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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
19章 虚無エリア
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454話 法

  山西と同様に突然荒れ狂う波に襲われた重光はそっと手を翳して魔法を詠唱する。当然詠唱する魔法は風のバリアを形成する事のできる旋風ホイールウィンドなどを組み合わせた複合魔法だ。魔法が詠唱出来るのかどうか不安だった重光は自分の目の前で徐々に形成されて行く魔法陣を見てホッと心を撫で下ろす。当然安心するのはまだ早い。だが、一先ず魔法が詠唱出来なかったらその時点で終わりなのだから、重光が安心するのは当然の道理であった。


「ここは鏡の世界みたいね」


  重光がそう呟くが、そう呟く重光の表情はどこか引き攣り、喜びの色は一切現れていなかった。重光がその様な表情をするのも無理は無い。水面に映った鏡を潜った先は見知らぬ世界。そして、そこに広がっていたのは美しく広がる海岸。それと幻術に掛けられた世界。それを合わせて重光は幻想郷。不思議の国のアリスと掛け合わせて皮肉な一言を呟いたのだ。決して美しい世界に酔いしれて言葉を発した訳では無い。


  重光の周囲を覆う波は風のバリアの外で大きく荒れ狂う。だが、今の所は波がアビス戦の時の様に貫通して流入してくる程の威力は持っていなかった。それを確認した重光は、一旦周囲の景色を見渡す為に周囲の火属性の魔法を発動しようと詠唱を始めた。重光の杖付近にマナが集まり、赤い魔法陣を築き上げる。だが、魔法陣半分程完成した所で重光の風のバリアの中に赤黒い靄の塊の様な物が風のバリアを無理矢理こじ開けて侵入する。


「そんな!一体、どうやって!?」


  重光はその赤黒い靄に気が付くが、火属性魔法を詠唱中だった重光に別の魔法を詠唱する時間を与える程赤黒い靄の塊は優しく無かった。赤黒い靄は素早く動き、重光の口から体内へと侵入する。体内に異物が侵入して掻き回すと言う気持ち悪さに、重光はマナコントロールの難しい風のバリアの魔法詠唱を解除してしまう。それと同時に重光は波に包まれ、海の底へと沈んで行く……筈だった。


  重光は思っていた。何故あの赤黒い靄の侵入に気が付けなかったのか、風のバリアを展開していたならば、異物が侵入した時点で普通は気が付く筈なのだ。それなのに重光は自分がそれに気が付けなかった事を悔やみ、自分を責める。だが、不思議と波が自分に打ち付けて来た際に痛みは感じない。その事に気が付いた重光は再び風のバリアの魔法を発動させようと杖を握ろうとして異変に気が付いた。


「杖が無い!?」


  そして、自分の手に鱗が生えている事に。


  波に呑まれても自分ならば風のバリアがある為窒息はしないと考えていた。例え風のバリアが無くても異世界で強化された自分の肉体は長時間の潜水にも耐えられる。その為、窒息に関しては考慮していなかった。重光が懸念していたのは波に呑まれた場合に受ける荒れ狂う波や大質量の波が一度に自分に覆い被さる事によるダメージと、波に呑まれた事によってパニックに陥って魔法詠唱が上手く行かなくなったり無駄に空気を吐き出してしまって溺れてしまう事の危険性についてだった。


  だが、実際にパニックには陥ったものの、想定とは全く異なる状況に重光は困惑する。重光にとって自分の姿が変化した事など、二の次でそれ程気にならなくなっていた。


  自身の目の前で自分を見つめる蛇の様な生き物。その生き物の姿は山西と一緒なのだが、そんな事を重光が知っている訳が無かった。この二人が何故同じ場所で同じ境遇に置かれたのかは、この階層を作り、管理している奴にしか分からない事だった。






  場面は山西の方へと切り替わる。

  自分を睨みつけて尾を激しく左右に動かして水中を加速する目の前の敵に向かって山西は身体を翻して相手の身体を避けようと試みるが、水中にいる影響なのか思うように身体を動かせず、肩の辺りを目の前にリザードマンの様なモンスターに噛み付かれ己の鮮血が水に溶けて周囲に広がる。


  痛い。だが、不思議と血液が流れ出た際に感じる冷たさの様な物は感じなかった。水中だからだろうか?と思った山西だったが、それは違うと思って首を振り、自分の肩に噛み付いた蛇の様な頭を左手の拳で殴り、突き放そうと試みる。しかし、やはり水中と言う事が詠唱しているのか、突き出した拳の一撃は遅く、弱い。


  それを理解した山西は若干躊躇したものの、自らの口を大きく開いて蛇の頭に思いっ切り噛み付いた。口を開けた瞬間、顎関節が大きく外れる様な感覚と共に下顎が大きく開く、正にそれは蛇だ。そして、山西の牙が自身の肩に噛み付いている蛇の頭に突き刺さった時、山西が感じたのは覚悟していた鉄の様な血の味では無かつた。


「ぁぁぁっ!?」


  山西は思わず声にならない様な叫び声を上げながら両腕で自分の胸を押さえて噛み付いた筈の口を開けて対象から離れる。自身の牙が突き刺さった対象の頭からは血では無く、赤黒い靄が水に溶ける事無く塊として噴き出し、姿を消していく。山西が感じたのは肉体の痛みでは無い。心の痛みだ。心臓を直接握られた様な激しい痛み。


「はぁ、はぁ」


  次第に激しくなっていく自分の鼓動を落ち着けようと山西は自分の胸に手を当てて自分の正面にいる負傷した蛇の様なモンスターを強く睨んで笑う。


「何となく理解したわ。この意味不明なエリアを作った胸糞作者が考えそうな事だわ」


  その時の山西の表情はまるでこの階層から抜ける解決策を自分で見出したかの様な表情をしていた。


 


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