逆に名前を付けた事によって複雑化するかと思ったが、分類分けした方が分かりやすいのは確かだ。飛翔するアクアの身体が遥か先の高い壁付近で俺達を待ち構えている巨人機兵と一キロ程の距離まで近づいた時だった。巨人機兵達が一斉に動き始めた。
「来るぞ」
《アクア、槍が飛んで来たら水を身に纏いながら旋回しろ。その時に余裕があれば尾で鎖の部分を狙え》
《了解》
巨人機兵の厄介な点は鎖付きの槍を遠距離から放ち、遠隔で操作する点にある。正直それ以外は大した事は無い。槍の威力は高いが鎖自体の耐久力が大した事無いのは俺が検証済みだ。あの耐久力ならばアクアが水を纏った状態の尾で十分に断ち切れる。一斉に槍を構えて走り始めた巨人機兵の狙いを集中させる為にアクアには出来るだけ城壁に対して平行に飛行させる。それによって必然的に巨人機兵達は同じ方向を向き、走り始める。これで奴らが槍を投擲してくれれば回避がしやすい。
俺の予想通り、巨人機兵達は一斉に同じ方向へと走り始めた。だが、一つだけ想定外の事態が起こる。近づくにつれて明らかになっていく真っ黒い城壁の全貌。城壁には迎撃人工衛星に搭載されている熱光線を放つ筒よりも遥かに巨大な筒状の機構が設置されており、その砲身はアクアと城壁との距離が五百メートルを切ったところで俺達の方を向いた。
そして、極太のレーザービームがそこ砲身から放出されるのとタイミングを合わせる様に巨人機兵達は一斉に槍を投擲した。アクアの進行方向を遮る様に放たれた極太のレーザー光と反対側からアクアを追い詰める様に放たれた槍にアクアは一瞬戸惑ったものの、前方に強烈な水ブレスを吐きながらアクアは加速していた自身の肉体を一気に後退させ、水を吐いた勢いで後ろ向きに丸めた身体を高速回転させた。
その余りの勢いに俺達は振り落とされそうになるが、必死にアクアにしがみ付く。ヤバい。こうしないと攻撃を回避できなかったと分かっていても、乗ってるのが俺達じゃなかったらほぼ確実に意識失うか、吹き飛んでるぞ!身体を高速回転させたアクアは槍が自身の目前を通り過ぎるタイミングに合わせて水を纏った尾を一気に上空に向けて振り払った。アクアの身体の回転が急激に止まり、アクアの尾からは巨大な水の刃が槍の根元……つまり鎖の部分に向けて放たれ鎖は完全に寸断された。それと同時に槍はあらぬ方向へと飛翔し、俺達の身体もアクアの身体から分離する。
「アクア……ちょっとやり過ぎだ……」
猛スピードで回転した影響で若干気持ち悪くなった俺は吐き気を催し、アクアを注意する。仕方無かった事とは言え、無理に鎖を断ち切る必要は無かったのだ。この状況だと第一波は避けられても第二波は避けられない。極太のレーザー光が想定外だったとは言え、他に対処法は幾つかあっただろう。それに気が付いたアクアは俺達を回収しようと後ろを振り向いた。その瞬間、アクアの正面にあった寸断された鎖が伸び、アクアの身体を縛り付ける。
「グルルッ!?」
「アクア!?」
そして、城壁の砲塔は一斉にアクアの方を向いた。だから言わんこっちゃ無い。巨人機兵達も、鎖でアクアを拘束したまま鎖を巻き取り、両手に巨大な直剣を握って大地を駆けて距離を詰める。アクアから振り落とされた俺達はアクアリングの飛行機能を利用して空中に留まりながら対象を捉えてマナを込める。
アクアが拘束された所で問題は無い。何故ならばアクアの武器は拘束された所で効力を落とす事は無いのだから。どちらかと言えば、不味いのはアクアから振り落とされた俺達だったのだが、向こうが俺達じゃなくてアクアを狙ってくれて助かったよ。
俺は兜の下で笑顔を浮かべて仲間達に合図を出す。俺達の足元に防御壁で作られた板が次々と生成され、俺達はその足場を走って城壁の方向へと向かう。アクア。囮役頼んだぞ。お前ならやれる。寧ろ、巨人機兵の殆どと城壁の迎撃設備を引きつけてくれて感謝するぞ。
城壁までの距離は約五百メートル。そこまで俺達が走って到着するまでにかかる時間は約二十秒。多分そこまでの時間は稼げないだろうけど、五百メートル先からアクアにレーザー光が届くまでも数秒かかる。それだけの時間があれば、俺達はかなり城壁に近づけるだろう。
そして、光線を回避したアクアが俺達に全力で追い付くまでにかかる時間は数秒だ。レーザー光の発射間隔は集光や、打ち終わり、射角の調整時間を含めて約五秒。十分過ぎる時間である。距離が近づけばレーザー光を回避するのは難しくなるが、砲塔の射角も大きく傾けなくてはいけなくなるし、最低射角でも当たらない位置に入り込んでしまえば俺達の勝ちだ。相手の砲塔のプログラムが悪いのか、狙いを一体に絞っているお陰もあってこの作戦は成功する。いや、成功させる。俺はあの時とは違って失策王にはならない。




