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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
18章 轟雷エリア
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432話 半蘇生治療

トール達を撃破した俺達は意識を失った尾根枝の為にも急いで転移碑を探す。トール達を倒してから神殿の地面に緑色の紋様が示され、暫くその紋様通りに進むと神殿の突き当たりに到達する。壁沿いにも緑色の紋様は続いており、それを辿っていくと緑色の紋様が一点に集まって収束している場所があり、そこを腕で押すと神殿の壁に亀裂が入り動き始め、一つの五十畳程のそれなりに広い部屋が出現した。その部屋には転移碑が設置してあり、奥には巨大な白い霧で出来た扉の様な物がある。いや、霧の扉と言うよりは霧その物にも見えるな。霧には薄っすらと階層間を示す虹色の膜がかかっている事からそこから先が八十六階層なのには間違いは無い。


先に下見に行くかどうか考えたが普通に考えて尾根枝の命が優先である。尾根枝の胸に手を当てると心臓は止まっており、尾根枝の身体の温度も下がって来ていた。俺達はそれを信じたく無いのか現実を逃避する様にジジイに縋る思いで転移碑で拠点に向かってワープする。


拠点にワープするや否や俺達は急いでジジイを探す。この時ジジイは倉庫の辺りに居たのだが、ジジイは俺達の気配を感じたのか、倉庫の辺りからゆっくりと足を進めてアクアの背中の上でぐったりとしている尾根枝の方を凝視する。


「これはまた派手にやったのう。一応仮死状態じゃが、仮死状態に入ってから相当時間が経っておるな。治癒力を向上させようにも既にこやつの細胞は硬化を始めておるのも厄介じゃ」


ジジイの辛辣な言葉に俺達は声が出なかったが、ジジイはまだどうにかなるかもしれんと言う表情で言葉を続ける。


「じゃが、幸いにもこやつの全ての細胞が死んでいる訳では無い。一応ワシの全快フルメディックヒールは死にかけた細胞すら再生させ、例え身体の大半を失っていたとしても本人が死亡さえしていなければ再生出来る魔法じゃ。これを使えばこやつを回復させる事は出来るじゃろう。あと仮死状態に関してもそれはワシの専門分野じゃよ。ワシは衝撃使いじゃ。ただし、身体の大半の機能を失って尚治癒力を向上させて治療すると言う事は多大に生命力を消耗する。マナ形成型の場合はこやつ程の力を持つ人物の組織を作るとなるとワシでもかなり辛いわい。時間は要するじゃろうな」


俺はジジイが以前添島の致命傷を治す時に使った全快フルメディックヒールを思い出した。あの時はジジイが調子に乗って添島の身体スペックを上回った回復をした為、ジジイは若干疲れていた。それでも幾ら過大回復を怠ったとは言っても当時の俺達の戦闘力は高が知れている。あの程度の戦闘力の人物を回復させるのにもあれだけジジイがマナを消耗するのだ。あの時、添島自体に疲れがあまり残って居なかった事からあの時使ったのはマナ形成型の回復魔法だ。


それを考えると今の俺達と同レベル、いや、ある状況下においては俺達以上の戦闘力を誇る尾根枝の肉体をマナ形成型の魔法で再生するのにどれだけ手間がかかるかは想像するに容易い。治癒型の魔法は現在の尾根枝の生命力が極限まで低下している為、あまり使用は出来ないだろう。それを考えると時間がかかるのは当然の事だ。


「お主らを出来るだけ早く且つ自分の力で迷宮を進ませねばならない為、こやつの治療は今は死なない様に処置だけ施して先に装備品を仕上げるわい。なぁに気にするで無い。きっと助かるわい。ワシを誰だと思っておるんじゃ?」


ジジイはそう言いながら俺達の壊れた鎧を確認し、額に薄っすらと汗を浮かべて尾根枝に対して全快フルメディックヒールの魔法を発動させた上で高速で何かの魔法を詠唱して、尾根枝の身体の周りに緑色に可視化出来る霧の様な物を纏わり付かせた。その処置を施した上で俺達から素材と装備品を受け取って鍛冶場へと向かう。


「急いでる所悪いんじゃが、流石にワシも並行作業を行う故、装備品作製のペースが落ちる。三日程かかるかもしれんが、良いかの?」


ジジイはかなり申し訳なさそうに俺達の方を振り返りながら謝るが十分過ぎる。普通の鍛冶師ならば数ヶ月かかってもおかしく無い作業をたったの三日で。いつもの二倍位時間がかかる為、ジジイにしては遅いのだろうが、元々の製作速度が異常なのだ。俺達は尾根枝が無事復活する事を祈りながら自室へと戻って横になる。食料に関しては溢れる程マジックバッグに入っている為、この三日の間は自分との時間だ。多分この事に関しては重光が一番感じている筈だ。自分が上級回復魔法まで使えていれば、尾根枝がここまで治療困難な状態になる事は無かったと。


勿論全てが俺達のせいでは無い。それに戦闘を行う上でそれは想定すべき事だ。ジジイも尾根枝を治療してくれる為、尾根枝の事を信じて俺達はただ先を目指すだけで良いのだ。


そう俺は自分に言い聞かせながら眠りについた。


そして、俺が目を覚ますと俺はまたあの夢の世界にいた。しばらく夢を見ていないと思っていたが、またこのタイミングでこの夢を見るとはな……さて、今回はどの様な映像を見せてくれるのやら。俺は夢の続きを想像して自身の胸を強く掴んだ。


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