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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
19章 虚無エリア
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450話 怒

  霧状の紫色の扉を潜った添島は何処としれない荒廃した島にいた。島の地面は黒ずみ、木々は殆どが枯れてしまっている。大地には大きめの岩がゴロゴロと転がり、島の海岸線には雲海がかかっている事から添島は現在の場所を天空島の様な場所だと仮定する。


「海岸線が近いって事はここは島の端なのか?」


  真っ白な雲が海の様にどこまでも広がり、明るい印象を受ける海岸線とは反対にどこまでも続いている荒廃した陸地を添島は眺めて肩を竦め、地面を踏みしめる。硬質な印象を受ける黒っぽい岩石で出来た地面は案外脆く、添島が脚を踏み出す度にサクッサクッと砂糖菓子を噛んだ時になる様な軽快な音が周囲に響き渡って添島の足は若干地面に沈んだ。


  標高が高い場所なのだろうか?それでも添島は寒さを殆ど感じない。添島は己が身に付けている防具の温度調節機能が働いている影響も考えるが、どうも原因はそれだけでは無さそうだった。そして、自分の周囲を覆う様に発生した赤黒い霧を見た添島は自分の口元を覆って目を顰める。


「有毒ガス……か?一体どこから湧いて来た?」


  添島は突然湧いて来た毒ガスの様な物体の発生源を探りながら口を塞ぎ、出来るだけ気体を吸い込まない様に試みる。正直今の自分の肉体であれば、少々の毒は効かないのだが、今いる場所が迷宮の下層である事から添島は今自分の周りを覆っている気体が強力な毒を持っている可能性を考えていた。見た目としてはただの霧の様な気もしない事は無いが、赤黒い色の霧など添島は見た事も聞いた事も無い。この階層に入った時点でその霧が発生していたならばまだしもそんな物が突然現れたならば添島が警戒するのは当然と言えた。だが、添島が周囲を幾ら捜索しても霧が出ている根源を見つける事は叶わない。


  何故ならば。その赤黒い気体は添島の心から発生している物なのだから。気体の出所を発見出来なかった添島は次第に表情を曇らせる。そして、添島は気体の出所を探すのをやめた口元から手を退けて、大剣を構えた。呼吸を止めたまま大剣を横薙ぎに振り回して周囲の気体を拡散しようと試みるが、添島の動きによって周囲に霧散した赤黒い霧はすぐに集まり添島の近くで塊を形成する。


「おいおい。マジかよ」


  幾ら追い払っても自身に纏わりつく様に発生し、生物の様に動く霧に気持ち悪さを感じた添島は武器を振るうのをやめて一歩退く。赤黒い霧が大きな動きを見せたのはその直後だつた。添島が退けた左足が脆い地面を砕き、音を立てて食い込んだ影響で添島は素早く動く赤黒い霧を回避する事が出来ずに吸い込んでしまう。いや、元から回避出来る筈は無いのだ。元々その赤黒い霧は添島から生まれた物の為、赤黒い霧が動く速度を添島の身体能力で大きく上回る事は出来ない。


  口から胃の中を掻き乱す様に体内に入ってくる異物に添島は何かを叫ぼうとしたが、想像とは違った感触に違和感を感じて自身の体内に今にも入ろうとしている異物に対して素直に応じる。胃の中を掻き乱すと言うよりかは、心を掻き乱す様な感覚だ。気持ち悪い事には変わりない感覚の筈なのだが添島は、この異物に何かの意味を感じていた。


  添島の口から異物が外に出ると添島は異物が体内に入っていた気持ち悪さで青ざめた顔で口元の唾液を狂気の笑みを浮かべながら拭って何かの異変に気がついた。


「成る程な」


  先程まで鎧を着込んでいた為、自身の手が直接自分の顔に当たる筈は無い。それなのに直に顔を撫でた手の感触に添島は笑う。ゴツゴツとした漆黒の鎧の様な身体と背中に感じる不思議な感触。それを確認して添島はこの世界がまだ精神世界の中である事を悟る。


  添島の目に入ったのは周囲に発生した自分を狙う大量のモンスター達と自分の正面で巨大な岩に座り自分を鋭い眼光で睨みつける漆黒の悪魔の姿。周りのモンスター達は指示を待っているのか全く動きを見せないものの、唸り声をあげて添島を牽制する。


 真っ黒い鱗を持ち、口から黒い煙を上げているワニの様なドラゴンや、同じく漆黒の毛皮を持つ狼、それとは対照的に真っ白な純白の毛皮を身に纏い、頭に巨大な捻れた一本の角を生やしているユニコーンと呼ばれる神話のモンスターなど、周囲に出現したモンスター達の姿は様々である。


「これを全て倒せって事か?」


  慣れない新しい身体を試す様に腰を捻って添島は空中に回し蹴りを放つ。自身の長い爪の生えた鉱石の様に不気味で漆黒の脚が視界に入り添島は苦笑を浮かべた。


「身体能力は問題無し……と」


  目の前にいる悪魔と自分の姿が類似している事を理解した添島は背中に生えている不思議な感覚に身を任せて力を込める。今まで感じた事の無い感覚に添島は戸惑うが、添島の背中に生えていた二本の翼は添島の意思に従って大きく動き、添島の身体は地面から離れた。添島の視線は大岩に座る悪魔と同じ高さまで上がり、添島を睨みつける悪魔に負けじと添島も目の前の悪魔を睨みつける。


  目の前の悪魔は人間の様な肉体を持っているものの全身の皮膚が黒く、皮膚の表面には小さな鱗が散りばめられており鉱石の様に硬質な印象を受けた。頭には二本の羊の様な角が生えており、背中には人間には存在しない翼が一対ある。服や武器は所持していない様子だったが、それは添島も同じだ。


「スキルも発動可能か」


  添島は全身に気を纏って腰を引いて構えを取る。翼が使えるのならば、あまりに脆い地面で脚を取られる位なら、空中で戦った方が無難だと考えた添島は空中戦を選んだ。それに対して相手の悪魔も添島の真似をして構えを取り、お互いが動いたのはほぼ同時だった。


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