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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
18章 轟雷エリア
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427話 ミョルニルの祝福

速い!?トールが大地を駆ける速度はオーラドーム発動時の添島の速度にも匹敵する。そんなトールの横について追いついた者が一人、いや、一匹いた。アクアだ。アクアはトールと並走しながら口を開けて、強烈な冷気の息をトール目掛けて吐き出した。トールの肉体が霜に包まれ、次第にトールの表面が凍り始める。


「やりおるな。感心だ。だが、我輩が何の策も無しにただ走っただけに思えたか?本音を言えばお前達が我輩に追いつけるとはこれっぽっちも思っていなかったが、現にお前は我輩に追いついた評価する。ミョルニルよ!来い!そして、縮小せよ!」


トールは先程までとは違ってニコニコと満面の笑みを浮かべ、亜蓮に狙いを外されてあらぬ場所に飛んで行って地面に突き刺さっているミョルニルの方向へと左腕を翳しながら右脚をアクアのいる方向へと勢い良く踏み込んで腰を回転させる。腰を回転させた事によってトールの右腕の拳が放たれるが、アクアはそれを尾をしならせて弾き、距離を取った。その間にトールはミョルニルの槌を小さくして手元に取り寄せた様子だった。トールはアクアへと拳を放ったのは茶番だと言わんばかりに拳を振り抜いた姿勢から投擲の姿勢に身体を変えて今度は左脚をサンダーがいる方向へと向けて大きく踏み込んだ。


トールめ……今度は何をするつもりだ?ミョルニルをサンダーに目掛けて投げようとしている?俺はそれで最初にトールがここに現れた時の事を思い出した。一筋の雷光。そう表現するのに相応しい一撃だった。俺は抉れて無くなった鎧の肩の部分を見て警戒を強める。何故サンダーに向かってミョルニルを投擲するのかは分からない。だけど、何か嫌な予感がする。


今俺はトールにミョルニルを投げさせてはいけない気がしていた。考えろ俺!トールはここまでほぼ死にかけにも関わらず、サンダーに固執していた。それは何故か?それが単なる慈悲では無い事は明らかだ。それにトールの発言からもサンダーと共にまだ戦えると言う意味が込められている様な気がする。サンダーとトール何か策があるのだろうが、それは俺には分からない。分かる筈が無かった。完全に情報不足だった。


このトールの行動の意味がこの時の俺に理解出来ていたならば確実にその行動を亜蓮を使うなりして辞めさせただろう。だけど、俺は咄嗟にこのトールの行動を辞めさせる事が出来なかった。


トールの左手から一筋の雷光がサンダーに向かって走り、神殿は大きく揺れる。トールがミョルニルを投擲した場所からサンダーがいた場所にかけて神殿の地面が大きく抉れ、金属が融解する。そして、サンダーがいた場所には大穴が開いていた。そして、俺は感じた。大穴の中から現れた大きな気配を。


「手間かけさせやがって……。行くぞ、サンダー。戦の準備だ。直ぐに歯を研ぐもの(タングリスニル)歯ぎしりするもの(タングニョースト)戦車チャリオットを用意しろ」

《分かってるさ。もう油断はしないさ》


大穴の周囲を明るく照らして激しく身体を青く点滅させるサンダーの姿は既に俺達が見た事のある姿では無かった。虎の様な容姿を象っていた稲妻は既にそこには無く、そこにあったのは山羊の姿を象った稲妻と古代ヒッタイト人が使っていた様な簡素な戦車を象った稲妻だ。


その稲妻は勢い良く動き、トールの肉体に適応する様に纏わり付いて一つの姿を成す。


「これだ。こうでなくては!!ミョルニルよ。我輩の手の元へ来い!そして、肥大せよ!」


トールの全身を青い稲妻が包み込み、トールの青白い肉体は赤熱し、まるで全身が燃えている様に赤く染まる。元から赤かった長い髪と髭は逆立ち、鬼神の様にも見えなくも無い。赤く染まった肉体の外側からは青白い稲妻がトールの全身を余す事無く包み込み、元から大きかったトールの肉体をさらに大きく見せた。トールが全身から放つ電気の強さはボス部屋侵入時のサンダー以上。トールの下腿の下には簡素な戦車と二頭の山羊の姿を象ったサンダーが不気味な笑みを浮かべて俺達を舐める様に周囲を確認していた。


その悠々とした様子は二人が合体した今お前ら何ぞ敵では無いと言っている様子だった。トールの右手にはしっかりと巨大化して、槌としての役割を果たせる様になったミョルニルが握られており、俺達に緊張感が走る。


ミョルニルの攻撃だけは食らってはいけない。トールの拳とは違って少し技の出が遅いと言う欠点はあるものの、威力はお墨付き。食らえばほぼ即死のヤバい武器だ。トールが力を誇示する様にミョルニルを軽く横に振るうとそこから一筋の雷光が走り、直線上に神殿の地面を薙ぎ払う。その光線は何の抵抗も無く地面を焼き切り、切断し神殿の柱を切り落とした。


「ふむ。やはりこの武器は我輩が握ってこそ生きる武器よの。では行くぞ?覚悟は良いか?」


トールはミョルニルを試してその威力に満足したのか、ニンマリと口元に笑みを浮かべた。そして、軽く身体を動かすかの様なノリで俺達に問いかける。勿論その問いに対しての返事はノーだ。だが、そんな事はお構い無しにトールは左腕でサンダーと自分を繋いでいる雷で出来た手綱を引いた。稲妻で出来た山羊が大きく吼え、トールの肉体が乗っている戦車を稲妻で出来た山羊が上半身を大きく仰け反らせて引いた。その瞬間トールの肉体は雷光の様に加速し、一瞬で俺の目の前へと現れる。


速い!その速度は先程までのトールよりも更に速く、オーラドーム発動時の添島でも追いつけるかどうかと言う速度だった。


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