44話 研磨
よし、、、行ける!高温の沼地を進む方法を思いついた俺は近くにプカプカと浮いてるモンスターの死骸を回収し、遠くでむしゃむしゃと口を動かしている亀の様なモンスターの気を引かせようとモンスターの死骸を振るが
「駄目か、、、」
しかし、周りに沢山のモンスターの死骸があるせいか俺達の方を見向きもしない。しょうがない暫く待つか、、、俺達が暫く待っていると周りのモンスターの死骸は粗方その亀の様なモンスターの胃袋の中に収まった。俺はそのタイミングを見計らって先程回収したモンスターをあのモンスターから見て俺達がいる方向に投げて少しずつ亀の様なモンスターを俺達の方向へと誘導して行く。水温が高温ではない場所から回収できる場所にあった死骸しか回収出来なかった為投げれる数はそう多くないが、これだけあれば十分だ。こうして、そのモンスターは俺達が手を伸ばせば届く程の距離まで来た所で、、、
「よいしょ!」
俺とアクアはそのモンスターの背に乗る。
「行くぞ!」
俺は進行方向目掛けてモンスターの死骸を投げては近くに落ちてるモンスターの死骸を回収しながら進む事にした。この亀型のモンスターは餌さえ投げとけばその方向に進んでくれる。これを利用し俺は高温の沼地に浸からずに先に進む事が出来るだろう。
(ブゥゥゥウン!)
進み出して直ぐに近くで嫌な羽音が聞こえた。
「!?属性付与土!」
俺は咄嗟に立ち上がり落下しない様に足を亀の甲羅にエンチャントで固定する。そして、
(バチュ!)
俺は刀を引き抜き向かって来た昆虫を斬り落とす。そして、それから次々と昆虫が向かって来た。殆どが毒持ちだがアクアの水のドームのお陰で毒はほぼ無効化される。そこで俺はアクアの魔法制御力もとんでもないと思った。いくら一つの魔法を展開し続けているだけとは言え上手く制御しなければ直ぐにマナが切れるだろうし、視界はクリアである。ドームをとんでも無く薄く展開している事がわかる。しかもその薄さで毒素が薄いとは言えこの効力だ。赤ちゃんでここまで出来るアクアは化け物だろう。今更なんだが、先程アクアを少し持ち上げた時俺は驚いた。思った以上に重たかったのだ。まぁドラゴンとしては小さい体長二メートル近くもあるドラゴンだ。重いに決まってる。良くあの巨大な鳥から逃げる時にアクアを担いで逃げたものだ。この世界に来る前の身体能力では到底無理だっただろう。
(ガキン!)
俺がアクアについて考えていると昆虫を斬った刀から嫌な音がした。やべぇ、また刀が欠けた、、、最後の刀もこうなったか、、、まぁ、虫程度斬るのに斬れ味もクソも無いだろう。そう思い俺は刀を再び構える。
(ガキン!)
いや、やっぱ前言撤回、、、これはキツいわ、、、勿論この昆虫斬りの作業は近くのこの亀型モンスターの餌を回収して、進行方向に投げる作業をしながらしていたのだが、俺が斬っていた昆虫は硬い甲殻を纏っている甲虫だったのだ。緑色の甲殻に紫色の光が少し反射している様に見えるカナブンの様な虫が大量に間髪入れずに俺を襲ってくるのだ。このままでは刀が保たないだろう。火でも吹くか、、、空気中にファイアエンチャントで炎を纏った刀で斬る事も考えたが結局刀が壊れるのは避けられないだろう。このままだといつ着くかも分からないのに序盤で武器を失うのは洒落になっていないだろう。俺は刀を振るい続けながら考える。刀の刃はもう殆ど使い物にならない状態で飛んでくる甲虫達も斬ると言うよりは叩き落とすに等しい状態で徐々に処理が追いつかなくなっていく。いっその事岩でも纏わせて鈍器としてカナブンを殴るか?いや、それでもはたき落とす事と大差は無いだろう、、、そして、俺は土属性のエンチャントを見てある技を思い付く。これなら、、、!延命処置は出来る!だが例えこの方法を使ったとしても刀が折れたりしてしまえば意味は無いだろう。
「属性付与土火!」
俺は何時もの様にゴツい岩を刀に纏わせるのでは無く薄く土を纏わせながら加熱して刀を振るう。すると小さな粒子が空気中に煌めき刀はカナブンを一刀両断する。地味に刀の刃は斬れ味が上がった様に見える。俺が考えたのは薄くした土を瞬時に加熱させ、ガラスの様な物質を作りそれを空気中で熱と刀を振るう事によって付着させ斬れ味を上げた様に見せかけているのだ。実際はガラスの細かい粒子で敵の表面に傷を付けその断面から斬り裂いているのだが、、、多少はガラスと刀の刃が擦れて空中で刀を研ぐ事も出来ているのだが、本当にそれは微量の効果しか無い。もう少し炎の火力が出せ、土魔法の強度があればガラスでは無く金属片の粒子熱で精製し、完全に刀を研ぐ事も不可能では無かったのだが、、、今の俺にはそこまでの実力は無い。そのまま俺はキラキラとガラスの粒子を煌めかせながら昆虫を断ち切って行く。
(バキッ!)
何時間か経ったのだろうか、、、?俺は刀を振り続け左腕の感覚は既に無くなりかけていた。そして、刀が大きな音を立てて折れる。元々刀は何度も何度も物を斬る事には適していない。良くここまで保ったものだ。そう思い俺は次は感覚の無い左腕に鞭を打ちファイアエンチャントで拳に炎を纏い昆虫を叩き落とし始めたが途中からアイスエンチャントに変えた。その方が虫の動きが鈍くなり対処がしやすいのだ。それにたまに殴った時に付着する霜とかのせいで高温の沼地に落下する虫もいた。流石にもう沼地からブクブクと泡は出てはいないが湯気がまだ出ている事から沸騰する前直前位の温度はあるのでは無いかと推測できる。そして普通この昆虫達は毒を持っている為直接殴る事は出来ない。だがアクアの水のドームのお陰で普通に殴れた。時々アクアが傷が回復する水魔法をかけてくれていたのだが、俺は途中で意識を失った。気がついた時には俺はアクアに守られる形で夜は明けており二十五階層への階段が見える位置まで来ていた。アクアの身体を触る。立派な鱗だ。あの巨大な鳥に襲われた時もだが生後直後は少し柔らかみのあった鱗も生後三十分も経てば硬く変わっていた。そのお陰でアクアはあの巨大な鳥からも生き延びる事が出来た。アクアは俺の上に覆い被さり昆虫達から俺を守っている。そして、器用に長い首を使い俺のマジックバックから餌を取り出し投げている。だが、俺は気付くアクアは身体中から血を流していた。それもそうだ。俺がいつ倒れたのかは分からないが夜通し俺を守ってくれていたのだ。俺は立ち上がろうとし、左手にも違和感を感じ確認する。
「これじゃあ、無理か、、、アクア、、、後少しだ!後少し耐えてくれ!」
俺の左手の拳は原型を留めないほど変形しており指も握れない状態になっていた。そして、身体も筋肉が硬直し動けない。そして、
「キュイィィイイ!」
次の階層へと続く階段が直ぐ近くに見え、アクアが今までに無い様な声で昆虫達を威嚇し、俺を口に咥え力強く亀型モンスターの甲羅を蹴る。そして、そのまま次の階層への入り口へと向かった。アクアがまだ生まれて一日と少ししか経っていない事を忘れる活躍だった。大きくなったらどれだけ強くなるのかは俺にも想像がつかない。そして、この知能、、、俺も負ける訳にはいかないな、、、そして、そこに転移碑はあった。俺はアクアに咥えられた状態で〈転移〉と唱え、アクアと共に拠点へとワープしたのであった。仲間が拠点で待っている事を信じて。