41話 脱走
「ぐわぁっ!」
巨大な鳥の鉤爪が俺の肩に突き刺さり鮮血が舞い。強烈な痛みが俺を襲う
「ぐわぁぁぁぁあ!」
俺は地面に転がり込み肩に手を当て痛みに転がり回る。だが、今回復魔法を使える仲間はいない。何故この生まれたてのこの小さなドラゴンを庇ったのかは自分でも分からない、、、だが、気付くと体が勝手に動いていた。そして、俺は地面にひれ伏している。元々敵う相手では無かったのだ。今までは仲間がいたから、、、俺一人では何も出来なかったんだ、、、ここまで無力感を感じたのは初めてだ。
「キュイィィ!」
その小さなドラゴンが心配そうに声を出し俺の方に近づいてくる。
「来るな!、、、逃げろ!」
俺はそう言いながら肩を片手で押さえながら膝を突き立ち上がる。
「属性付与、、、火、、、っ!?」
そして、エンチャントを発動しようとしたが俺がエンチャントを発動した時には巨大な鳥の鉤爪が俺の顔のすぐ横にあった。終わった、、、俺がそう思った時だった。
「キュイィィ!」
(バシャン!)
これは!?水魔法、、、?
「ぐはぁぁあ!」
俺は巨大な鳥の鉤爪を頰に食らい吹き飛ばされた。ぐっ、、、っ!?俺は攻撃を受けた顔を触り驚いた、、、血が止まってる!?今何が起こった、、、?俺は確かに顔に奴の攻撃を食らった。そして、吹き飛ばされた筈だ。あの威力の攻撃を受けて無傷な訳が無い、、、そう思い先程の事を思い返す。そして合点がいった。もしかして、あの小さなドラゴンが?そう、先程鳥にやられる直前あの小さなドラゴンは口から俺の顔位のサイズの水球を飛ばし鳥の攻撃を緩和した。俺はただの水魔法かと思ったがあれには回復魔法の効果も含まれていたらしい。赤ちゃんであれとか、、、将来が楽しみだ、、、でも何であんな強力な種がこんな階層に、、、?まぁそれは後だ!今は奴を倒すか逃げるかだ!そして、今俺が取れる選択肢は一つ!
「はぁぁぁあ!蒸気!」
俺は奴がいる前方に向けて自身の腕に付与したファイアエンチャントのマナを全力で噴き出させ加熱させる。そして、空気中の水分を全て水蒸気に変え噴出させる。高温の蒸気が奴の方向に物凄い勢いで噴出され辺り一面は高温になりまるでサウナのようだ。そして、奴が怯んだ。その隙に俺は小さなドラゴンを抱え込み木の幹の方へと走る。そして、
「しっかり掴まってろよっ!」
俺はそう言い木の幹に手を翳しながら飛び降りた。
「キュイィィ!」
手元のドラゴンは何故か何処か楽しそうである。下から風が吹き俺の視界は遮られ、髪が靡く。流石にこのまま勢いを殺さず降りると死ぬ、、、だから、これを使う!俺は靴を木の幹に接地させる。
(ズザザザサ!)
木の表面を削りながら俺は落下していく。勿論俺の落下する勢いがこれで収まる筈も無く更に加速していくばかりだ。だが
「属性付与!土!」
俺は靴に土を付与しマナを込める、、、すると
(ズガガガガガ!)
靴と木の間に接着剤の様に岩が作られては落下の勢いで壊され作られては壊されを繰り返し俺は落下の勢いを弱めて行く。だが、それで俺にかかる負荷も半端ない訳で、、、
「ぐっ!」
俺は肩の傷口が開いていくのを感じていた。そして、
「はぁ、、、はぁ、、、やっと止まったか、、、」
俺は肩から血を流しながら木の中腹辺りに土の足場を作り息を吐く。後は下に降りるまで足場を作っては下りてを繰り返すだけだ。
「キュイィ?」
小さなドラゴンは大丈夫?とでも言っているかの様に鳴き声をあげる。そこで俺は再び考える、、、この小さなドラゴン、、、先程も言った様に産まれたてで傷が回復する水魔法を使える様な上位種が何故こんな階層にいるかだ。まず先程の鳥の巣、、、あの巨大な鳥のモンスターはこのエリアの他のモンスターと比べてもかなり格上のモンスターだ。少し前に戦ったフクロウなんかとは格が違う。そして、あの巣にあった卵、、、あの鳥の激昂した様子を見る限りあの卵はあの巨大な鳥の卵と見てほぼ間違い無いだろう、、、それなら一つだけ何故この小さなドラゴンの卵があそこにあったのか、、、という事だ。可能性としては他のドラゴンの卵をこの鳥が餌として巣に運び入れたという事だ。実際この沼地エリアに入ってから最初に甲羅を背負った亀の様なドラゴンは見ている。だが、この小さなドラゴンとは容姿が違いすぎる。そして、まだ見ていないがこのドラゴンと同じ種がこのエリアにおり托卵の性質を持っているという事だが、それはほぼ無いだろう。卵のサイズでもあの鳥の卵の二倍近くあるのだから成体は軽く十メートルはあるに違いない。そんなモンスターがいたならば流石にレベルが違いすぎて話にならない。だが元の世界でもハナブトオオトカゲという巨大で木の上に暮らすトカゲがいた事からその可能性は否定できない。そして、他に可能性を考えるならば何かの突然変異でこの種が出来たかだ。何かの突然変異で出来たこの種をこの鳥が自分の巣に持ち帰った可能性もある。俺としてはこの説が強いと思う。色々説はあるにせよ謎が深いモンスターなのには間違い無い。後で戻った時にはジジイに聞いてみるか。そう考えている間に俺の息が大分整って来た。そろそろ、下りるか、、、それにしてもこのドラゴン、、、呼びにくいな、、、そうだ!名前を付けてやろう!
「お前に名前を付けてやろう」
「キュイ?」
ドラゴンの顔を見て言うとドラゴンは何?みたいな顔でキョトンとする。そうだな、、、青い鱗に、、、水魔法、、、エメラルドグリーンの綺麗な瞳、、、よし!決めた!
「アクア、、、お前の名前は今日からアクアだ!」
俺がそう呼ぶとアクアは
「キュイ?」
分かって無い顔で再びキョトンとする。
「そう言っても分かんないよな、、、まぁ、今日から宜しくな!」
そう和んだ雰囲気が流れ始めた時上の方から鳴き声が聞こえた。不味い!奴が来たか!そう、あの巨大な鳥が俺達を追いかけて来たのだ。
「ギィィィィイ!」
奴は俺達を逃す気は無い様だ。そして、
(ドン!)
「ぐっ!、、、っ!?」
気付くと俺は奴に蹴飛ばされ木の幹から離れていた。
「うわぁぁぁぁああ!、、、っ!?」
「キュイィィィィイ!」
そして、俺は空気中を物凄い速度で落下していき俺の目には俺に背を向けて満足気にアクアを鉤爪で掴み上空へと飛び去っていく巨大な鳥の姿が見えたのであった。