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学校内の迷宮(ダンジョン)  作者: 蕈 涅銘
18章 轟雷エリア
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426話 雄々しき巨人

「一撃だと……!?」

「嘘だろ!おい!尾根枝!意識位残ってるだろ!起き上がれよ!」


あまりの衝撃に俺達は動揺して連携を崩すが、尾根枝が一向に立ち上がる気配が無いのを見て一旦落ち着く事にする。しかし、トールがミョルニルを直接振るったならまだしも、肥大化して落ちてくるミョルニルを受け止めただけでこれとは……恐るべき威力だ。尾根枝が立っていた場所の地面は大きく抉れ凹み、表面は赤熱して未だに蒸気を放っている。尾根枝が自身の肉体で殆どの衝撃を受け止めて尚、地面にこれだけの衝撃が伝わっている……トール……想定外の強さだ。


今の所、確認できたのはミョルニルと言うトールの武器の危険性位で、トール本体の強さは未知数である。だが、かなり離れた場所から一瞬で俺達の元へと現れたり、即座に大剣を抜き放って出した攻撃とは言え添島の攻撃を拳で受け止め尾根枝の事で動揺した添島を力で押している辺りトール本体も相当強い。動揺して、大剣に込める力が緩んだ添島をトールは追撃しようと一歩踏み込むが、添島も形成を立て直そうと距離を取る。


それを見たトールは何故か距離を詰めようとはせずにニヤリと口元を綻ばせたまま拳を収めて尾根枝を押し潰す様に地面に減り込んでいるミョルニルを確認したかと思へばサンダーの元へとゆっくりと歩き始めた。一先ず尾根枝が死んでいなければジジイの元で治療可能だ。重光の治癒魔法も深層の傷は治せないにしろ、時間を稼ぐ位は出来る。


トールの野郎……今添島を追撃しようと思えば出来た筈だ。それなのに何故追撃しなかった?最初の稲妻の様に速い瞬間移動を使えば簡単に添島に追いつける。何か発動には条件があるのは間違いないだろう。奴が俺達を今追撃する気が無いのならば、奴を攻撃するチャンスだ。


実体が無いサンダーと比べると実体が存在しているトールの方が攻撃は通りやすい。サンダーが居ない今がチャンスなのでは無いか?そう思った俺はマナのバイパスを伸ばしてトールの進行上に配置し、その状態で両手にもマナを込めて重光が作り出した足場を走る。


「こんな小細工が我輩に通じるとでも思ったか?」


俺が張り巡らせたバイパスに触れたトールは即座に身体を反転させて走る。それこそ、俺の共鳴属性付与レゾナンスエンチャントの爆発が間に合わない程の速度で。それでも、少しずつ爆発を食らっている事から完全に攻撃を避けられて居ないのは確かだ。


「添島!」

「む?我輩の前に立ち塞がるか?」


俺に向かって一気に距離を詰めるトールに対して先程後ろに距離をとった添島が通路を塞ぐ様にトールに対して距離を詰めて大剣を構える。その構えは先程の様に即席で構えた構えでは無く、しっかりとトールを打ち砕く為に構えた構えであった。添島はしっかりと重光が作った足場を踏み、重心をトールの方に傾ける。そんな中俺は嫌な予感がしていた。何故ならばトールは添島の方を一切見ていなかったからだ。トールが見ていたのは倒れている尾根枝がいる場所……つまり、巨大化したミョルニルが地面に減りこんでいる場所だ。


「無駄な事を。お前もあの愚かな者と同じ運命を辿るが良い」


ミョルニルの方をちらりと確認したトールは再び添島の方に向き直り、左腕をミョルニルの方へと向ける。


「来い、ミョルニル!」


トールがミョルニルの名を叫んだ瞬間、肥大化したミョルニルは巨大な雷を纏って添島の真上にあった。あの一撃は尾根枝を一撃で沈めた攻撃だ。防具があると言えども絶対に食らってはいけない攻撃だ。既に大きな構えに入り、大剣を振りかぶっている添島はこの攻撃を避ける事は出来ないだろう。どうする?転移座標印付与は元々座標印を設置していないと発動出来ない。その為、あの技を二度発動させて添島を回収する事は不可能だ。それに印も設置していない。


指向性除去ディレクショナル・リムーバル!」


俺が悩んでいると上空から亜蓮の声が聞こえ、ミョルニルが進行方向を変えて亜蓮の方に吸い寄せられているのが確認出来た。その影響でミョルニルによって確実に添島を殺れると思い込んでいたトールは添島の動きに反応が鈍る。


「ぬ?何だ?」


拳で添島の大剣を受け止めようと添島の大剣の腹を殴るがしっかりと構え、大きく振りかぶった添島の大剣の一撃はその程度では揺らがない。添島の一撃を逸らしきれないと踏んだトールは後退しようとして、足元に何かが絡まっているのに気付き、口端を下げて眉を吊り上げた。重光の魔法によりトールの足には硬化した土が纏わりついていた。トールはその土を足で砕くが、もう遅い。既に添島の大剣の鋭い刃はトールの分厚い胸元をざっくりと切り裂いていた。


「ぐっ……わっはははは!悪かったな、舐めてかかって。一撃貰ってやったのだから我輩の一撃も食うがいい」


トールの胸元から赤い血が滴り落ちるが、トールに大きなダメージが入っている様子は無く、寧ろトールは大きく口を開けて笑いながら怒りの形相を浮かべ、腰を大きく捻り、右の拳を添島の脇腹に叩き込む。ベコッと言う金属が凹む音と共に添島の身体が宙に浮き、重力を無視しているかの様に地面と垂直に添島の身体は飛び、その肉体は再び重力を受けて落下し始める。


「そうだ。それで良い。まだくたばるなよ?あのデカ物と同じ様に一撃でへばって貰っちゃ相手にもならんからな!もう一撃叩き込む。攻撃を教えてあげるだけ優しいと思え!」


添島はまだ意識をなんとか保っているようで、大剣を身体の正面に構えて防御の姿勢を示すが、トールは容赦無く拳を構え、落下してくる添島を待っていた。


内部圧縮属性付与インプレスエンチャントファイア

「ぬ!そう言えばお前もいたな。別に忘れていた訳では無い。ただ流石にサンダー無しだと我輩も中々本来の力が出せんでイライラするな」


重光が作った足場を駆け、トールの顔面目掛けて俺はドリル状の炎を腕から噴出させるが、トールはそれを両腕で易々と防いで言う。いや、易々では無い。俺の炎を防いだトールの両腕の表面からは黒い煙が上がっており、若干ではあるものの傷が付いている。その為トールが俺達の攻撃で少しずつダメージを受けている事は確定だった。それでもトールの身につけている手袋は一切傷がついていなかった。


今の攻撃が最大火力では無いとは言っても普通の金属であれば一瞬で融解する温度の筈だ。それでも一切傷が付かないと言うのは俺にとっても驚きだったが、今はそんな事を気にしている場合では無い。


空中から落下する添島をアクアが回収し、俺とトールは正面から向かい合う姿勢のまま睨み合う。するとトールは拳を降ろして言った。


「そうか、そこまでお前らが死にたいのであれば今すぐにでも終わらせてやろう。我輩との競走にお前らが負けたのであれば、お前らは確実に敗者となるであろう」


口元に笑みを浮かべながらこの言葉をゆっくりと確実に発したトールは俺に背を向けて大地を駆ける。その先は紛れもなくサンダーの元へと走っていた。トールを俺達は止められない。それ程までにトールの大地を駆ける速度は速く、勇ましかった。













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