46話 力技
主人公の濃霧の添島sideで時間軸は少し前に戻ります。
〜〜〜添島side〜〜〜
二十三階層に入って直ぐの事だった。濃い霧が出てきて安元が注意換気を促す。勿論俺も注意しているつもりだ。そして、重光が風魔法も試してみるが空気中の水分が流れて来てダメだった、、、そして遠くが見えず結局俺達は霧を払うことは出来なかった為ゆっくりと進む事になったんだが、途中で俺は安元がいない事に気がついた。あの野郎っ!?言い出した本人が消えたか、、、安元はいつもこうだ。何をするにしろどこか抜けている。そして、俺も不安になり仲間達に声をかける。
「お前達!大丈夫か?」
だが、声が帰ってくる事は無かった、、、やっちまった。俺も迷子になってしまったのだ。だが、迷子になってしまったものは仕方がないのだ。ここで待っていてもこんなに階層が横に広がっている沼地で偶然会う確率は少ない。それならばさっさと拠点に戻って合流するのを待つのが確実とも言えるだろう。そして、現在食料は安元がマジックバックに詰め込んでいた為俺の手持ちの食料はほぼゼロだ。ここでもたもたしている暇は無い。
「はぁ、、、あの野郎、、、後で覚えときやがれ!気貯蔵」
そう言う俺も迷ったので人の事は言えないのだが、俺は全身にエネルギーを纏い一気に駆け出した。ぬかるむ地面が俺の足の自由を奪うがそんな事は知ったこっちゃない!多分この方法で進めるのはあの五人の中では俺だけだろうが、今までとは圧倒的に進む効率の良さが違う。俺は泥を周りに撒き散らしながら走る。まるで雨の日を走る大型車両の様だ。俺が走る横に誰かが立っていたならば間違いなく泥々になるだろう。地面に潜んでいた泥状の生き物も俺を掴むことは叶わず、、、と言うよりもその泥が添島を捉えても強引にそれを引き千切って俺は更に加速する。暫く走り続けて俺は少し休憩を取る事にした。身体に纏わせたエネルギーを解き地面の泥沼に腰を落ち着ける。
(むくむくむく)
俺が休んでいると近くの地面が盛り上がって形を形成していく。だが正体は分かっているので放置する。そしてその泥の塊は俺に纏わりつく。
「ったく、、、少しは休ませろ、、、よ、、、なっ!」
俺はその泥が完全に俺に纏わりつく前に全身にエネルギーを纏い力を込め俺に纏わりついた泥を吹き飛ばす。こいつといくら戦っても無駄だ。倒した所で直ぐに復活するし、倒しても腹は膨れねぇ。いくら俺が高速で移動できるとは言え一日かからずに次の階層へと続く階段まで辿り着くとは思えない。まだ時間はあるが、夜の時間は食料を確保する時間になりそうだ。ここにまともな食料があるのかどうか微妙だが、、、そう思い少し休んだ俺は再びエネルギーを纏い走り出した。俺が走り始めてからかなりの時間が経過し、日が暮れ始めた。そこで俺は腰を据える。ここまで俺が走って来て、途中に植物でもあれば、、、と思い周りを見渡しながら来た訳だが、、、相変わらずの濃霧で視界が悪くそのような物は確認出来なかった。俺は無心になり座禅を組む。このまま宛の無い食料の為に無駄な体力を使う訳にもいかず俺は日が出ている間に一気に走り強行突破する事にした。そして、ここでじっとしていれば今までの経験上何か襲ってくるはずだ。だが、泥の塊、、、もとい泥アメーバだけは倒しても需要が無いので来て欲しくは無い。まぁ何事も起こらず普通に休めれば良いとは思う。
「ギィィィイ!」
「やっと来たか、、、」
目の前には暫く同じ体勢で待っていると翼を広げると五メートル近くありそうな鳥の姿があった。こいつが俺を狙ってくるまでの殆どの敵が泥アメーバだったものだからもうそろそろ飽きていた所だ俺は立ち上がり大剣を構え巨大な鳥と相対する。
「ギィィィィイ!」
その鳥は俺の方へと翼を羽ばたかせ真っ直ぐに飛んで来る。正面から飛んでくるのは意外だったが俺は冷静に飛んでくる巨大な鳥に向けて大剣を振るう。だが、その巨大な鳥は俺の目の前で翼を器用に使い方向転換し、俺の背後へと回り鋭い鉤爪を俺に向ける。俺は先程の大剣を振るい終わった体勢のままだ。だがな、、、!それで俺を倒せると思うなよ!
「気貯蔵!」
一瞬俺は強めにエネルギーを纏い身体を急加速させ振り向きざまに背後から攻撃を仕掛けようとしている巨大な鳥に強烈な一撃を放つ
(ギィィィイン!)
俺の大剣と巨大な鳥の鉤爪がお互いぶつかり合い反動でお互い弾き飛ばされ俺はぬかるむ地面に足をつき後ろ側に滑る。巨大な鳥は足から血を滲ませながら空中で体勢を整えている。
「更に追撃が無いとでも思ったか!」
俺は後ろ側に滑る足にエネルギーを纏い強引に巨大な鳥がいる方向に加速する。そして、
「ギィィィィイ!」
俺の大剣はまだ空中でバランスを整えている巨大な鳥を斬り裂き巨大な鳥は悲鳴を上げながら鮮血を飛ばし地面に落ちる。
「ふぅ、、、倒したのは良いんだが、、、これどうやって食おうか、、、」
そして、食料が確保出来たと喜ぶ反面俺は火を使えない事に気がつく。そう、俺のスキルでは肉を細かく切るのが限度でまともな調理などは出来るはずが無い。生食か?そう思うが、俺はリスクを考える。食中毒になるのが良いか、空腹の方が良いか、、、ただ、重光達と合流出来れば解毒も可能だ。空腹で行き倒れになっても嫌だ。結局俺は空腹には勝てずとある選択肢を取った。俺は命を刈った巨大な鳥を持ち上げ自身の口元に持っていく。そして、俺はその鳥の首を刎ねる。すると勢いよく血が噴き出す。そして俺はおもむろに血が吹き出ている首の断面に口を当て吸い始めた。
「不味っ、、、ジジイの料理といい勝負だ」
勿論最初から血が不味いのは承知の上だ。鉄の味が自分の口の中に広がり拡散される。本当に最悪の風味だが仕方がなかった。俺はこの後その血を吸い尽くし、鳥の身体の内部を綺麗にくり抜き寝袋のようにして一夜を明かしたのだった。