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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
19章 虚無エリア
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455話 陣

  今自分に攻撃を行える手段があるとしたならば、蛇の様に変化をした肉体を使って応戦する事位だと山西は考える。今いる場所は水中であって水中では無い。その為限界超越のスキルは使用不可能。それでもマナを使うことは出来る。


「身体能力は同じくらいみたいだけど、頭はそんなに良くは無いわね」


  山西は鋭い牙で切り裂かれて血を滲ませる自分の肩の切り口を左手で撫でながら正面のモンスターを強く睨みつけて再び口を開いて威嚇する。そして、それに挑発されたのか蛇の様なモンスターは尾をくねらせて自分の元へと加速する。先程よりも明らかに遅くなったその動きに山西の口元には自然に笑みが溢れた。こいつ相手ならば簡単にやれる。例え、攻撃した際に自分に痛みが返ってくるとしても。


  そう思った山西は自分の尾骶骨辺りに生えた違和感のある物体に力を入れて動かし、正面に構えて目の前のモンスターを待ち構えた。だが、山西の目の前のモンスターは自分とあと数メートルと言う間合いまで入り込んだ所で動きを変える。


「!?これは!」


  急激に泳ぐ速度を上げた山西の目の前の蛇の様なモンスターに山西は驚愕の声を上げる。それはただモンスターの動きが速くなったからでは無い。目の前のモンスターの姿が三重にぶれ、自分の目の前で姿を分裂させる。山西にはその動きに見覚えがあった。


潜在覚醒レイテント・アラウザル!」


  予想もしていなかったその動きに山西は若干反応が遅れたものの、自身に噛み付こうとした蛇の頭をすれすれの所で身体を翻しながら自身の尾を自分の首元に噛み付こうとしていた蛇の頭にぶつける事で回避する。だが、それで回避する事の出来た攻撃は二撃のみ。蛇に重なっていた二つの虚像が消え、山西の首元から大量の血が噴き出す。


  自身の肉体から血液が流れ出ている感覚は無いものの、これ以上の失血は不味い。感覚が無くても攻撃を食らって何のデメリットも無い。そんな事はない筈。何か悪影響がある筈だと山西は思って再び自分の首元に噛み付いた蛇の頭を引き剥がそうと首を回そうとして異変に気付く。


「しまった!」


  今の自分は首を噛まれている状態。つまり、首を自由に動かせない状態だ。この状態では相手の頭に噛み付く事は愚か、相手の頭の方へと視線を向ける事すらままならない。その状況が不味いと思った山西は即座に八重強化のスキルを発動させて対象の首根っこを掴む。相手の首に長く鋭い爪が食い込み、相手の首からは赤黒い靄が水中に流れ出る。


「――っ」


 それと同時に自分の心臓も握り潰されそうになり、山西は思わず声を漏らすが、今度はこの痛みを予測していた為、山西はグッと痛みを堪えて更に腕に力を込めた。自分が力を込めれば込める程自分の心臓は強く握られるが、関係ない。絶対に相手の首を離す物かと山西は強い思いを持って相手の首を爪で引き千切る。相手の蛇の様な頭が水中に舞い、それと同時に山西の腕が力を失い、ぶらんと垂れる。その時、山西は虚ろな顔で空を眺めていた。


 そして、相手のモンスターや周囲に出現していた赤黒い靄変化して出来た不気味な生物達は大量の水と共に姿を消した。再び戻った平穏な海岸。その中には黄金に輝く一つの霧状の扉が新たに出現していた。意識を失った山西がその扉に気付いたのは相当後だったと言う。







  場面は重光に移る。山西と同じく蛇の様なモンスターと対峙していた重光はかまをかける様に初手に魔法を詠唱した。詠唱した魔法は火球ファイアボール。込めたマナの量はそれなりに多いものの、水中で放って良い技では無い。だが、重光は火球ファイアボールの魔法を詠唱して直ぐにポツリと呟く。


「そう言う事ね」


  水中にも関わらず、水を無視して対象に向かって業々と炎を立ち昇らせながら真っ直ぐと向かって行く火の玉を眺めて重光は理解する。自分の感覚としては水中にいる様な感覚であり、実際に浮力も水中にいる時と然程変わらない様に思える。だが、自身が水中にいても自分の声がはっきりと聞こえる点や、呼吸が行えると言う本来とは違う点で相違点を重光は感じた。それは自分の身体が変化した為に、その変化を感じなくなっているのか?それとも、自分が実在しない幻術で感覚まで幻術を見せられているから今の状況にいるのか?重光はそれを確かめたかったのだ。今重光が魔法を放った事によって重光はその状況が後者である事を確信して周囲にいるモンスター達を見渡して笑う。


「まだ幻術の世界にいる事は確定したのだけど、解決策を見つけないとどうにもならないわね」


  自身が放った火球は真っ直ぐと蛇の様な見た目をしたモンスターに向かって行くが、蛇の様な見た目のモンスターはそれを避けようとしない。そして、そのモンスターの手元には赤い魔法陣が浮かぶ。火球ファイアボールの術式。それを見た瞬間重光はすぐに術式内容を理解し驚く。驚いた点は当然魔法が火球ファイアボールだったからではない。火球ファイアボール程度の魔法ならば使えるモンスター位は存在するだろう。重光が驚いたのは込められたマナの量や魔法陣の形成速度、射出速度まで自分と全く同じだったからだ。


  そして、その形成された魔法陣から放たれた火球ファイアボールは重光が放った火球とぶつかり合い大きな爆発音と火花を立てて相殺される。火球ファイアボールの魔法を詠唱して直ぐにも関わらず、反撃とばかりに自分の周囲に複数の魔法陣を浮かべる相手に対して重光は思う。もしも、自分と相手が完全に同じだとしたならば……。




  無限に魔法が使える。そうなった場合は勝負が付かないだろう。と。重光は一先ず相手の魔法に対処する為に相手と同じ魔法を四列詠唱で詠唱しながらどうやって相手を押し込もうかと思惑する時間を作る事にした。

 


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